ブレンダン・バレット
ロイヤルメルボルン工科大学ブレンダン・バレットは、東京にある国連大学サステイナビリティ高等研究所の客員研究員であり、ロイヤルメルボルン工科大学 (RMIT) の特別研究員である。民間部門、大学・研究機関、国際機関での職歴がある。ウェブと情報テクノロジーを駆使し、環境と人間安全保障の問題に関する情報伝達や講義、また研究をおこなっている。RMITに加わる前は、国連機関である国連環境計画と国連大学で、約20年にわたり勤務した。
映画「エイジ・オブ・ステューピッド」(愚かな時代)は必見だ。12月にコペンハーゲンで開かれる気候変動会議に先立って見ておくことをお勧めする。何か行動を起こそう、実体のある意欲的な政策を求ようという思いをかき立てられるからだ。この映画は地球を救うため今すぐ行動しなければいけないという警鐘を鳴らしているのだ。
今週のワールドプレミア上映でようやくこの映画を見ることができた。プレミアには50を超える国々が参加し、700以上の映画館で作品が上映された。
ニューヨークのメイン会場では様々な趣向が凝らされ、コフィ・アナン前国連事務総長、マリー・ロビンソン女史、女優ジリアン・アンダーソンなどの著名人、そしてフラニー・アームストロング監督らが顔をそろえた。アクション満載で賑やかなイベントとなったようだ。ウェブサイトのあちらこちらで、全気象条件対応型防災ウェアなるものの映像を目にしたが、皆さんもご自分の一着をお持ちであろうか。(以下の映像ご参照)
残念ながら日本でのプレミア上映は東京のみ。小規模の映画館ではチケットが売り切れるほどであったにもかかわらず、何もかも非常に地味であった。
「エイジ・オブ・ステューピッド」ウェブサイトの予告編をご覧になればわかるように、このすぐれた作品はピークをむかえた石油生産を描くドキュメンタリーでもあり、気候変動問題を取り上げたドキュメンタリーでもある。
映画に登場する中心人物の多くは何らかのかたちで石油とのかかわりがある。石油企業に勤めハリケーンカトリーナの被害で全てを失ったニューオーリンズの会社員。石油企業に荒らされ忘れ去られたコミュニティで医学を学ぶための学費を必死に稼ぐナイジェリアの若い女性。風力発電地域を開発するイギリス人。そして、石油をめぐる戦争で家族が犠牲となったイラクの2人の子どもたち。
彼らそれぞれのストーリー(誇張混じりで描写されてはいるが、実話)から放たれるメッセージ、それは一刻も早い化石燃料依存からの脱却だ。我々が目標とすべきは、温室効果ガス排出による温度の上昇を2℃以内に保つこと。そのためには今後5年ほどの間に排出量を劇的に低下させなければならない。これは他の映画(「不都合な真実」「The 11th Hour」など)でもすでに扱った気象科学の主流である。
しかし、「エイジ・オブ・ステューピッド」が他の映画と異なるのは、気候変動による破壊的被害を受けた後の地球が舞台となっている点にある。時は2055年、人類唯一の生存者となった活動家を演じる英国人俳優ピート・ポスルスウェイトーの語りでストーリーが進む。
作品の中でポスルスウェイトーは2055年以前の電子記録を眺め、地球が辿った災難への道とその状況下での人類の姿を回想する。映し出されるのは登場人物の実話(例えば、氷河が後退する様をその目で目撃したフレンチアルプスの82歳になるガイドの話)や異常気象を報じる実際のニュースだ。
この映画は二酸化炭素を排出し放題にした愚行を説教じみることなく巧妙に描いた瞑想録となっている。顧客満足、企業欲、地政学的戦争挑発、資源略奪など、あまりにも身近な実例が取り上げられ、道義心が完全に目を覚ます。世界の1人当たりの炭素排出割当量については面白いほどにシンプルなアニメーションを用いて提議されており、説得力がある。
作品の主旨にも仰天だが、映画の製作、メッセージ伝達、配給方法にも驚きの成果が上がった。
「エイジ・オブ・ステューピッド」は何百人もの一般市民や多くの団体から寄せられた寄付をその資金にしており、集まった額はこれまでに860,000ポンド(1,370,404ドル)にものぼる。これを「crowd funding」(一般大衆による資金援助)とよぶ。
その資金のうち180,000ポンド(287,000ドル)は、9月21-22日に行われたワールドプレミアに注入された。「スターウォーズ」が築いた“史上最大級のプレミア”の記録を塗り替えるべく、世界各地の上映会場を衛星でつないだのだ。これだけ大掛かりな規模でこのような手法が使われたのは初めて。ましてや、これは独立系映画制作者の作品なのである。この流れは、これからの映画制作に変化をもたらすかもしれない。ハリウッドよ、その座をゆずってもらおうではないか。
2009年5月以降、イギリスではインディー スクリーニングという方法での上映が推進されてきた。10月からはこの上映スタイルが世界に発信される。
お住まいの国で「エイジ・オブ・ステューピッド」を上映している映画館が見つからなければ、1ヶ月間オンラインで無料鑑賞できる(詳細はまだ明らかではないが)。もしくは、DVDを予約することも可能だ。(2009年10月19日リリース)
愚か者チーム(これが彼らの名称。私が名付けたのではない)の皆さんがさらにお見事なのは、多くの人々にアクセスするためブログ、Twitter、フェイスブックなど様々なコミュニケーションツールを活用したことだ。作品のウェブサイトから早速チェックしてみてはどうか。
作品の後半にガーディアン紙の人気コラムニスト、ジョージ・モンビオット氏が登場し、行動主義こそ本当の変化をもたらすカギになるのだと論じる。まるで婦人参政権運動や公民権運動など、過去に何度も目にしたような光景だ。
しかし、二酸化炭素排出量削減(2010年までに10%の削減-10:10プロジェクト記事ご参照)に即とりかかり、我々の生活を今この場から変えていく力を与えてくれる。
この映画のように、地球規模の努力と行動をおこさなければどのような結末になるのかを人々に認識させることで、世界を低炭素社会にシフトさせることができればと強く願う。
環境問題を扱った映画はこれまでにも沢山見てきた。しかし、「エイジ・オブ・ステューピッド」がそれらと異なるのは、作品を見終わって映画館を後にしたとき、前向きな気持ちで自身の生活をこれからどのように変えていこうかと熱く考えている自分がいたことだ。つまり、この映画は見た人に行動を起こさせる強いモチベーションとしての役割を「エイジ・オブ・ステューピッド」はうまく果たしている。作品で流れたシーンや概念は映画を見た人のなかに長く残るのだ。
この映画はまた、環境保護主義者が利口になり新たな段階への第一歩を踏み出すことを意味するのかもしれない。それが「エイジ・オブ・ステューピッド」の成功を評価する目安ではないだろうか。彼らは、主張をアピールし、科学知識を分かち合い、低酸素社会へのシフトをもたらすための手段として、我々がかかえる問題の根本的原因(広告、マーケティング、大量消費)と思われる要素を利用するのだ。
「スターウォーズ」の記録を塗り替えるという話題がでたが、これまでの環境保護主義とその失敗の数々も塗り替えていかなければならない。
それでは最後に、デリック・ジェンセン氏によるプレゼンテーション「もしも環境保護主義者が「スターウォーズ」を製作したら」(以下映像ご参照)、でこの記事をしめくくりたい。
翻訳:浜井華子
スター・ウォーズを超える傑作:「エイジ・オブ・ステューピッド」 by ブレンダン・バレット is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.