高まる自家栽培運動

マハトマ・ガンディーや博物学者のヘンリー・デイヴィット・ソローなどに代表される、昔ながらの「自発的で質素な考え方」が北半球で再び注目を集めている。気候変動や石油不足の切迫した問題、また不況の大打撃により、多くの人々が現在の生活が必要以上に資源消費型だということに気付き始めたのだ。

豊かな先進工業国の“slow livers”(スローライフを実践する人々)や“downshifters”(収入よりも満足度の高い生活を優先する人々)にとって、大量の化石燃料に依存した自国の食料生産・配給システムは最大の懸念事項だ。(化学薬品漬けの農作物や加工食品、環境ホルモンまみれの動物性食品が健康に与える悪影響については言うまでもない)

ポスト・カーボン研究所によると、この問題に真剣に取り組むには、広範囲での「(アメリカの)食料生産・配給システムの組織的改造」が必要であり、今話題のドキュメンタリー映画「Food Inc.」(食糧会社)を観れば、視聴者もその点に納得するはずだという。

一方で、人々の間では食糧の産地やその環境への影響に対する関心が高まっている。最近北米で始まった地元産食材運動“locavores”は驚くほど活発化しており、農家はこの新たな動きを喜んでいる。このトレンドは日本でも起きており(度重なる食品ラベル偽装問題や汚染食品事件により、食の安全性に対する不安が高まったことも要因の一つだが)、スーパーで生産者の顔写真が貼られた野菜を見かけることは、もはや珍しいことではない。

自家栽培が食べたい

共同農園や家庭菜園は、まだ先進国における食糧供給のほんの一部に過ぎないが、食糧自活を目指しているかなりの数のブロガーたちが、自分たちの農作業の様子を発信しているのを見てもわかるように、その人気は拡大している。

環境に優しい食のトレンドは、ベランダ菜園や、オバマ大統領が起こした“ビクトリーガーデン“(勝利の庭)運動の復活、自作農園での自給自足、ゲリラ・ガーデニング運動、フリーガニズムに至るまで様々だ。
ここで、刺激的で興味深い運動をいくつかご紹介しよう。

借地菜園ブーム

発展途上国や新興市場国にとって、都市菜園は二酸化炭素ガス排出量問題の対応策ではなく、食の安全と正義の確保が争点になっている。しかし、都市地域は地球表面のわずか2%の面積でありながら地球資源の75%を消費しており、世界レベルで温暖化ガス排出量削減が叫ばれる今、先進国への都市農業の普及は不可欠なのだ。

都市生活者にとって共同菜園は、食生活を補完するばかりでなく、近隣住民との社会的なつながりを生む

近頃では、農地に人気が集中している。ベルリンには80,000軒の都市農家があり、イギリスの借地菜園は順番待ちの状態だ。またアメリカの不況に喘ぐ自動車産業の中心地(デトロイト)では、都市農家の“デトロイト産”協同組合が自給自足にとどまらず、余剰作物を販売するまでに至っている。

ミシガン州立大学で持続的農業学を教えるマイケル・ハム教授は、「デトロイトのような場所で起きている活動を、取るに足らないと片付けてしまうことはできない」と言う。「多様な経済発展が実現可能なのです」

同教授の生徒が行った最近の研究によると、デトロイトには全市民の理想的な食生活に必要な野菜の76%、果物の42%を生産できる未使用の土地があることが明らかになった。

希望の園

都市生活者にとって共同菜園は食生活を補完するばかりでなく、近隣住民との社会的なつながりを生む。ある住民はマドリードの地元紙に「エレベーターの中で話す話題ができました」と語っている。

ホリスティック(全体論的)医療診療所の所長であり、新進のヨガインストラクターのアンバー・ウエストフォール氏もその付加価値を認める一人だ。春に思い切って自家栽培の世界に飛び込んだ彼女は、今では週に6~10時間はカナダ・オタワにある公共菜園で過ごす。

先週、Eメールを通じて行った我々のインタビューに、彼女は「あそこはうちの裏庭のようなものなのです」と答えた。「農作業をするためだけに行くのではなく、本を読んだり、ヨガをしたり、友人をピクニックに招待したりして楽しんでいます」

公共菜園から自転車で15分の距離のアパートに住む33歳の彼女は、93平方メートルのその菜園を「桁外れに多種多様で、とても多文化的な場所。若者から老人まで幅広い年齢層の“新カナダ人”がたくさん集まる希望の園」だと表現する。

ウエストフォール氏のブログ“Unstuffed”には、その週の収穫物とガーデニング学習記録が綴られ、よりつつましく溌剌とした暮らしを目指す彼女の取り組みが発信されている。2008年の1年間、彼女は“Buy Nothing New(無買運動)”を実践し、自身の消費を極限まで抑えた。そしてこの体験が、環境に優しい食品に関心を持つきっかけとなった。

「食べ物は買わないわけにはいかなかったので、食品についてはとても考えました」と彼女は言う。「産地、栽培方法、何が入っているか、誰が何を使って育てたか、どんな条件下で栽培されたか、輸送手段は何かなどについて考えたのです」

彼女はマイケル・ポーラン氏、ヴァンダナ・シヴァ氏、ウェンデル・ベリー氏などの著書や、“The Ethicurean”などのウェブサイトを参考にして食品に関する知識を身につけた。そこに書かれていた「地元産の旬の食材を食べる喜びと、自分自身で栽培し保存する楽しさ」に懐かしさを覚えたウエストフォール氏は、後に祖母に教えを乞うようになった。

