ブレンダン・バレット
ロイヤルメルボルン工科大学ブレンダン・バレットは、東京にある国連大学サステイナビリティ高等研究所の客員研究員であり、ロイヤルメルボルン工科大学 (RMIT) の特別研究員である。民間部門、大学・研究機関、国際機関での職歴がある。ウェブと情報テクノロジーを駆使し、環境と人間安全保障の問題に関する情報伝達や講義、また研究をおこなっている。RMITに加わる前は、国連機関である国連環境計画と国連大学で、約20年にわたり勤務した。
豊作に感謝する日、サンクスギビング。アメリカではその日が11月26日にあたる。だからこそ11月27日が無買デーであることが重要な意味をなす。
自然が与えてくれるその豊かな実りが危険にさらされるかもしれない。これからの世代はもちろん、世界でますます多くの人々がそのような現実と向き合い始めている。平均的中流階級のアメリカ人にとっては差し迫った問題ではないのかもしれないが。
豊作が危ぶまれる理由は単純なこと。先進国の人々は猛烈な勢いで消費することに夢中だが、この貪欲かつ飽くなき欲求が地球規模の影響を及ぼすからである。しかし、無買デーの主催者カレ・ラースン氏へCNNが行ったインタビューで明らかにされたように、誰もが過剰消費を問題視している訳ではない。
ラースン氏:「過剰消費は生態学的な影響をもたらします。ある意味、環境問題全てを引き起こした原因であるといえます」
CNN:「環境問題ですって!?」
そう、環境問題なのだ。空気の質、森林の消失、過剰な海洋開拓にはじまり、石油、水、肥沃な土地、鉱物の供給に至るまで、それは環境問題なのだ。あらゆる資源がピークに達していること(peak everything)を証明する根拠は山ほどある。このことが示唆するのは富裕層10億人のライフスタイルは大きな影響力があり、持続不可能(世界市場の商品の86%を消費)であるということ。彼らのライフスタイルによって残りの67億人が深刻な被害を受ける羽目になるかもしれないのだ。
無買デーの目的は、ものを買うことにより生じる影響について意識を高めることにある。絶えず消費するライフスタイルをひと休みして、ほんの24時間何も買わないよう働きかけるものだ。そんなに難しいお願いだろうか?
CNNが行ったラースン氏へのインタビューは、無買を要求することもその要求を聞くことも高望みではないだろうかと示唆している。無買を促すことに対する大手マスメディアのリアクションは容易に予想できる。ラースン氏はこの問題について、CNNが放送した2007年の無買デーのキャンペーン広告を取り上げ、インタビュー冒頭で触れた。
ラースン氏:「今ご覧になったキャンペーン広告の放送枠は、MTV、FOX、ABC、NBCやCBSといった局で購入することができませんでした」
CNN:「なぜ購入できなかったと思いますか?」
ラースン氏:「彼らはクリスマス商戦で可能な限り消費を拡大したいのです。そんなときに逆行する意見が持ち上がることは好みません」
CNN:「それは違います。我々は広告を流すことで収入を得ています。我々だってお金が欲しいですからね」
マスメディアの複合企業体が消費構造にこれほど大きく関わっている以上、彼らが消費を阻止させるはずがない。無買のメッセージを広めたいわけがない。一方ラースン氏に放送枠を与えたCNNは称賛に値する。他の放送局もスポンサーの怒りに触れるというリスクを恐れず「ストップ・ショッピング」と大々的に報じる勇気があればいいのに。(無買デー広告の放送を拒否したテレビ局サイドの言い分を聞くには、このページの下へスクロールしてください)
無買デー運動はカナダで1992年に発足し、今年で17年目を迎える。現在では世界に広がりを見せている。北米では11月27日、その他65カ国では11月28日に開催され、アルゼンチン、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、香港、イタリア、オランダ、ニュージーランド、ノルウェイ、ルーマニア、スウェーデン、そしてここ日本でもキャンペーンが行われる。
2009年のキャンペーン広告は、アメリカ国民が直面する多くの問題について深刻なメッセージを投げかける内容だ。不況後の状況を描いたこの広告は、消費者を食べ過ぎのブタとして描写した2007年の挑発的なキャンペーン広告とは対照的である。しかし、CNNのキャスターも問うように、消費者をブタに例えることが消費抑制に効果的なのだろうか?
ラースン氏は効果的であると考え、次のように述べる。
「今日、アメリカでは何百万という人々が夢中で買い物をしているかもしれないが、一方で世界には何一つ買い物をせず無買を通した数百万の人々もいるかもしれないのです」
CNNキャスターは無買キャンペーンの市場戦略として別の可能性を提案した。
「このようなメッセージを伝えたほうが効果的ではないでしょうか。『ホリデーシーズンとはそもそも家族と一緒にすごし、寛大な気持ちと愛を分かち合うためのものです。決して大量消費のためにあるわけではありません』」
サンクスギビングの伝統はまさにこのような願いの上に成り立っているのだから、このメッセージには納得がいくかもしれない。しかし残念だが、サンクスギビングのもともとの意味は、ホリデーシーズンの買い物熱で消えうせてしまったのかもしれない。
アメリカではサンクスギビング後の金曜日をブラックフライデー(収支が黒字になる金曜日)と呼ぶ。今や文化的に定着した家族のクリスマスショッピングシーズンの始まりだ。折からの不況もあり、小売業者はこの時期大幅な売り上げ増加を狙っている。
この金曜日を、意図的に無買デーとして設定することに対しCNNキャスターやその他大勢は次のように反応する「とても信じられない。ブラックフライデーはしきたりのようなもので、みんなこの日に買い物に出かけるのが楽しみなのに」
CNNキャスターが問うように、何も買わないという行動は今日のアメリカ経済を破壊させるのだろうか?消費が減ることに対して最もよく起こる議論は、消費なしでは経済が破たんする、というものだ。消費が少なくても経済はきちんと機能することを人々は理解する必要がある。
ラースン氏は、消費を控えることがかつては普通だったと言う。人類の歴史において、我々はそのほとんどを現在よりはるかにつつましく生活してきた。そして経済もきちんと機能していた。もしかすると我々に必要なのは、昔からのやり方を改めて学びなおすことではないだろうか。実際、今日見られるエネルギーや食糧価格の高騰と今後のさらなる高騰を考えると、つつましくあることはクレジットカード限度額以上に使ってしまったときに受ける打撃への抵抗力を与えてくれるのかもしれない。
2008年に起きた金融危機では、その立て直しに政府からの巨額な資金援助があった。その際、残念なことに多くの国家経済は社会を持続可能なライフスタイルに再構築し、最終的により持続可能な経済モデルを築くという絶好のチャンスを逃してしまった。
問題にすべきなのは、過剰消費とクレジットカード限度額まで買い物をする消費者の存在で成り立っているような経済を維持することに価値があるのか、ということだ。
結局のところ、大手マスメディアがそうしたように、過剰消費が及ぼす環境への影響を無視したとしても、ラースン氏の指摘どおり我々の幸福度レベルは上がらないのだ。
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無買デーのイベントには60カ国以上が参加し、11月27日(北米)、11月28日(世界各地)に開催される。
翻訳:浜井華子
買い物ではなく感謝をしよう:無買デー2009 by ブレンダン・バレット and マーク・ノタラス is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.