森林デー:公正な炭素市場を求めて

森林は地球の陸地の31%を占める。ある人々にとって森林はインスピレーションである。その美しさと神秘は、物語や芸術や想像の世界の中で称賛されている。一方、世界人口の大きな部分を占める人々にとって、森林の重要性はもっと明白である。16億人の人々が生計を森林に頼っているのだ。

貧困の根絶と食料安全保障において森林が担う極めて重要な役割を強調するため、国際森林デーは毎年3月21日に開催される。森林は、気候変動に適応し緩和する私たちの闘いの鍵であり、世界の淡水の75%を供給する流域を守る。こうした森林の特性にもかかわらず、森林破壊は悲惨な速さで進行し続けている。 国連によれば、年間1300ヘクタールの森林が破壊されている。

森林破壊を食い止める道具として「炭素市場」を活用しようとする勢いが世界的に増す中、森林の持続可能な管理と、森林に依存する先住民族や地域住民の権利は、広く開かれた議論で取り上げるべき絶好のテーマである。実際、Rights and Resources Initiative(権利と資源イニシアティブ、RRI)による新たな調査は説得力を持つ。RRIは、森林地の保有制度と政策改革を推進し、地域の開発ニーズを反映させて地域社会の暮らしを支援する方向に森林経済を変革することに力を注ぐ組織の連携組織だ。この調査はフィリピンのAteneo School of Government(アテネオ・デ・マニラ大学政治学科)との共同で行われ、今週、多国間組織、政府、市民社会組織、民間部門を含む国際対話で発表された。調査は、森林炭素市場における先住民族と地域社会のためのセーフガードと法的保護は「存在しない」ことを明らかにしている。

ラテンアメリカ、アジア、アフリカでの調査の一環として調査対象となった低所得層および中所得層の23カ国(そのすべてを合わせると開発途上諸国の森林の66%を占める)のうち、21カ国は、国連による森林減少・劣化からの温室効果ガス排出削減(UN-REDD)あるいは世界銀行の森林炭素パートナーシップ基金の加盟国である。その一例であるブラジルはノルウェーとの間で10億USドルのREDD合意を取り付けている。インドは本調査で唯一のREDD非加盟国である。REDDプラス(森林減少・劣化からの温室効果ガス排出削減だけでなく森林保全を図る活動にも焦点を絞ったメカニズム)は、森林保護の方法として国際社会が構想したもので、このメカニズムによって、排出目標を達成したい汚染者に対して森林に貯留された炭素クレジットを売ることができる。

本調査では、メキシコとグアテマラのみが炭素の保有権を定義する国内法を成立させていることが明らかになった。また、調査した23カ国のうち、REDDプラスの枠組みにおける炭素をどのように取引するのかを定める規則や法制度の確立に必要な国内での法的枠組みを持つ国は皆無だった。唯一、ボリビアは、生態系サービスの商品化を明白に禁止する法律を成立させており、そのため、地域住民が炭素市場に参加する可能性は閉ざされている。調査の考察では、炭素権または炭素取引のための一貫した規制枠組みを確立する国レベルでの法案は6つあることが明らかにされたが、最終決定したものは皆無だった。

「生きている木に含まれる炭素が新たな商材になれば、状況は森林に住む人々に不利になります。そして、政府や投資家による前例のない炭素奪取を可能にしてしまいます」とRRIの事務局長、アーヴィンド・カーレ氏は警告した。「国際舞台で自然資源に投資が行われるたびに、先住民族と地域社会は権利を奪われてきました。しかし私たちはREDDが違った結果を導いてくれることを望んでいたのです。彼らの森林への権利は非常に希少かもしれませんが、森林の炭素への権利は存在しないのです」

RRIによると、2008年にREDDが開始されて以来、地域の土地への権利の安定がREDDプログラムの成功にとって極めて重要であることは広く認められている。さらに、地域社会はより広範囲な所有権と統制力を持たされた場合に、土地と資源を持続可能な方法で管理できることが、包括的な調査によって確認されている。しかし、森林炭素を取り引きする市場を生み出す原動力は、先住民族や地域社会の土地への権利を確立するための進歩を実際には妨げていないだろうか? RRIのデータによると、2008年以降に地域社会の所有権によって保護された森林地の面積は、それ以前の6年間に保護されていた面積の20%に満たない。

