ガブリエラ・フェルナンドは、国連大学グローバルヘルス研究所(UNU-IIGH)の博士研究員です。
世界の最貧困地域に暮らす女性や少女たちは、温暖化への寄与度が最も少ないにもかかわらず、壊滅的な気候変動の影響を不当に強く受けている。
気候変動の影響は多くの場合、社会経済的状況、環境、そして女性と少女たちの健康、特に性と生殖に関する健康と権利(SRHR)を悪化させる。しかし、気候変動への適応策では、女性や少女たちのSRHRのニーズが優先されていない。
現在、グローバル・サウスの女性や少女たちは、SRHRサービスへのアクセスが制限されている上に、気候変動のリスクに不当にさらされるという二重の不公平に直面している。
例えば、異常気象は食料不安への脆弱性や、感染症やベクター媒介性疾患に対する脆弱性を高め、さらには気象災害によるインフラ損傷によって産前健診などの必須サービスが中断されることによって、母子保健に重大な影響が出ている。
水位が上昇しているアジア太平洋地域では、妊娠期の生理学的変化によって、妊婦のマラリア感染リスクが高まっている。このことは早産や死産、低出生体重児が増えていることとの関連性も指摘されている。
気候変動に伴う地理的孤立や移住は、ジェンダーに起因する暴力や性的暴力のリスクを高め、既に不十分なSRHRサービスへのアクセスが更に妨げられている。この傾向が特に顕著な南スーダンやイエメンでは、干ばつや洪水など気候危機の影響が、飢餓や紛争といった人道危機を悪化させている。
こうしたことの結果、女性と少女たちのSRHRに深刻な影響が出ており、家族計画や産前健診が中断され、女性や少女に対する性的暴力の発生が増えている。
さらに、気候変動ショックが引き起こす経済的な困難によって、少女たちが学校を中退する可能性が高くなり、児童婚や10代の妊娠、女性と少女たちの性的人身売買につながっている。例えばウガンダでは、家畜の喪失や穀物の不作、異常な干ばつや害虫の襲来に起因する食料不安により学校の中退が増加し、少女たちの強制労働の慣習を助長し、食料と引き換えに児童婚を強いる事例が増加していることが判明した。
気候危機において、性と生殖に関する健康(SRH)のためのリソースが災害対応に突然流用され、効率的なSRHサービスの提供にさらなる支障が出るのを目の当たりにしてきた。
現在の新型コロナウイルス感染症の世界的流行(パンデミック)では、特に保健システムのリソースが少ない地域において、パンデミックによる負荷が気候危機の影響と重なり、日常的に必要となるSRHサービスから資金やリソースが流用されるという傾向がさらに顕著になった。
パンデミック中に避妊具などのSRHサービスへの需要は増加したが、女性や少女たちにとって、家族計画支援サービスや専門技能者による分娩介助、産前健診などを利用する障壁はさらに増大したことが明らかになった。
さらに、SRH関連の重要なプログラムや介入策がパンデミックによって中断された結果、女性器切除(FGM)、児童婚、妊娠の割合が増加する結果となった。
このような証拠があるにもかかわらず、気候変動適応・緩和策にSRHRのニーズを組み入れるための議論はほとんどなされず、対策も遅れている。このような関心の欠如が、SRHRの推進において将来的に大きな後退を招き、特に最も貧しく脆弱な女性と少女たちにとって、ジェンダー平等において苦労して獲得した成果が部分的に覆されることは免れないだろう。
課題は明確だ:女性と少女の生殖に関する健康と権利の強化なしに、持続可能な気候変動への介入や適応策は実現し得ない。したがって、パンデミックからの復興と気候危機への対処という重要な岐路に立つ今、問題に共同で取り組むための道筋を模索することが重要だ。以下は鍵となるいくつかの提言である。
アフリカ50カ国の「自国が決定する貢献(NDC)」を分析した国連人口基金の報告書によれば、気候変動適応戦略においてSRHRに言及した国はわずか9カ国だった。気候変動とSRHRの接点という要素の欠如や、リスク管理計画に関する議論の不足は懸念材料である。
まずは、災害前、災害時、災害後のSRHRサービスへのアクセスを強化するために、各国や機関のこれまでの取り組みにおけるグッドプラクティスを文書化することによって、より積極的なアプローチを始めることができる。
こうして文書化されたベストプラクティスは、気候変動下で女性のSRHRを支援するための地域や国の介入策を改善していく上で、指針となる。また、気候変動対応に取り組む主な当事者と、SRHRに取り組む当事者との対話は、保健プログラムにおいてジェンダー平等を推進するための教訓や、苦労して獲得した解決策を共有する貴重な機会となる。
この点に関連して、国連大学グローバルヘルス研究所 (UNU-IIGH)のジェンダーと保健に関するハブは第66回国連女性の地位委員会 (CSW66)において、SRHR分野の教訓を気候変動対応に応用することに焦点を当てたサイドイベントを開催する予定だ。
気候変動緩和のための取り組みのほとんどは、人口増加の抑制と気候変動の結果の改善とを関連付ける証拠を根拠に、ウィンウィンのアプローチとして家族計画を推奨している。このアプローチは問題をはらみ、短絡的である。まず、地球温暖化の最大の原因であるグローバル・ノースから、グローバル・サウスの女性たちに責任転嫁し、生殖抑制を強調する点で問題がある。
さらに、権力構造やアクセスの問題、交差性、貧弱な医療システムなど脆弱性の根本的な要因であり、女性のSRH向上と気候変動に対する強靭化を阻む大きな障壁となっているが、この点が検討されておらず、問題を単純化しすぎている。
したがって、気候変動適応戦略の一環として、生殖抑制から、脆弱な女性や少女のSRHR分野での成果獲得に焦点を移す必要がある。そこには、保健システムを強化し、気候変動ショックによって悪化し得る他のSRHRの脆弱性(女性器切除や児童婚など)を減らすことも含まれる。
多様な文化的・民族的背景やアイデンティティを持つ女性や少女たちは、主要な当事者として認識され、あらゆるレベルの社会的脆弱性に対処する気候変動適応戦略の策定において重要な役割を与えられる必要がある。
また、フェミニスト団体や権利擁護団体、女性主導のコミュニティグループとの対等なパートナーシップや協議も、啓発を促し、介入策を受け入れやすくし、脆弱な女性(障害を持つ女性など)へのリーチを拡大するために重要だ。これにより、災害管理計画において生殖に関する健康のニーズが確実に考慮され、満たされるようになる。
緊急時にSRHRからリソースを流用するという「ゼロサム」ゲームから脱却し、気候変動ショックが発生した際にSRHサービスを強化することで生じる相互利益を見出す必要がある。
そのためには、SRHプログラムの規模拡大のための公共支出を増やし、経済的な負担を軽減し、生殖に関する保健システムの能力構築によりSRHサービスを効果的に維持し、気候変動ショックの際にタイムリーな対応を実施することが必要だ。
女性や少女たちは、気候変動ショックとSRHサービスへのアクセスの両面において、より脆弱な立場に立たされている。SRHRに関してはまだ満たされていないニーズが多いが、気候変動の悪影響はこの状況を更に悪化させている。
女性の権利が人権であることを認識した上で、持続可能な未来を実現して誰一人取り残されないようにするためには、女性の生殖に関する健康の強化と、気候変動への強靭性の強化で、共通のアジェンダを掲げる必要がある。
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この記事は、最初に Inter Press Service News に掲載されました。元の記事はこちらからご覧ください