都市は見れば明らかだが、コンクリート・ジャングルと呼ばれている。雑然とした超高層ビルが、絶え間ないネオンや広告看板の中で渋滞する道路やハイウェイを見下ろしているのだ。国連大学本部がある東京も例外ではなく、おそらく多くの人々は、緑の欠如という点において最悪の都市の一つだと思っているだろう。
都市生活者は大都会のペースの速いライフスタイルを好むのかもしれないが、公園の新鮮な空気を胸いっぱいに吸うことは何ごとにも代えがたい。中には幸運にも、ビジョンのある都市計画により、緑豊かな大規模公園を備える都市もある。セントラルパークの無いニューヨークを想像できるだろうか?都市部の緑地スペースがもたらす恩恵はさまざまあるが、何よりもおそらく私たちが人間らしさを取り戻すために必要としているのだ。
世界中の都市には、広がり続けるアスファルトジャングルに失われた緑をよみがえらせようとしている企業や団体がある。中には、かつて緑の木立が存在したかもしれない場所に、グリーンルーフを建築している都市がある。
最近だが最新の構想というわけではないグリーンルーフへの関心は、徐々に高まってきたようである。Tree Huggerによると、アメリカではここ数年でグリーンルーフ人気が35%増加した。
新規の建築物に対し、グリーンルーフを義務化している都市も多い。例えばトロントでは、全ての新規建造物は屋上スペースの20~50%を庭園にすることが義務づけられている。2001年に可決された東京緑化計画も同様だ。
ドイツは1960年代にグリーンルーフ技術の開発に着手した。今日、国内のグリーンルーフ軒数は毎年10~15%の伸びを示し、その研究面と活用面において世界をリードしている。ウェブサイトGreen Roofs Australiaに掲載されている数々の写真や、国際データベースInternational Green Roof Associationを見れば、今や世界中で多種多様なグリーンルーフが建設されていることがお分かりになるはずだ。
屋根の緑化は多くの効果を生む。第一に、都市のスプロール現象によって起こる問題の一つにヒートアイランド現象が挙げられる。アスファルト舗装道路やコンクリートのビルは太陽熱をほとんど吸収せず、熱を大気中に反射して都市部の総合温度上昇を引き起こすのだ。
東京の場合、この100年間に3℃以上の気温上昇が確認されている。特に90年代以降は、夏季に気温35℃を超す日が多くなった。気温の上昇に伴い冷房の使用が増え、人々はより膨大なエネルギーと費用を浪費している。
グリーンルーフの植物は、屋根の表面温度とその周囲空気温度を下げる蒸発散と呼ばれるプロセスで、大気中から熱を取り除いている。カナダ国立研究機構の研究(PDF)によれば、夏季のグリーンルーフの表面温度は、気温より低くなることがある。しかし、通常の屋根上面の温度は、気温より50℃も高くなることがあるのだ。
また冬季には、グリーンルーフの植物が断熱材の役割を果たし、直下の部屋の暖かさを逃がさず、エネルギーと費用の節約になることが明らかになった。
緑が多いということはすなわち、よりきれいな大気を意味する。グリーンルーフは周囲の空気を浄化する。1平方メートルのグリーンルーフは、植物の種類にもよるが、年間最大2kgの空気中の浮遊微粒子を取り除くことができる。
グリーンルーフは大気中の汚染物質を除去するだけでなく、二酸化炭素も吸収するのだ。事実、最近の研究では、デトロイトと同じ土地の広さで人口およそ100万人の都市の全ての屋根をグリーンルーフにすると、1万台の中型スポーツ多目的車とトラックの年間排出量に相当する二酸化炭素を除去することができることが明らかになった。
リビングルーフは酸素もつくり出すのだ。ならば、屋根だけにとどめておくべきだろうか?グリーンウォールの人気も高まりつつある。全てのビルの垂直な外壁が、緑化の可能性を秘めているのだ。中には、自宅や会社の内壁に生きた植物を植える人たちもいる。サントリーの緑化ビジネス・ミドリエの提案がその一例である。
グリーンルーフのさまざまな効果を知り、数人のグループが国連大学図書館と共同で独自のグリーンルーフを造るに至った。
1992年から国連大学に勤務する図書館員のマツキマヤコ氏は、図書館の環境責任の一端を果たし、関連書籍や資料の普及を促進するため、3階のルーフバルコニーをよりよく活用する方法を夢見てきた。
昨年、職員が行った国連大学校舎の“緑化”の呼びかけを、マツキ氏はずっと心に描いてきた庭園を実現させる絶好の機会と捉えた。同氏は、低予算でありながら地域社会に広く役立つ何かをつくりたかった。そして、ボランティアの寄付で2000ドルを集め、今年小さな試みが始まった。9平方メートルの庭園プロジェクトが、未来の拡大を目指してスタートしたのだ。
当初、ブレインストーミングが進むにつれ、食糧自給、つまり輸入に頼る日本(日本の自給率はカロリーベースで40%)への深まる懸念が議論の的になった。小さな土地でわずかな野菜を育てても問題の解決にはならないことは分かっていたが、高まる食糧自活運動に参加し、意識を喚起する良い機会だと彼らは捉えたのだ。
2009年5月に植えられたトマト、ナス、大根、ピーマン、スイカ、バジルは、最近収穫期を迎えた。この最初の節目を記念して、9月初旬に屋上庭園の支援者たちはガーデンBBQを行った。
秋風が吹く今、彼らは冬の到来に備え、ハーブと根菜の植え付けに照準を合わせている。マツキ氏はこの試みが成功し、プロジェクトが国連大学の至るところで成長していくことを願っている。
翻訳:上杉 牧
Grow a Green Roof (and Eat It Too) by Megumi Nishikura is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.