多くの揺るぎない意見

「北極や小島に暮らす途上国の先住民たちが環境に及ぼす影響は少ないにもかかわらず、彼らが気候変動の矢面に立たされているというのは皮肉です」

こう語るのは、気候変動の影響を受ける世界中の先住民族コミュニティを繋ぐプログラム Many Strong Voices(MSV)(多くの揺るぎない意見)のコーディネーターを務めるイラン・ケルマン博士だ。

「MSVは、刺激的で力強く、かつ揺るぎない(先住民族の)意見をまとめ、国際的なロビー活動をするためのフォーラムを企画したり、メディアを通じて彼らの気候変動への取り組みを紹介し、意見交換や知識の開発に努めています」

MSVは、特に北極と小島嶼開発途上国(SIDS)のコミュニティと連携して活動している。

「彼らの意見を聞くと、実に似通っていることに驚かされます」とケルマン博士は語る。

「例えば、多くのコミュニティでは魚を生活の糧としています。しかし、気候変動のために海水温度や海流が変化し、魚群も移動してしまいます。移動してくる魚もいれば、よそへ移動する魚もいるでしょう。これは、何世紀もの間人々を支えてきた知識を新たに別の魚に転用させるのは難しいことを意味します」

先住民族に発言の機会を

MSVは、気候変動に関する国際会議において、先住民族との協議が不足していることを懸念している。
「彼らの知識は有用であるにもかかわらず、しばしば過小評価されています。彼らは自分たちの地域社会で何が起こっているかを把握しており、直面している課題やそれらの解決法についても理解しています」とケルマン氏は指摘する。

これは、パプアニューギニアやインドネシアをはじめとする国々で取材した我々のOur World 2.0のビデオでも明らかで、先住民コミュニティは草の根運動を通じ社会的な力を強めている。

カーテレット諸島の地域社会の指導者たちは、海面上昇により土地を追われた人々の移住計画について我々に語ってくれた。また、ボルネオのダヤック族が伝統的な自然保護の手法と近代的なやり方の両方を掛け合わせて彼らの森林を守っていることも、我々はビデオから学んだ。

これらのビデオと今後掲載予定である中央アジアの地域社会についてのビデオは、国連大学高等研究所の伝統的知識研究・研修センタ(TKI)と連携して製作された。TKIとは、「地域の経験に基づいたグローバルな視点から、先住民族や彼らの地域社会の伝統的知識についての研究を促進・強化」を目指している機関である。

先住民族が自らの気候変動に関する知識を発表し、また辺境の地で起こっている温暖化の影響についての意識を世界に広めるためには、地域社会と研究団体の連携が不可欠だ、とケルマン氏はいう。

MSVは、先住民が自らの体験を記録するための機会を提供するユネスコの地球温暖化最前線世界自然保護基金(WWF)の気候変動プログラムをはじめ、多くのNGOや国際機関の仕事を補完していると同氏は言う。

複合知識は力

気候環境研究センター (CICERO)の諸島と災害についての主任研究員であるケルマン氏は、先住民族に関する諸問題の熱心な提唱者でもある。

自身が科学者であり活動家でもあることを反映してか、彼は伝統的な知識と科学的な知識の両方を受け入れることができる、偏見にとらわれない建設的なマインドの持ち主だ。

「知識は与え、そして与えない。異なる分野の知識がもたらす効果の違いには驚かされます。例えば、地域社会が発する警告の多くや、何年もかけて環境から学び何世代にもわたり受け継がれてきた知識を、科学は完全に見過ごしていることに気づきました」

「しかし一方で、科学は衛星や飛行機からの遠隔測量を可能にし、何千何万年も昔の自然環境の姿や将来の未来像を示すことができるのです」

またケルマン氏は、カナダ北部のヌナブト準州にあるクライデ湾で、科学者たちが科学的知識と地元住民の伝統的知識の両方を適用し、気候変動や氷の条件により狩猟の季節とその手法を決める、という興味深い連携についても我々に語ってくれた。

「ある一つの知識を過小評価したり、また過大評価することなく、各々の知識にはプラス面マイナス面の両面があることを理解し、様々な知識を一緒に活用してゆくことが大切です」

コペンハーゲンに向けて

パートナーコンソーシアムとの協議に基づき、MSVは12月にコペンハーゲンで開催されるCOP15会議での具体的な成果を期待している。

「特に北極、小島嶼開発途上国のために、そして全世界のために先住民族が要求しているのは、温暖化ガス排出量の削減なのです」とケルマン氏は我々に語った。

さらに、彼らは気候変動に起因する課題に直接影響を受けている人々を支援する国際的な権限を模索している。
「彼ら(先住民族)は地球温暖化に対応するために、侵食している土地から建物を移動したり、変動する気候に生活を適応させたりしなければならず、特に資金面での外部支援が必要です」

このような外部支援は必要ではあるが、先住民族コミュニティは自力でこれらの対策をリードすることができ、またそうすべきである、とケルマン氏は繰り返し述べた。

「小規模、かつ、孤立したコミュニティは、その土地や住人について熟知しています。彼らは自らの知識や歴史的経験から、現在様々な変化が起こっていることに気づき、その対応策も知っています」

我々にできることは、気候変動会議で多くの、そして多様な先住民族の意見が強く届くよう、指導者に要求することである。

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多くの揺るぎない意見 by マーク・ノタラス is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

著者

マーク・ノタラスは2009年~2012年まで国連大学メディアセンターのOur World 2.0 のライター兼編集者であり、また国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)の研究員であった。オーストラリア国立大学とオスロのPeace Research Institute (PRIO) にて国際関係学(平和紛争分野を専攻)の修士号を取得し、2013年にはバンコクのChulalpngkorn 大学にてロータリーの平和フェローシップを修了している。現在彼は東ティモールのNGOでコミュニティーで行う農業や紛争解決のプロジェクトのアドバイザーとして活躍している。