マーレーン・モーゼス氏はナウル共和国の国連常駐大使である。現在はニューヨークに在住している。
先月、私の祖国でもあり、国連加盟国のうち最も小さい国でもあるナウル共和国へ私は帰った。この島は、太平洋上の赤道付近、ハワイとオーストラリアの中間ほどに位置する。最も近い近隣国のバナバ島さえ東へ300キロと離れている。世界で最も地理的に孤立した国のひとつである。
私はこの時、地区の人々と現在の環境変動について話をしたが、ひどく悩ましい議論となった。島を取り囲む海の温度は上昇し、干ばつがよく起こり、海岸侵食はこれまでになく悪化している。
太平洋全域が似た傾向にあり、私たちが主食としている漁業資源、真水の供給、そして島そのものの存亡に関しても深刻な問題が起こりつつある。温暖化の原因である温室効果ガスが削減されない限り、状況は悪化するばかりだと専門家たちは警告している。
よって、わが国の政府も、太洋諸国の議長公認候補の順番がめぐってくる今年末に小島嶼国連合(AOSIS)の議長国となるにあたり、その重責を痛感している。
AOSISは、世界の島国や海抜の低い沿岸諸国43ヵ国による連合で、持続可能な発展や環境的不安などに関して同じような問題を抱えている。
グレナダのリーダーシップの下でAOSISは、私たちのような国々が確実に存続し続けられると専門家たちが言うレベルにまで排出ガスを削減するよう先進国に求め続けてきた。この行動は非常に重要である。大災害を避けるための対策をとる時間が限られているからだけではなく、率直に言えば、世界の経済大国は自分たちが環境問題を引き起こした張本人でありながら、問題解決に関してはそのリーダーシップに大いに問題があるからだ。
例えば、いまだに排出ガス削減に同意しない国もあれば、京都議定書が2012年に排出ガス削減の第一約束期間が終了した後は、その延長を拒否すると警告する国もある。
環境問題の責任が最も小さいにもかかわらず、その影響を最も大きく受ける国々が科学的一貫性を支えているのは皮肉なことに思えるかもしれない。しかし環境保全の歴史には、自分よりはるかに裕福で有力な企業や国々を相手に、頑として主張を譲らなかった人の数は尽きない。AOSISが、政治的なご都合主義と関係なく、必要なものは何かということに基づいて行動を起こしたのも、そういった立場に立つためだ。ナウル共和国が議長を務める来年も、この姿勢を貫くつもりだ。
同時に、国際社会はこの危機が私たちの手に負えなくなってしまわないよう、以下の分野において前進しなければならない。
第一に、京都議定書には第二約束期間を設定しなければならない。この同意は気候変動という複雑で深刻な世界的問題に対応するには、現在最良の法的拘束力であるといわねばならない。
第二に、温室効果ガス削減目標は、気候変動の最悪の影響を抑えるには、まったく十分とはいえない。実際、極域氷床が予測より早く減少しているため、海抜は1メートル以上上昇するかもしれないという研究がされており、そうなればニューヨークやロンドンなどの都市は深刻な洪水に見舞われ、私たちの太洋諸島の多くは水没してしまうだろう。
第三に、開発途上国はすぐに利用可能な気候関連基金を今度こそ創設すべきである。昨年のカンクン合意では2020年以降、途上国の気候変動対策とクリーンエネルギー源採用のため、年間1000億ドルを供与することなどが盛り込まれた。これは莫大な金額に思えるが、広い視野で見ると、世界最大の石油会社の2010年の収入のわずか3分の1程度だ。世界銀行は、途上国が他に干ばつ、洪水、海面上昇その他環境問題対策としてさらに同額程度必要であると見積もっている。しかし約束されたその金額がどのように配分されるかに関しては明確ではない。
私たちがいかに気候変動への解決策を見出すかは、優先順位の選択にかかっている。そして、誰を優先するかにもかかっている。金持ちか、貧しい人か。安泰に暮らす人々か、弱い立場の人々か。今の世代か、未来の世代か。
この決定のいかんにより、将来の世界が残り少ない資源をめぐって破滅的な争いを繰り広げるか、安定して増え続ける世界の繁栄を平等に共有していけるかが決まる。私たちは皆、つまるところは1つの島の住民といえる。この地球をどうしてゆくのか、そして人間同士がどのように行動するかが人類の運命を決定付けるのだ。
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この記事は2011年4月26日火曜日、guardian.co.ukで公表したものです。
翻訳:石原明子
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