世界中に普及する電気自動車

「電気自動車」というと、我々は将来エコな時代が到来した時の、遠い未来の乗り物だと思いがちだ。しかし実際には、電気自動車はすでに存在し、世界中で日常的に使用されている。

これまでモーターショーの試作品にすぎなかった電気自動車だが、近年、購入が可能となった。試乗してみて、気に入ったら購入し、乗って、二酸化炭素を全く排出せずに家に帰ることができるのだ。

革新者が道を切り開く

興味深いことに、電気自動車の生産・販売に乗り出しているのは、大自動車会社ではなく、小規模な新会社だ。

元ラリードライバーの高岡祥郎氏は、電気自動車の小会社を経営している。スバルのドライバーとして海外で活躍してきた高岡氏が、初めて電気自動車に出会ったのは遠征先のイタリアだった。

「フィレンツェでは、ガソリン車は町の中心部に入れないが、電気自動車なら入れるのです。そこで電気自動車をレンタルしたのが、私が最初に電気自動車を運転した経験です」と、高岡氏は語る。

この経験に強い感銘を受けた高岡氏は、カーレースから引退した後に、環境保護に役立ちたいと電気自動車の製造をはじめた。

高岡氏の努力の結果、ツーシーターの色鮮やかなジラソーレが完成した。ジラソーレはイタリア語で「ひまわり」を意味し、高岡氏が以前フィレンツェ郊外で目にしたひまわり畑にちなんでつけたものだ。2007年の販売開始以来、すでに100台近くが売れた。ジラソーレは、日本初の商業化された実用的な電気自動車だ。

グローバルトレンド

現在、我々が入手できる電気自動車は、ジラソーレだけにとどまらない。カナダの電気自動車メーカーZENN(ゼロ・エミッション、ノー・ノイズの略称)は廃棄ガスゼロ、騒音ゼロという利点を誇る。また、中国ではマイルズ・カー(米国で設計、中国で製造)、ノルウェーではバディ、インドではレバが市場に出回っている。

これらの電気自動車の原理はどれも同じだが、主な違いはバッテリーにある。ジラソーレのような最新型で高性能の電気自動車は、ラップトップ型コンピュータと同様に、リチウムイオンバッテリーを搭載している。これを使用することで、ジラソーレは最高時速65キロで120キロの距離を走行することができる。しかし、リチウムイオンバッテリーは、他のバッテリー技術に比べ、割高となっているため、電気自動車の設計では、性能とコストを微妙に調整しなければならない。

また、ロンドンではインド製のG-Wiz電気自動車が注目を集めている。ロンドン渋滞税(ロンドン中心部に車を乗り入れる際に課金される制度)の免除という優遇を受けることができることも、普及の原因と考えられる。その他にも、様々な国や自治体で電気自動車の普及が促進されている。例えば、スイスでは電気自動車の駐車と充電が無料で行うことができる。

高岡氏は「日本が本格的に電気自動車の普及に乗り出したら、諸外国の普及率を容易に上回るだろう」と語る。日本政府は電気自動車購入者に、70万円の助成金を給付しており、その他の都道府県や市町村でも補助金を出すところが増えてきている。

日本における地方自治体の援助

神奈川県は、国内でももっとも前衛的な取り組みをしている自治体の一つだ。2009年3月から、30万円の助成金給付を開始することとなっており、これにより電気自動車が手に入りやすくなるだろう。

神奈川県は、2014年までに県内に3,000台の電気自動車を普及させようと計画を進めている。電気自動車普及のため、助成金、減税、駐車料金と高速料金の減額などの案が盛り込まれている。2010年までに急速充電器を30か所に設け、充電インフラの拡大を目指す。また、2014年までに、100V、200V対応の充電コンセントを県内に1,000か所に設ける予定だ。

今後に向けて

電気自動車は、救世主なのだろうか?批評家の中には、現段階はまだ中間点で、最終的には水素燃料電池車に移行するという人もいる。しかし高岡氏は、この意見に賛同しない。「水素技術の開発は、高コストで時間もかかるが、電気コンセントなら一般家庭にすでにあるものだ。電気自動車開発に要する技術はシンプルなので、新しい会社も容易に参入できる」と指摘する。

また、電気自動車は、走行中は排出ガスをださない、電力を使用するため、エネルギー源によっては環境へ負荷を与えることもある、と指摘する批評家もいる。実際、発電所から一般家庭に送電する間にも、多量のエネルギー損失が生じている。

出典:資源エネルギー庁

日本は世界でもっともエネルギー効率の良い国で、原子力、石油、石炭、天然ガス(図を参照)のいずれかがエネルギー源となっている。仮に、電気自動車用の電力発電に化石燃料を用いたとしても、ガソリン車よりも二酸化炭素排出量が少ないのは確実だ。自動車の内燃エンジンに比べ、発電所は、より汚染が少なく効率も良いためだ。配電網がよりクリーンになり、無駄が減少し、さらに代替エネルギーの生産が増加すれば、電気自動車が環境にもたらす利点はより多くなる。

今後2年間は、この新しい電気自動車産業と、世界中の車ファンにとって胸躍る時になりそうだ。大自動車会社は、新モデルを次々に発売する予定だ。三菱はiMiev, スバルはR1e, トヨタはプラグイン・ハイブリッドカー、また米国ではChevy Voltが発売される。

今後、ジラソーレのような電気自動車が、数多く出回ることが期待されている。国連大学では、今後もその様子を報告していきたい。

リンク:

電気自動車普及のための神奈川県の取り組み
http://www.pref.kanagawa.jp/osirase/taikisuisitu/car/04ev/0411/housaku-eiyaku.pdf

http://www.pref.kanagawa.jp/osirase/taikisuisitu/car/04ev/0421/080728/siryou1.pdf

ジラソーレへの助成金

その他電気自動車のサイト

http://www.goingreen.co.uk

http://www.zenncars.com/

http://www.milesev.com

「誰が電気自動車を殺したか?」(原題:Who Killed the Electric Car?)(ビデオドキュメンタリー)

フランスにおける電気自動車普及への取り組み(フランス語)

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著者

2002年より国連大学メディアスタジオに勤務。環境問題に関するビデオドキュメンタリーやオンラインメディアの制作を担当している。