アジアの都市化と深刻化する水問題

現在世界人口の半分以上が都市に居住しており、その割合は2050年には68%に達すると予測されている。これは自然増に加え、農村から都市への人口流入が続くことによる。

この都市への人口集中に伴い、世界には人口1,000万人を超えるメガシティが数多く形成されるようになった。2015年現在メガシティは世界に29あり、その半数以上にあたる18都市がアジアに位置している。メガシティは今後増え続け、2035年には48都市(うちアジアに32都市)になると予測されている(ここまでの人口推計はUN DESA, 2018による)。このようなアジアの大都市では、人口増加という圧力が未成熟な水インフラにかかり、水の量・質の両面で様々な問題を抱えている。都市化は今後も続くうえ、気候変動による影響もあり、水問題はこの先さらに深刻になる。本稿ではアジアの大都市における水問題の例として洪水と水汚染をとりあげ、今後人口増加や気候変動によってどのように状況が変わるかを見てみたいと思う。

アジアでは多くの大都市が河川の河口部や海沿いの低平地に位置している。特にアジアモンスーン地域では豊かな降水量に支えられて多くの都市が発展しているが、この地域では主に雨季になると短時間に激しい雨が降ることでも知られる。東南アジアや南アジアの大都市では洪水対策(雨水排除)がまだ十分ではなく、このような激しい降雨により都市型洪水が頻繁に発生している。

世界各国の研究機関が構築した気候予測モデルの95%以上が、アジアモンスーン地域においてこのような極端な降雨の頻度や降水量は今後増加すると予測しており(IPCC, 2013)、この傾向は日本でも同様である(気象庁,2017)。したがって、洪水による被害は今後ますます甚大になる。

図1はアジア4都市において、再現期間50年の降雨による洪水域を2015年と2030年時点とで比較したものである。再現期間50年の降雨とは、その降水量以上の降雨が発生する頻度が50年に1回であることを意味する(例えば「再現期間50年の降水量が100mm/日」とは,1日あたり100mm以上の降雨が平均して50年に1回発生するという意味である)。2015年時点で50cm以上の洪水が発生した範囲を100とした場合、わずか15年の間に最大で26%増加することを示している。

図1 アジア4都市における2030年の再現期間50年の降水量による洪水域(2015年=100とする,Masago et al., 2018より)

また、人口増加や経済の発展にともない、生活や経済を支えるのに必要な水資源の量は増加を続けている。一方で、特に開発途上国では生活排水が十分に処理されずに放流されているため、大都市では清浄な水の確保が困難になっている。今後も続く都市人口の増加は、そのまま生活排水の増加につながり、放流先の水質をさらに悪化させる(図2)。首都クラスの大都市では2030年代にすべての生活排水を下水処理場で処理するという目標を定めて下水道の整備が急速に進められているところが多いが、地方の中核都市等ではまだ下水道整備計画すらないところが多く、今後水質のさらなる悪化が懸念される。

 

図2 アジア4都市における都市内河川の水質(生物科学的酸素要求量(BOD),2015年=100とした時の2030年の値,Masago et al., 2018より)

このようにアジアの大都市が抱えている水に関する様々な課題は、今後気候変動や都市人口の増加などの影響を受けさらに悪化すると予想される。気候変動の影響は50年や100年といった期間で議論されることが多いが、洪水に直結する極端な降雨事象は、より短期間のうちに深刻化するであろう点を忘れてはいけない。たとえば上記の4都市の例では、2030年には現在想定しているより10-24%多い降水量に対応した水インフラが必要となる。また、下水による水汚染は人口増加の影響を強く受けるが、この4都市の人口は毎年1.5-3.3%ずつ増加している(10年で16-39%の増加)。長い工期や耐用年数を考えると、水インフラ整備にあたってはこのような比較的短期間の変動を考慮に入れることが重要だ。

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(1)気象庁,2017.地球温暖化予測情報第9巻
(2)IPCC, 2013: Climate Change 2013: The Physical Science Basis. Cambridge University Press, Cambridge, United Kingdom and New York, NY, USA, 1535 pp.
(3)Masago, Y., B. K. Mishra, S. M. Jalilov, M. Kefi, P. Kumar, M. Dilley, K. Fukushi. (2018). Future Outlook of Urban Water Environment in Asian Cities: Summary for Decision Makers. United Nations University Institute for the Advanced Study of Sustainability, Tokyo, Japan.
(4)UN DESA, 2018. World Urbanization Prospects: The 2018 Revision. https://population.un.org/wup

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この記事は環境新聞で最初に公表されたものであり、許可を得て転載しています(一部編集しています)。

著者

真砂佳史は、国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)のリサーチフェロー。東北大学未来化学技術共同研究センター准教授を務めた後、2015年より現職。東京大学大学院にて都市工学の博士を取得。