ラテンアメリカが学ぶべき東アジアの交通政策

ラテンアメリカの都市は、まったく異なる世界ながら、都心部の拡大という点では極東の都市と多くの共通項を抱えている。移動性移動性の点では、学ぶべきことがたくさんある。私たちは、日々の移動の90%以上にオートバイが用いられるベトナムのホーチミン市の二の舞を踏もうとしているのだろうか? あるいは、毎日の通勤の91.8%がバスあるいは電車で行われている東京都心部を見習おうとしているだろうか?

アジアから、私たちはラテンアメリカの都市の将来を予想できる。発展の道筋としては少なくとも2つの選択肢が考えられる。第一の選択肢は、「成長」を最優先に目指す経済モデルに賭け、車社会化の進行において不可避な「クリーン」の課題を後回しにすることである。第二の選択肢は、都市開発の当初から持続可能性を確実に押さえ、経済発展と社会的公正、それに自然資源保護のバランスをとることである。

「成長」優先、「クリーン」後回しモデル

最初の選択肢については、クアラルンプールとバンコクからいくつか得られる教訓がある。マレーシアの首都であるクアラルンプールは人口が700万人を超える巨大都市で、見渡す限り、都市の光景が広がっている。同市は車を念頭に置いて作られており、そこには「発展」の成功モデルはこうあるべきというイメージが反映されている。混雑した高速道路は街を分断し、高架高速道路はランドスケープを「装飾」し、歩道がないため、車が唯一の実効的な交通手段になっている。

タイの首都であるバンコクはさらにやや大規模だが、移動性の雰囲気はほぼ同様だ。データを1つ加えるとすると、住民100人あたりのオートバイ保有台数は23台である。これらのオートバイと無謀なトゥクトゥク(三輪タクシー)があふれる中で、交通渋滞のひどさは目もあてられないほどだ。近代的で安全、快適な公共の代替交通手段の不足により、自動車とオートバイが街を支配する傾向はさらに高まっている。

クアラルンプールにはライトレール(軽量軌道)システムがあり、それなりに機能している。蔓延する交通渋滞の中では、何千台もの(違法)タクシーやバスは否応なしにのろのろ進むことになる。注目されるのは論議を呼んでいるモノレールで、なぜか街の南側にある「セントラル」ステーションと金融街との短い距離を結び、その間の11カ所に駅が設けられている。だが、このシステムには収容力がないので、3つ目の駅に着く頃にはすでに混雑しているという次第である。

ペトロナスタワー(国営石油企業の社名にちなんで命名された派手なツインタワー)に最も近いモノレールの駅は、すぐ前が道路の交差点で、これはまさに悪夢でしかない! 歩行者用の信号を青にするためのボタンがあるが、信号がどこにもない! したがって、この都市の堂々たる2つのシンボル(クアラルンプールタワーとペトロナスタワー)の間を行き来するには、高速道路を動物のように走って横切るしかない。車のために作られたこの都市では、残念ながら自転車という選択肢について話し合われることは一切ない。

バンコクでは、いかなるものであっても、近代的な公共の代替交通手段が提供されるまでに実に長い年月を要した。2004年以降も、大規模なライトレールシステムだけである。通勤鉄道は1999年から使われているが、いくつかの都市道路と並行して走っており、これなら市民はまず、自動車やオートバイの方がいいと考える。市内は非常に混雑しているため、中心部に最も早く着く方法のひとつは公共の運河船である(サンセップ運河水上バスと呼ばれるもので、これはバンコクを訪れる人には必須の足だ)。

移動に自動車またはオートバイが使われる割合はバンコクでは60%、クアラルンプールでは80%近くにのぼる(クアラルンプール・ストラクチャ・プラン 2020によると、日々の移動に公共交通機関が利用されている割合はわずか20%である)。こうしてもたらされる惨憺たる結果は、私たち全員のための有名なカクテル「さらに車を、さらに渋滞を」だ。

渋滞がいっそうひどくなると、正しい情報を十分に得ていない市民はもっと道を増やしてほしいと言う。政治家は、その声を票集め(そして時には私腹を肥やすため)のチャンスにして、さらに道路を作ると約束する。最終的な結果はいつも同じだ。増えた道は増えた車で埋め尽くされ、公害はひどくなり、健康被害は増え、緑地帯は減り、セメントで固められた部分がはびこる。以上だ。状況がこんなにもラテンアメリカに似ているのは偶然だろうか?

