EVは気候危機を解決し、途上国にチャンスをもたらすか?

電気自動車(EV)は、道路輸送の脱炭素化やネットゼロ・アジェンダに大きく貢献し、気候危機の解決に資するだろうと、確信をもって期待されている。しかし、ベン・ジョーンズが最近、国連大学世界開発経済研究所(UNU-WIDER)のWIDERワーキングペーパーで指摘したように、各種鉱物やレアメタルの世界的供給が急増することが、大前提となる。このことは鉱物資源に恵まれた国々(その多くは低開発国)に新たな可能性を開くものである。

こうした見通しについて、私はUNU-WIDERの元首席エコノミストであるトニー・アディソンとともに、2021年に開催された採取産業に関する国連ハイレベル・ラウンドテーブル・シリーズにおいて解説した。同イベントは、全大陸の多くの重要なステークホルダーに対し、私たちの考えを伝える機会となった。ここでは(また、関連するブログにおいて)、これらの議論の中心となったチャンスとリスクについて説明する。

障壁とリスク

交通・輸送の将来を担うものとして、EVに対する期待はますます高まっている。国際エネルギー機関(IEA)の報告書によれば、2022年の時点で約1,650万台のEVが世界中の道路を走っていた。その数は2040年までに7倍に膨らむと予測される。全世界の年間販売台数も、2030年までの間に250万台から3,000万台に増える可能性がある。

しかし、これに疑問を持つ人もいる。そして、彼らの疑問には一定の根拠がある。

複数の複雑な要因が絡み合い、EVがもたらすはずのメリットが損なわれかねないのだ。各国(特に開発途上の国々)が巨額の投資を行う前に、これらのリスクについて、慎重な検討が必要だ。

第一に、身近な場所に十分な数の充電拠点を設置するには、多大なコストがかかる。電気にアクセスできる人口の割合が低い国々においては、なおさらだ(電力アクセスの割合が40パーセント未満という国も珍しくない)。第二に、バッテリーの寿命について、また交換やリサイクルにかかる費用、技術的課題について、不明な点がいくつもある。第三に、EV技術の複雑さや、従来の内燃エンジン(ICE)を専門としてきた整備士らの再教育という課題も検討しなければならない。第四に、EVは重いバッテリーを搭載しているためガソリン車に比べて重量が大きいが、このことは既に道路インフラ整備に苦労している低所得国にとって、とりわけ大きな懸念点である。

最後に、特に人口が最も多いインドや中国について言えることだが、石炭を燃やして発電した電力でEVを充電しても、二酸化炭素排出量は、あまり削減されない。

チャンス

これらのリスクはあるとしても、いくつかの開発途上国には、EV革命から利益を得るチャンスがある。しかしそれは、主にEV生産に必須の鉱物資源の供給国としてであって、EVの消費者や利用者としてではない。

実際、クリーン・エネルギーへの移行に大量に必要となる金属は、世界的に見ると大部分が低所得国に埋蔵されている。例えば、リチウムは68パーセント、マンガンは47パーセント、ニッケルは34パーセント、プラチナは40パーセント、チタンは70パーセント、亜鉛は41パーセント、銅は46パーセント、コバルトは68パーセントが低所得国に存在する。

エリックソンとレーフは、最近のWIDERワーキングペーパーにおいて、これらを含む金属資源を活用できる潜在力を有する低所得国40カ国をあげている。さらに詳しく知りたい人には、この潜在力について詳細に分析した彼らの研究を読むことを勧める。

しかしながら、EVが開発途上国にもたらす潜在力を現実のものにするのは、決して容易ではない。EVから利益を得ようとする開発途上国が抱えるリスクには、次のようなものがあげられる:

資源に恵まれた開発途上国への追加の忠告

重要な鉱物資源がただ存在するだけで、国内での高付加価値化のために加工や精製などのダウンストリーム(下流部門)に巨額の投資をすべきだと考えるのは、一般的な政治的思考である。しかしこのような考え方は、深刻な誤りを引き起こす可能性がある。国内で存続可能な加工・精製産業を構築することに内在する諸問題は、経験により確認されている。どの開発途上国も、いずれかの重要鉱物に恵まれているからといって、その鉱物を基盤とした商業的に持続可能な産業が必ず成長するとたかを括るわけにはいかない。関連するブログでは、極めて豊富なリチウム資源を活用して利益を得ようとしたボリビアの例をあげ、国内での高付加価値化に際し直面する課題について、詳細な検討を行った。

開発途上国の潜在力活用のための戦略

既に採掘資源に大きく依存している低・中所得国の多くは、これらの資源の価格や、これらの資源が取引される市場が内在的に抱える不安定性に対応することが、いかに難しいかを学んでいる。上述のエリックソンとレーフによるUNU-WIDERワーキングペーパーでは、これらの国々の多くが、世界的なエネルギー移行で生まれる新たな需要に対応し、採掘量を大幅に増やす潜在力を有していることを確認している。しかしながら、上述のような理由もあって、増産により直面することになる不確実性は、おそらく、これまでに経験したよりも、さらに激烈なものになるだろう。

どんな戦略が、不確実性への対応に有効か?

二つの提案をしたい。一つ目は、しっかりとしたエビデンスに基づいて行動することであり、これは極めて重要なことだ。鉱物資源に関する質の高いデータが必要となる。埋蔵量だけでなく、市場性のある品質かどうか、商業的に実行可能か、どの程度の価格で売れるかなどである。そのようなデータを裏付けるための地質学的記録は、エビデンスに基づいた行動をとるための第一歩に過ぎない。すべての潜在的供給国は、EVの世界的な普及状況について、そして競合するすべての供給国の状況について、十分な情報を得る必要がある。

二つ目の提案は、市場やその不確実性について深く認識し、その認識を常に更新し続け、それに基づく、しっかりとした根拠のあるマクロ経済的予測を維持することである。例えば、短期的には高値が付き、将来の需要見通しが楽観的な時に、鉱業生産物にかける税率を引き上げることには注意する必要がある。市場の変化は急速だ。現在は競争で優位な立場にあっても、その立場はいとも容易く崩れ去るのだ。

•••

本記事は国連大学世界開発経済研究所(UNU-WIDER)のウェブサイトに最初に掲載されました。

著者