ロバート・サンドフォードは国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)でEPCOR水の安全保障研究チェアを務めています。
モンスーンによる洪水はパキスタンでは珍しくないが、今回ほど壊滅的なものは、これまでなかった。
今回の災害には際立った特徴がある:洪水が未曾有の威力、破壊力を持った原因は温暖化以外の何ものでもないと、誰もが認識していることだ。気温上昇と、今回のような規模の異常気象事象の頻度や持続時間との関連性は明らかであり、他の国々にとってもひとごとではない。
2010年と2011年にパキスタンで起きたモンスーンによる洪水については、複数の観測者が当時、土地利用が変化したことで自然排水パターンが変わったことを原因としていた。パキスタンのように気象異常のリスクが最も高い国々は、同時に最も機能不全に陥っていると指摘する者もいた。
しかしその5年後には、死亡者2500人、避難者2700万人、経済損失およそ740億ドルを生じさせ、パキスタンの発展を大幅に後退させた2010-2011年の洪水について、明らかに気候変動が関与していたことを示す特徴を研究者らは見出すことになる。
地球温暖化が地球全体の水循環を加速させ、その結果、相対的な安定性や自然変動、すなわち、私たちが依存する「水循環の安定性」が失われていることは、気象学により確認されている。
空気の温度が高いほど、より多くの水分を含み得ることは、大気科学の基礎である。温度が摂氏1度上がると約7パーセント、華氏1度上がると約4パーセント、多くの水分を含むことができる。
加えて、衛星による観測で「大気の川」の存在やその動きが分かるようになった。これは、強風や湿った空気の通り道で、その幅は400-500キロメートル、長さは数千キロメートルに及ぶ。
このような大気の川が湛える水量は、北米を流れる大河、セントローレンス川が1日に放出する平均水量の10倍に相当する。
温暖化により、これら大気の川はさらに強力で破壊的になり、予測がますます困難になっている。
そして、これら大気の川が地上に降りると、これまで想像もしなかったような威力と持続時間の降雨を引き起こす。このことは、パキスタンのみならず、オーストラリアやカナダなどの高度先進国でも見られた。
この記事の執筆の時点で、パキスタン国土の3分の1が水没している。少なくとも1,000人の死亡が確認され、数百万棟の家屋が破壊され、3300万人が気候難民になった。
パキスタンの今年の超大型モンスーンの威力は実際にどれほど強かったのだろうか。2010年7月の記録では、1日で257ミリの雨が降った。今年、カラチでは、24時間以内に400ミリを超える降雨量が記録された。
シンド州では、平年の5倍を超える680ミリの雨が降った。その他の地方でも、同様に記録が塗り替えられている。こうした記録更新は始まったばかりだ。
400ミリや500ミリ、さらには600ミリもの雨が24時間の間に一カ所に降ったら、どのような洪水被害が生じるかは、容易に想像がつく。
変わったのはモンスーンの様子だけではない。パキスタンの天候パターンは、ますます予測が難しくなっている。例えば、今年、パキスタンでは、冬の状態から夏の猛暑へと急激に季節が変わった。パキスタンの多くの場所で、数週間にわたって摂氏50度近くの気温に達することが珍しくなくなった。
繰り返し襲う今年の熱波と、これまで想像もしなかったようなモンスーンによる洪水の累積的、複合的影響に、同国は途方に暮れている。
政府高官らは、他国の無責任な環境活動のせいで、パキスタンが不当にその尻拭いをさせられていると主張する。ただ、彼らもこれまでの洪水の際と同様に、政治腐敗や未施行の建築基準法、氾濫原と分かっている土地での建物の再建により、同国の脆弱性が増していることは認めている。
しかし、彼らはこう指摘する。モンスーンが凶暴なほどに威力を増している原因が気候変動であることは明らかだが、パキスタンは、その原因となる世界中の温室効果ガスの排出量のたった1パーセントしか排出していないと。他の国々がパキスタン復興の費用を負担すべきだというのが、パキスタンの立場である。
開発途上国において、気候による災害は、財政危機や失業、深刻な社会不安、国家間紛争、テロやサイバー攻撃など、国全体に壊滅的な影響を及ぼす。
温暖化の加速により、いくつかの開発途上国は有効な対策を取れなくなるほど弱体化させられると、複数の観測者が考えている。
パキスタンの例から私たちが得た教訓は、気候の温暖化により、メガストーム(超大型の嵐)は、起こり得るというだけでなく、避けられないということだ。そのような嵐が10年ごとの頻度でやって来る可能性もある。そのような大規模災害がもたらすインフラへの被害や経済の混乱、人的被害は、到底許容できるものではない。
それにもかかわらず、気候対策に関して先進国は有効な成果を上げていない。この失敗により、世界そのものが失われかねない。
たった1.1°Cの温暖化でさえ、すでに次々と連鎖的な影響を及ぼしており、それらが合わさって、大きな経済的損害が生じ始めている。何もしないことで生じるコストは、気候対策に要するコストをすでに大きく上回っている。そして、気候変動はまだ始まったばかりだ。
これ以上に大きな災害が起きるのを食い止め、パキスタンのような国々を救うためには、気候変動のスピードを減速させ、止める必要がある。先進国は先頭に立って、今すぐ、行動しなければならない。
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