衛生改善のために安全な水を犠牲にしてはならない

推定24億人の人々が、今もなお衛生設備をまともに利用できない状態にあり、そのうち約10億人はいまだに野外で排泄を行っている。これらの数字を踏まえると、持続可能な開発目標(SDGs)の目標6と、その具体的なターゲットの1つである、2030年までに「すべての人々の、適切かつ平等な下水施設・衛生施設へのアクセスを達成し、野外での排泄をなくす」ことの実現は、きわめて大きなチャレンジであることが分かる。これら施設(サービス)へのアクセスを持たない人々へのサービス提供を大々的に進めるためには、ヒトの排泄物と飲料水供給(地上の水と地下水)との間の衛生上の境界を確保する低コストの公衆衛生システムが必要となる。

2012年、インド計画委員会は、約6億人のインド国民がいまだに野外で排泄を行っていると推定し、日常的に野外排泄(OD)を行う世界人口の約60%をインド国民が占めることを示唆した。こうした状況を変えるため、インド政府は2014年、フラッグシッププログラムである「Swachh Bharat Mission(クリーン・インディア・ミッション)」により2019年までのOD根絶を目指す大掛かりなキャンペーンを立ち上げた。同様のプログラムは、ケニア、ネパール、フィリピンなど、その他の低・中所得国(LMIC)でも開始されている。

2017年8月現在、同ミッションを通じて、インド各地の460万世帯以上に及ぶ家庭にトイレが建設されている。設置されたトイレの種類の中で最も一般的なものの1つが、改良型ピット式トイレ(落とし便所)である。安全性が認められているさまざまな衛生技術の中でも、通常、このトイレが農村部の世帯にとって最も簡易で建設費がかからないのである。

改良型ピット式トイレは、基本的には地面に穴を掘ったものであるが、「改良の」あるいは「安全性を確保する」要素が付け加えられている。その要素とは、一般的に、現地で調達したさまざまな資材(レンガやコンクリートなど)で穴に内張りを施したり、穴の覆いとして、清掃可能で頑丈な板に排泄物用の穴を設け、その上に設置するといったものである。さらにプライバシーを守るための構造(壁、屋根、通気管、穴カバーなど)を、レンガ、木材、強化プラスチック、波型板金、およびその他の素材を用い、個々のニーズに合わせた仕様にすることができる。

地下水の安全性とオンサイト衛生処理による汚染の可能性との関係性を明確に調べた研究はきわめて数が少ないが、そうした研究では危険な濃度のバクテリア、ウイルス、および化学物質がしばしば検出されている。

とはいえ、ピット式トイレは必ずしもすべての地域に適しておらず、洪水や地下水面の上昇が生じやすい、降水量の多い場所には推奨できない。世界保健機関はピット式トイレの設置場所について、河川敷よりも高所で、水源から最低30メートル離れ、かつ地下水面よりも2メートル高い、水はけのよい場所とするよう推奨している。

その理由は、ピット式トイレがODの迅速な根絶に向けた解決策となる多くのLMICにおいて、一般世帯では通常、安全な飲料水を得る方法として、地下水源を用いているからである。保護された素掘り井戸、保護された掘り抜き井戸、保護された掘削孔、保護された湧水などがあるが、一部の世帯では飲用前にこれら地下水の事前処理を行っている場合も見られるが、多くは水源の水をそのまま利用しているのである。

インドも例外ではない。インド国民は、推定で年間230立法キロメートルの地下水を使用するとされるが、これは他のどの国よりも多く、世界全体の使用量の4分の1以上に相当する。実際のところ、インドは灌漑農業用水の60%以上、飲料水の85%を地下水のみに頼っている

India groundwater use

インド国民は、推定で年間230立法キロメートルの地下水を使用するとされるが、これは他のどの国よりも多く、世界全体の使用量の4分の1以上に相当する。Photo: Columbia Water Center, Creative Commons BY-NC 2.0

ピット式トイレの迅速な導入を阻んでいる主な課題は、推奨される安全距離が、スペース上の制約や使用者にとっての利便性といった理由から、ほとんどのLMICで守られない場合が多いということである。その結果、適切に設置されなかったピット式トイレから漏れ出した微生物・化学汚染物質が地下水に入り込み、人間と生態系の健康を脅かしている。

地下水の安全性とオンサイト(排泄物を溜めているその場での)衛生処理による汚染の可能性との関係性を明確に調べた研究はきわめて数が少ないが、 そうした研究では危険な濃度のバクテリアウイルス、および化学物質がしばしば検出されている。地下水面が浅く、洪水の頻発する地域は、汚染リスクが最も高い。地下水の糞便汚染の予防は、SDGs目標6の進展にとって非常に重要な要素でもある。

ほとんどの低・中所得国では、国の経済的損失の70%以上が健康に関わるものであり、その多くが下痢性疾患に関連している。

これは、経済の健全性にも関係する問題である。ほとんどのLMICでは、国の経済的損失の70%以上が健康に関わるものであり、その多くが下痢性疾患に関連している。こうした疾患は発育不全や認知発達障害の原因となり、人的資本を損なうことになる。安全な衛生設備へのアクセスと安全な飲料水へのアクセスという両者の間に、このような内在的なつながりがあるため、SDGsの目標6が持続可能な開発において非常に重要になってくる。

ODの根絶推進において、安全な建設指針を守ることなく、単に公衆衛生システムへのアクセス向上を追求しようとするだけでは、地下水帯水層を危険にさらし、複雑で長期的な健康上の脅威を引き起こすリスクを高めることになる。しかも、ひとたび地下水が汚染されてしまえば、その処理には途方もない労力とコストがかかるのである。

このため、特にLMICの都市部周辺や農村地域において、改良型ピット式トイレの使用を継続的に進める政府や国際機関は、考えうるすべての衛生技術に関わる、その長期的な環境影響をあらかじめ考慮すべきである。そうした適切な評価を行わなければ、他の保健関連のSDGsターゲットの達成を阻むことになる可能性がきわめて高い。目の前にある問題だけを解決しようとし、近い将来それよりもはるかに複雑な災害を招いてしまうことのないよう、人間と環境の健康を守ってくれる技術の採用を促すような衛生関連法を、策定していく必要があるだろう。

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著者

ルシュヴァ・パリハーは、国連大学マーストリヒト技術革新・経済社会研究所(UNU-MERIT)の研究アシスタントである。現在の研究対象は、テクノロジーおよびイノベーションのガバナンスに関連した持続可能な開発目標(SDGs)であり、中でも目標6と目標3に大きな関心を寄せる。マーケティングとブランドマネジメントの専門知識を研究に生かし、公衆衛生や廃棄物管理といった社会的大義をビジネスの視点から考察している。

ドーカス・ンブヴィは、国連大学マーストリヒト技術革新・経済社会研究所(UNU-MERIT)の研究員である。また、同研究所が影響評価を担当しているFINISH-INKプロジェクトの責任者を務めている。このプロジェクトでは、WASH技術革新と採用、行動変化、社会起業家、福祉増進、ならびにケニアの保健施設、学校、都心部、農村コミュニティ、および一般世帯における持続可能な廃棄物のリサイクルと管理を推進している。

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