現在、REDD加盟国の政府は、広大な森林地を法的に管理している。森林炭素市場がなかったとしても、政府は森林地への権利を手放したがらない可能性がある。その理由は、国際森林デーのための国連事務総長の次のメッセージにも表れている。「森林は世界の貧しい多くの人々に不可欠な経済的セーフティーネットを提供するだけではなく、あらゆるレベルの経済を支えています。丸太の生産、木材加工、パルプ産業や紙産業は、世界の国内総生産の1%近くを占めます」

前述の国際対話とその報告書は、こうした疑問に関するより多くの調査と幅広い議論が早急に必要であることを浮き彫りにした。なぜなら、2013年11月にワルシャワで開催された国連気候会議でREDDプラスの推進を可能にする合意が成立したのだが、「炭素権という難しい問題と法的保護やセーフガード、すなわち、既存の森林に見いだされる新たな価値を誰が管理し、利益を得るのかという問題は、未解決のままだった」という事実があるためだ。

現在、炭素権を定義するプロセスを突き動かしているのは、世界銀行の炭素基金による炭素買い取り策の決定である。炭素排出削減のクレジットは新しい種類の資産であり、森林への財産権と密接につながりながらも別々に確立されたものであると、RRIは説明する。しかし、炭素基金の方法論的枠組みはあまりにも曖昧であり、先住民族と地域社会が「炭素奪取」に敗れることのないように問題を早急に解明する責務を政府に負わせていると、報告書は警告する。

「所有権とガバナンスは、土地、森林生産物、地中の鉱物などといった実在の資源をめぐって今でも深く対立していることは明らかです。明確に定義された権利も、乱用から守るために確立された法制度もないまま、特に炭素のように抽象的なものを含む新たな階層を加えることは、地域社会にとってのリスクを劇的に高めてしまいます」と、RRIの保有制度の分析家であり、今回の調査の主任研究者のAlexandre Corriveau-Bourque(アレクサンドル・コリヴォー-ブルク)氏は語った。「地域社会が、最後に残った熱帯林の保護対策に包括され、そこから恩恵を受けるのであれば、土地や森林や炭素への彼らの権利を定義し、その権利を保護する必要があります」

同報告書は提言を行い、最後はハッピーエンドへの望みと、責任者たちが正しいことを行うことへの要請と共に、むしろ楽観的なトーンで締めくくられている。

「現在、排出削減クレジットを購入するための資金が集まりつつある。その資金によって、保有制度改革を政府に実施させる本当のインセンティブを生み出すことが可能である。保有制度の改革は、先住民族と地域社会の土地や資源への権利を明確にし、保護するために必要であり、また、長期的に見て森林破壊や森林の劣化による排出を確実に削減するためにも不可欠である。この種の変革的な変化は、REDDプラスが功を奏するために明らかに必要であり、国際的および2国間でのREDDプラスのプログラムや世界銀行の炭素基金においても優先されるべきである」

報告書『Status of Forest Carbon Rights and Implications for Communities, the Carbon Trade, and REDD+ Investments(森林炭素権の状況および地域社会、炭素取引、REDDプラスにおける投資への影響)』は、こちらでご覧いただけます

翻訳:髙﨑文子

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森林デー:公正な炭素市場を求めて by キャロル・スミス is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 4.0 International License.

著者

キャロル・スミスは環境保護に強い関心を寄せるジャーナリスト。グローバル規模の問題に公平かつ持続可能なソリューションを探るうえでより多くの人たちに参加してもらうには、入手しやすい方法で前向きに情報を示すことがカギになると考えている。カナダ、モントリオール出身のキャロルは東京在住中の2008年に国連大学メディアセンターの一員となり、現在はカナダのバンクーバーから引き続き同センターの業務に協力している。