地下水からヒ素を除去:ツールがあるなら使おう

地下水からヒ素を除去するために、すでに費用対効果の高い技術が活用できる。それにもかかわらず何故、今でも慢性的な問題で数千万人が健康を害しているのだろか。

バングラデシュ、インド、ネパール、モンゴル、米国など、多くの国では、もともと地下水中のヒ素濃度が高い。

こうした汚染は、採鉱活動、肥料や農薬、廃棄物処理、製造業によって生じる場合もあるが、ほとんどはヒ素溶脱、つまり地下の岩石が酸性度の高い水に溶かされて生じたものだ。

50カ国で少なくとも1億4,000万人が、世界保健機関(WHO)のガイドラインである10 μg/L(1リットル当たり10マイクログラム)を超えるヒ素を含む水を飲んでいる。WHOが推奨する上限の10倍を上回るヒ素濃度の地下水が使われている場所もある。

飲み水や、汚染水による灌漑で栽培された作物を通じたこのような曝露は、ヒ素中毒(筋力低下、軽度の精神的影響などの症状あり)、皮膚損傷、さらには癌(肺、肝臓、腎臓、膀胱、皮膚)の発症につながりかねない。こうした健康への影響は差別や孤立、社会不安など、社会的な問題も引き起こすおそれがある。

地下水のヒ素汚染問題が最も深刻なバングラデシュでは、生産性の損失による経済的負担が約10年で138億米ドルに達するものと見られる。

ヒ素関連の健康問題は生産性の損失を通じ、多くの場所で膨大な経済的損害を与えている。地下水のヒ素汚染問題が最も深刻なバングラデシュでは、生産性の損失による経済的負担が約10年で138億米ドルに達すると推測されている。

大まかに見て、6つある手法のうちの1つを用いてヒ素を除去する技術は現時点ですでに多くあり、科学的研究でもよく取り上げられている。2014年から2018年までの期間のみを見ても、この問題の諸要素と、多数の安価な処理技術を取り上げた論文が1万7,400件を超えている。

国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)が発表した報告書は、1996年から2018年までに公表された査読済みの比較研究論文31件に基づいているが、これら論文はそれぞれ、研究室や現地調査でテストされた新技術について報告している。

* 9カ国(アルゼンチン、バングラデシュ、カンボジア、中国、グアテマラ、インド、タイ、米国、ベトナム)の地下水を用いた研究室試験で、50%から100%近くに及ぶヒ素除去効率を実証した技術は23件で、その大半は90%を超過。また、その約半数で10 µg/LというWHO基準を達成。

* 家庭またはコミュニティのレベル(アルゼンチン、バングラデシュ、チリ、中国、インド、ニカラグア)で試験された14件の技術は、60%から約99%に上るヒ素除去効率を達成したが、うち10件が90%を上回る効率を記録。確立済みのWHO基準を達成できたのは5件のみ。

研究室試験の対象となった技術につき、1立方メートルの水処理コストは、1件の技術(1立方メートル当たり299米ドル)を除き、ほぼゼロから約93米ドルの範囲に収まっている。実地試験の対象となった技術につき、1平方メートルの水処理コストは、ほぼゼロから約70米ドルだった。

単独であらゆる問題を解決できる技術はないが、報告書は、世界各地に存在する多くの変数を考慮に入れながら、最も経済的かつ効率的である公算が高い救済策の特定に役立つ内容となっている。

除去効率とコストに影響する主な要因は下記のとおり。

また、報告書は、10 µg/LというWHO基準を充足または超過する水準までヒ素を除去できる技術のみが、効率的と判断できることも指摘している。

バングラデシュ、中国、インドその他、資源の制約や、地下水のヒ素濃度が異常に高いなど、一定の環境状況を抱える数カ国は、より高く、達成しやすい国内ヒ素濃度目標値を定めている。

例えば、国内的に受容可能とされる水中ヒ素含有量を50 µg/Lと定めているバングラデシュでは、2,000万人以上が国内基準さえも上回るヒ素濃度の水を使っている。

例えば、国内的に受容可能とされるヒ素含有量を50 µg/Lと定めているバングラデシュでは、2,000万人以上が国内基準さえも上回るヒ素濃度の水を使っている。

全世界では、国際的な取り組みにもかかわらず、数百万人が100 µg/L以上のヒ素濃度にさらされている。

WHO基準を上回る国内規制を導入すれば、政策立案者はヒ素除去の成果改善を報告できるかもしれないが、こうして事態が収拾に向かっているという感覚を持ってしまった国では、政策担当者の問題根絶に対する危機感が薄れ、国民は高いヒ素濃度による被害を受け続けるということにもなりかねない。

WHOガイドラインより緩い規制を導入すれば、この問題に対する関心は実質的に薄れ、国民の健康を最大限に改善できるチャンスが遠のいてしまう。技術の利用は可能であるだけに、これはもったいない話だ。

現時点で活用できる技術を使えば、この公衆衛生問題で影響を受ける人々の数を大幅に減らすことができる。必要なのは、政策立案者、エンジニア、医療従事者、ドナー、そしてコミュニティ指導者が、定量的で持続可能な効果を達成するため、持続的かつ協調的な取り組みを行うことだ。

WHO基準を充足し、目標3(「すべての人に健康と福祉を」)と目標6(「安全な水とトイレを世界中に」)という2つの鍵となる持続可能な開発目標(SDGs)を達成するためには、今後10年間のうちに、改善策を大規模に展開する必要がある。

ヒ素汚染水の消費という問題を軽減し、最終的には根絶するための費用効果的ツールがあるのだから、それを使おうではないか。

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著者

ドゥミンダ・ペレーラ氏は、国連大学水・環境・保健研究所のシニア・リサーチャー(水文学と水資源担当)。

ユリッサ・バレーラ氏は、カナダのオタワ大学国際開発・グローバル研究大学院生で、国連大学水・環境・保健研究所インターン。

プラエム・メータは、国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)の水・保健分野の研究員。ケニア出身で、5年間にわたってモントリオールの「移住・リプロダクティブヘルス研究グループ」で、移民の母子保健調査に取り組んだ。UNU-INWEHに加わる以前、国連システムで2度のインターンシップを経験している。1回目はモントリオールの生物多様性条約事務局で、生態系サービスとその健康への寄与を中心とする愛知目標14に関する情報を取りまとめた。2回目はニューヨークの国連本部の環境統計課で、水と廃棄物に関する作業に取り組んだ。プラエム氏はマギル大学から農業環境学士号と統合水資源管理修士号を取得している。

イーナ・シャン氏は、ハミルトン(カナダ)のマクマスター大学健康科学部学生。