テンダイ・ブルーム氏は、バルセロナの国連大学グローバリゼーション・文化・モビリティ研究所(UNU-GCM)のリサーチフェローであり、また最近始動した国連大学の移住ネットワークのメンバーでもある。市民権を持たないことの意味を研究対象の重点に置く、法的政治理論学者である。
今年は国際移住政策にとって重要な時期である。2013年後半に開催された第2回国際的な人の移動と開発に関する国連ハイレベル対話と、現在進行中の ポスト2015年持続可能な開発目標(SDGs)の策定に挟まれた時期である。
そのような状況において、2014年2月20~21日に開催された第12回Coordination Meeting on International Migration(国際移住に関する調整会議)は特に意義深いものだった。国連経済社会局(UNDESA)の主催によりニューヨークで開催された今年の会議には、さまざまな分野の主要関係者が参加した。私は国連大学(UNU)を代表して参加し、新しいUNU移住ネットワークと、同ネットワークの主要研究所として新設された国連大学グローバリゼーション・文化・モビリティ研究所(UNU-GCM)を紹介する機会を得た。
国際移住政策にとって2014年が重要である根拠は、3つの主要なイベントにある。第1に、前述の2013年10月に開催された第2回国際的な人の移動と開発に関する国連ハイレベル対話だ。第1回ハイレベル対話から7年後となった昨年の対話は、国際社会の移住に関する議論を一層激しく活性化した。実際、この会合では、国連加盟諸国だけではなく、移住分野の関係者の間に多くの意見の一致があることが明らかになった。その結果、(メキシコに促されて)加盟諸国は、 宣言を作成し、移住者の状況改善への有意義な宣誓を行った。宣言には、ポスト2015年開発アジェンダに移住を統合する意図が含まれている。
次の2つの文書も言及する価値がある。Secretary-General’s Eight-Point Agenda for Action(国連事務総長による行動のための8つの議案)と、5年間で達成すべき8つの主要目標を提唱する世界の市民社会による文書だ。移住問題に関係する国際社会(国連加盟諸国、市民社会組織や国際組織の関係者を含む)が、上記の宣言や文書に示された善意を確実に実現するためには、今後の課題は多い。
第2の主要なイベントは、2015年の ミレニアム開発目標(MDGs)の成就と、それ以降の一連の目標の最終計画を合わせたものだ。MDGsは2000年の国連総会で採択されたミレニアム宣言から誕生した、世界の開発に関する8つの目標である。2015年、それらの目標が達成されたかどうかを評価によって決定し、国際社会は新たな目標、すなわち持続可能な開発目標(SDGs)を開始する。2013年10月のハイレベル対話で加盟諸国は、移住と開発への重要性がSDGsに反映されるべきであるという点で合意した。しかし、どのように反映させるべきかが論点となっている。
先月の調整会議では、2つの主要な戦略的方法が提案された。1つは、移住に特化した独立型の目標を創出する方法であり、もう1つは移住を他の目標全体に系統的に統合する方法である。移住と開発のどの側面を取り込むべきかについて、広範な理解があることも明らかだった。
ある人々にとっては、移住者と移住が国の開発に供する貢献が重要であり、SDGsはこの点を反映し、促進すべきだろう。また他の人々にとっては、移住者の人間開発を優先的に目標に掲げ、移住者やその家族やコミュニティの人権を特定的に保護することの方が重要である。2013年に発表されたポスト2015年開発アジェンダに関する有識者ハイレベル・パネルの報告書は、開発にとっての移住の重要性をすでに尊重している。とはいえ、SDGプロセスに関連深い55項目の中に移住がまだに取り上げられていない点は特記に値する(この55項目はRIO+20で採択された成果文書『私たちが望む未来』から生まれたもので、アジェンダ21や持続可能な開発委員会からの要素も含む)。SDGsの内容はいずれオープン・ワーキング・グループによって提案される予定だ。同グループのウェブサイトで発表される文書を通して、討議の進捗を追うことが可能だ。
ここで言及しておくべき第3の重要なイベントは、今年開催される移住と開発に関するグローバル・フォーラム(GFMD )である。2006年の第1回ハイレベル対話で、当時の事務総長だったコフィ・アナン氏は、加盟諸国が移住政策の優れた実践を共有するために、より定期的で非公式なプロセスの立ち上げを支持した。それ以来、6回のGFMDが開催され、毎回異なる国がホスト国を務めてきた。これまでのホスト国は、ベルギー(2007年)、フィリピン(2008年)、ギリシャ(2009年)、メキシコ(2010年)、スイス(2011年)、モーリシャス(2012年)だ。次回は2014年5月にスウェーデンで開催される。
毎回、ホスト国がテーマを指定し、これまでにフォーラムの構成は若干変化してきた。参加させるステークホルダーの種類や、ステークホルダーが会期のどの段階で参加するのかという点で変化が見られる。例えば、2010年のメキシコは他の開催国と比べて、市民社会に参加の自律性を任せていた。今年のホスト国であるスウェーデンは、市民社会と加盟諸国の間で共有される時間を延長した。
スウェーデンは(他のホスト国と同様に)地方自治体やビジネス界の代表者を議論に参加させるために特別な努力を費やしてきた。そのことが5月の開催時にどんな影響を及ぼすのか興味深い。
