気候変動に関するリージョナリズム、人権、移住

国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)とAXAリサーチファンドが支援する最近の研究プロジェクトは、太平洋地域の主要な2つの法体系(国家法と伝統的な慣習法)とこれら2つの相違点が、2015年のパリ協定など気候変動に関連する国際法を施行する際、法的リスクを引き起こす仕組みに着目した。ドイツのボンで開催された国連気候変動枠組条約第23回締約国会議(COP23)で、2017年11月に発表された最終政策報告書は、政策立案者と協議者に対して気候変動に関する移住と人権に取り組む際の一連の具体的な提言を7つ行った。

複数の提言が、太平洋地域の2つの法体系(国家法と慣習法)を調和させることで相違点を埋め、パリ協定などの国際法の施行を促す一貫性のある単一システムを構築する必要性を強調している。その他の提言は、移住のプロセスを太平洋地域の国々が引き続き認識し、技術・政治双方のレベルで早急に着手する必要性があると表明している。

今回の研究では、とりわけ国や地域がもつ種々の特徴の違いを超えて、大規模に適用できる2つの主な結論が得られた。

ハイブリッド型国際法の重要性

ハイブリッド型国際法という考え方は、2007年以来から発展し、環境法、人権法、難民・移民法に関連している。この概念では、これら3つの相関性を実証しており、直接的または副次的な影響として、人権や移住に触れずに気候変動に対処することができないとを示している。

影響し合う因果関係から考えて、今日、人権や移住を考慮せず、気候変動を含む環境悪化に対処することはできない。この考え方は、進行が緩やか(海面上昇や塩害など)であるか急速(洪水や極端な暴風雨など)であるかを問わず、環境悪化によるあらゆる事象や災害にあてはまる。たとえば、洪水によって即座にもたらされる影響は、被災したコミュニティにおける人権侵害といえる。これには、子どもたちが学校に通えなくなったり(教育を受ける権利)、高齢者が医療施設に行けなくなったり(医療を受ける権利)することなどがあげられる。

(諸権利へのアクセスを擁護し保障する政府の義務により国家レベルで発生した)こうした人権侵害の直後、留まる(適応する)か避難する(移住する)かの決断は、通常、事象の深刻さに応じて家族や個人によって下される。拙著Legal Protection of the Sinking Islands Refugees(水没する島からの難民の法的保護)(2016年)の調査では、世界人口の30%近くが移住を決断しており、その主な原因は適応プロセスへの政府の援助能力が不十分であることが明らかになっている。

移住の決断を下す理由は、環境だけに限られない。経済問題のほかに、人権が十分に保障されていないこともあげられる。最も重要な点として、移住そのものが、清潔で健康な環境を享受する権利といった人権の侵害を招き、最後には環境悪化と気候変動につながる恐れがある。このような環境悪化と人権と(強制的な)移住に対する相互接続・相関性についての考え方が表すのは、思考の枠組みの転換であり、保護するという国の義務、すなわち送り出すコミュニティと受け入れるコミュニティ双方への共通だが差異ある責任の明確な概念化である。

このつながりは、移住するか適応するか、または環境悪化の影響を受けたときに移住を適応策として利用するか、という各家庭の決定に反映され、さらには、救助義務としての行動など、国が迅速に取るべき行動を、はるかに複雑な中長期におけるアプローチへと拡大させる。

地域的な思考と行動

もう1つの重要な研究結果として、移住政策を開発・提案し、最終的に実施する際、地域的アプローチの方が概して有効であることが証明された。

2016年9月、国連総会で移住と難民についての問題が議論された。難民と移民のためのニューヨーク宣言が採択され、193カ国の国連加盟国が、人間の移動に対する包括的なアプローチと、グローバルレベルで協力を強化する必要性を確認した。移住に関するグローバル・コンパクトは、加盟国が安全で秩序ある規則的な移住を促進するために国際的な協力を約束した、持続可能な開発のための2030アジェンダのターゲット10.7に則して策定され、その範囲はニューヨーク宣言の添付文書IIに定められている。

しかし、国連レベルでの実際の移住プロセスが、残念ながら非常に政治的になっているうえに、関係者が気候に関連した移動への取り組みに消極的なことは明らかである。気候移民は年々増加するなか、対応するためのグローバルな政策がないにもかかわらず、加盟国は気候変動を脅威として認めることに非常に消極的である。パリ協定によって政治的な勢いが生まれたが、実際のプロセスではその勢いと一部の関係者の関心が失われてしまった。世界各地で依然として移住の難問が突きつけられているにもかかわらず、である。

しかし、これまでに(二国間・多国間)環境協定など、グローバルレベルの法律よりも効果があると証明されている地域的な取り組みがあり、より大きな影響を国内法に与え、特定の事例で国が重要だと考える優先事項に反映されやすくなっている。

一般に、地域協定などの文書にはグローバルレベルの協定や条約、その他の法律形態では大きく失われてしまう重要な特徴がある。それは、主にアイデンティティである。地域には共通かつ地域固有の文化や社会の個性、そして法律の個性さえも存在する。これらはコミュニティから生まれ、特有の方法で国の役割を定める。こうした要素はまた共通の歴史的結びつきと伝統、社会構造や文化・宗教表現を含むこともあり、世界レベルよりも地域レベルの方がよく保全・保護される。環境のために、実際に地域が取る特有のアプローチは、世界レベルでの交渉では維持するのがかなり困難だが、地域レベルでの維持ははるかに容易である。これは国家間での共有、あるいは地域全体の規定が実現できる可能性が圧倒的に大きいためである。

国は現在の移住に関する人道危機に対処しなければならないだけでなく、環境による権利の侵害から生じる将来の移動の影響を規制し、対応できるようにしなければならない。

人間の移動は2000年以上行われてきた有効なプロセスであり、重大な環境問題と絶え間ない紛争によって、今後も増加すると予想される。各国は移民の増加に驚くのではなく、環境要素を考慮に入れ、権利に基づく強固なアプローチを用いて、予防措置によって清潔な環境などの基本的権利、移民の権利、人権を確実に尊重しながら、移動の統制に着手すべきである。

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この記事の初出はThe Conversationに掲載されたものである。Copyright The Conversation, all rights reserved.

著者

コスミン・コレンダ博士(SJD、ゴールデンゲート大学)はドイツのボンにある国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)のアソシエイト・アカデミック・オフィサーであり、法律の専門家でもある。制度上の脆弱性や適応、気候の衡平性、気候正義、人権、人間の移動など、環境悪化と気候変動の悪影響に関する法律問題を担当している。