「緑の茂った祖母の庭や手作りのジャムやピクルス、地下室の発酵食材の冷たい壺など、小さい頃の思い出がよみがえりました」とウエストフォール氏は語る。「私は祖母からそれらの作り方を教わり、貴重な財産を再発見し、賢人の昔ながらのやり方を覚えたのです」

ワイルドに行こう

歴史上、長期にわたる持続可能な社会の例は限られており、それらはみな農業、狩猟、採取をベースにした社会であった。そして、いまだに工業社会の持続可能性は証明されていないのだから、昔ながらのやり方に関する知識は重要になるかもしれない。例えば、空腹時やお金の無いとき、また食に関わる二酸化炭素排出量をさらに削減したいときには、ガーデニングの技術が役に立つ。

ウエストフォール氏は昨夏、山菜のワークショップに参加してから野草摘みの魅力にはまった。そして彼女はこの春、6週間のワイルドクラフティングのクラスに通い、山菜や野生の果実・茶葉の見分け方と収穫方法を学んだ。植物学者のマーサ・ウェバー氏が教えるこのクラスで、ウエストフォール氏をはじめとする受講者たちは地元の森や野原を歩き、以前は気付かなかった無料の食材の収穫を体験したのだ。

私たちは毎晩、その日に採った野生の植物でご馳走を作りました (Amber Westfall)

「ゼンマイ、アリアリア、シナノキの葉、ヒラタマネギ、アミガサタケなど、他にもたくさんの植物の見分け方を習いました」とウエストフォール氏は言う。「私たちは毎晩、その日に採った野生の植物でご馳走を作りました」

蒸したイラクサやタンポポフリッターなどの野草料理を楽しみ、“野生の倫理”を研究しながら、ウエストフォール氏は活動範囲を広げていった。彼女は1年間かけて、薬効のある植物とその調合方法について学ぶ本草学を学んでいる。

無料食材と自由

日本は年間1,900万トンの食べ物を廃棄している。これは、世界全体の援助食糧の3倍以上に相当する。

「日本では食べ物だけでなく、他にもたくさんの物が廃棄されています」と語る、アーティストでブロガーのOjisanjake(日本語でジェークおじさん)はフリーガンだ。「捨てようとしている物を貰ってあげると、日本人はとても喜ぶのです」

イギリス出身で55歳のジェークは、これまで数カ国での滞在経験を経て、日本に移り住んで8年が経つ。彼は5年間ほど先住民族とも暮らしたことがあり、そこでたくさんのことを学んだと語る。「60年代に若いヒッピーだった」フリーガンのジェークは、一部のフリーガンがそうするように食品の救済ごみ箱あさり)はしない。その代わり、ほとんどの食材を自分で栽培し、近隣住民から貰い、時折は地元の食材を買ってまかなっている。

職業をたずねられると「生きるために生きています!」と答えるジェークはこう語る。「生活をいろんなカテゴリーに分類するのは不可能だと思うのです…。なぜなら私にとって、すべての行為は労働であり、余暇であり、教育であり、娯楽であり、魂であり、芸術だから。私は食材を育て、薪を割り、自宅を改築し、お面を作り、絵を描き、文章をしたため、地元の品を少々売り、たまにツアーガイドをし、英語を教えます」

「フリーガンという言葉は新しいですが、これまでの人類の生き方を表しているに過ぎません。言い換えれば、現金が手元にないという意味です」と彼は言う。

脳を緑化し能力アップ

食品工業生産における問題点を理解するためには、まず第一に、それらについて知るということが大切だ。マイケル・ポーラン氏は著書「In Defense of Food」の中で、工業化社会に生きる我々が食品に関してどれほどプログラム化されているかを明らかにした。

この本の中で同氏は「食物に関する忠告を本にしなければならないということは、いかに我々が食から遠ざかり混乱しているか、という尺度として受け取られるだろう」と述べ、体が必要とする自然食品だけを食べる代わりに、我々がいかに、食品に不必要な加工を施し、さまざまな健康被害とエネルギー浪費を生み出す科学と企業が作り出した食生活をしているかについて分析した。

しかしながら知識は知識でしかなく、実践とは異なるのだ。フードマイレージ(インターネットに計数機がある)を抑えることから始め、地元のオーガニック生産者や直販店を探し、週に数日は肉を控えること(少なくとも倫理的な食事を心がけること)は、誰にでもできることだ。

栽培という観点で言えば、ハーブの鉢植えを窓辺に置くことは誰でもできるが、ガーデニング経験の無い都会人にとっては、それさえもプレッシャー以外の何ものでも無いのかもしれない。しかし、プレッシャーを感じる必要はない。無論、初心者がいきなり農家になる(大地に帰る)ことはないだろうが、「ライフスタイル」欄を参考にして、簡単なことから始めることはできる。

「今こそ消費者はもっと勉強し、自分たちの口に入れるものに責任を持つべきだ」これは多くの賛同を得た、あるブロガーの言葉である。

あなたもそう思いませんか?

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高まる自家栽培運動 by キャロル・スミス is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

著者

キャロル・スミスは環境保護に強い関心を寄せるジャーナリスト。グローバル規模の問題に公平かつ持続可能なソリューションを探るうえでより多くの人たちに参加してもらうには、入手しやすい方法で前向きに情報を示すことがカギになると考えている。カナダ、モントリオール出身のキャロルは東京在住中の2008年に国連大学メディアセンターの一員となり、現在はカナダのバンクーバーから引き続き同センターの業務に協力している。