2月の調整会議の参加者は、対応すべき主要な課題を認めた。本節では、課題の一部を簡単に概観する。より詳しい情報は、調整会議の公式サイトのリンク先でご覧いただける。
国際移住担当の国連事務総長特別代表、ピーター・サザーランド氏は、移住と国の開発に関連した全般的懸念を表明し、「移住者は、私たちが怠慢によって浪費している自然資源です」と述べた。彼は「移住は、貧困に取り組むための最も速く、最も強力な解決策の1つです」と論じ、それゆえに、移住者の送金費用を削減する努力を継続していくことが極めて重要であると結論付けた。
上記の行動が必要であることについては総じて合意が見られたが、国などが背負うべき開発義務を移住者に負わせることを期待すべきではないと懸念する声もあった。実際、2014年2月20日に市民団体のPeople’s Global Action(ピープルズ・グローバル・アクション)が開催したサイドイベントでは、送金と同時に、借金返済のようなその他の資本の流れについても検討すべきだという意見が出された。調整会議では多くの人々が、通常の職場での権利に加えて、年金や財産の移送可能性を含む移住者の労働の権利の重要性を強調した。
コロンビア大学のマイケル・ドイル教授は、この問題をさらに深く掘り下げた。彼は「パートナーシップ目標の一環として移住を検討する余地は確かにある」と論じる一方で、それと同時に移住者自体に注目することや、移住者の権利が開発アジェンダの中心に据えることは極めて重要であるとした。この意見は、ドイル教授よりも先に発言したバングラデシュの代表者のコメントと同様である。
10月のハイレベル対話で人権問題が広く取り入れられたことは注目されているが、調整会議でUNDESAのBela Hovy(ベラ・ホーヴィ)氏は、この点に関して興味深いデータを提示した。例えば彼は、ステートメントの中で人権に言及している国の代表団の数が多い点を考察した。ステートメントへの人権の包括は、2006年のハイレベル対話からの変化だが、実際のアジェンダにどのように人権を含めるか、また人権をどのように理解するかについては、いまだ検討中である。
移住者の権利には労働の権利が含まれる一方で、移住者が体験した特定の権利侵害について懸念が示された。中でも極めて重要なのは、違法な売買行為に関連した権利侵害である。この分野でのマンデートを有する国連薬物犯罪事務所の代表者は、取引業者や密輸業者の追跡と有罪判決に進歩があったと説明する一方で、今後取り組むべき課題は山のようにあるとも述べた。国連人権高等弁務官事務所の移住者の権利に関する特別報告者であるフランソワ・クレポウ氏は、違法行為に対抗する同事務所の取り組みを称賛しながらも、違法売買と密輸の融合に関する懸念を表明した。この懸念について、彼はハイレベル対話においても述べていた。また、特に脆弱な移住者の保護についての言及もあり、元の場所にいる移住者のニーズだけではなく、移動中の移住者のニーズが強調された。この論点は、国連難民高等弁務官事務所と同事務所が関心を寄せる人々を背景として、NGO Committee on Migration(移住に関するNGO委員会)が論じたポイントだ。女性と子供の移住者のニーズについては、特に国連児童基金(UNICEF)とUN Women(ユー・エヌ・ウイメン)などが言及した。
方法論的問題も取り上げられた。例えば、メキシコ大使は、移住政策の開発におけるNGOの重要性を認識する必要性に言及した。さらに数人のスピーカーは、世界の移住を理解するために、伝統的な量的アプローチと共に質的調査のより広い活用を含む、さまざまな種類のデータとデータ収集に注目する必要性を認めた。また彼らは、移住と開発に関する有益な指標をSDGsの体系に組み入れることの重要性を強調した。その一方で、移住に関する比較データの不足が認められ、それを改善し、将来的な指標に役立てなければならないことが認識されていた。より優れたデータ収集と分析が、事務総長の求める一種のエビデンス・ベースの政策決定を支えるという点で、全体的に合意を得られた。
UNUは上記のプロセスに以前から関わっており、本稿で考察してきた関連分野のいずれにおいても重要な研究を行っている。UNUの各研究所は主要報告書や資料や介入活動を提供しており、UNU-GCMは今年のGFMDに1人の専門家を送る予定だ。UNU-GCM(UNU移住研究ネットワークの中心的研究所)の創設ディレクターであるパルヴァティ・ナイアー教授が、移住に関連した権利向上についてスピーチを行う。
第12回調整会議でのUNUの口頭発表は、UNU移住ネットワークの新たな特定能力を浮き彫りにした。その能力とは、方法論的な専門技術やその他の技能を、政策立案者が必要とするエビデンス・ベースの開発に幅広く提供する能力である。実際、調整会議の出席者たちは、こうしたUNUの長所、とりわけ新たに設立されたUNU移住ネットワークの長所を高く評価していた。移住と開発に関連したエビデンス・ベースの政策決定に対して、UNUがその長所をさらに生かし続けることが期待されている。
創立以来、UNUは国連システムと学究界をつなぐ橋として機能することを目指してきた。2者間でのやり取りは双方向に行われるべきであり、実際にそのように行われている。しかし、UNUが貢献できるもう1つの側面がある。UNU-GCMは国連や政府主導のプロセスに関与する一方で、国際的な市民社会プロセスにも関わっている。こうしたさまざまな議論の場との関係に関する報告書は、数カ月以内にUNU-GCMのウェブサイトでご覧いただけるようになる予定だ。
翻訳:髙﨑文子
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