持続可能性の選択肢

これまでに述べたような命取りのカクテルの例は、世界中の新興国にごまんとある。だが一方、極東では、持続可能な都市のあり方についても興味深い教訓が示されている。その中でもシンガポールと香港は世界でも最も人口密度が高い都市である。

シンガポールは1960年代にマレーシアから独立を勝ち取った都市国家である。今日では高所得国として知られているが、同国はまた、世界で最も革新的な都市計画を推進していることでも知られている。1972年に策定された最初の「構想案」以降、国土の持続可能性は常に最優先事項のひとつに掲げられている。早くから、シンガポールは総合的な公共交通機関を移動手段の主軸にすることを決め、土地利用と交通計画を統合的に実施してきた。1970年代から、シンガポールは都市の車社会化を規制することの重要性を強調し、その努力は成果を上げている。

シンガポールは渋滞課金の導入で知られているが、その最初の制度が適用されたのは1975年だ。この制度は後に電子料金収受システムに発展し、今では、交通量、時間、速度に合わせて課金のレベルを調整できるようになっている。この施策のねらいは、自動車やオートバイよりもバスや地下鉄の利用を奨励することだ。

それよりもおそらくさらに革新的だった(そして論議を呼んだ)のは、1990年に導入された、新車販売に際しての車両台数割当システムである。新車購入の許可申請には、所有権証書の入札に応募し、その結果を待って、約5万米ドルの落札価格を支払わなければならない。その挙句、新車の購入後はその価格と同額の税金を支払うのだ。信じられないではないか?

一方、香港は本土につながる島々から成り、山地が非常に多い地形である。だからこそ、香港の交通システムのいくつかの側面はまさに驚異的としか言えない。地下鉄は海底トンネルにより海を越えてネットワークを形成し、路面電車は急勾配の坂道でも上ることができる。さまざまな船の便が島々を効率的に結び、運行管理の行き届いた清潔なバスは街中にくまなく配置されている停留所に定刻にやってくる(無料のワイヤレスインターネットが利用できる場合もある)。さらに素晴らしいのは、共通の「オクトパス」スマートカードですべての交通機関の料金が払えることだ。

付け加えれば、本島には、主要な2地域を結ぶ歩行者用高速レーンのようなものがある。空港と同じように、屋外エスカレーターと動く歩道のシステムで構成されていて、自動化された歩行者ルートは全長1キロメートル近くに及ぶ。なお、自動車道からは完全に隔離されている。

学ぶべき教訓は?

さて、ラテンアメリカの多くの都市は車社会化しながら発展を続けているが、クアラルンプールの「カーボン」コピーになる危険性もおおいにはらんでいる。しかし、この破壊的な惰性を阻止し、人間のための都市の計画を始める時間はまだ残されている。

土地利用、都市密度、渋滞課金や公共の代替交通機関に関する東アジアの政策から、ラテンアメリカの都市は重要な教訓を学ぶことができる。

• • •

この記事は UNU-MERIT’s Blogに発表されたものです。

翻訳:ユニカルインターナショナル

Creative Commons License
ラテンアメリカが学ぶべき東アジアの交通政策 by カルロス・カデナ・ガイタン is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

著者

カルロス・カデナ・ガイタン氏は国連大学マーストリヒト技術革新・経済社会研究所(UNU-MERIT)の中にあるマーストリヒト大学ガバナンス大学院の博士リサーチフェローである。現在のポストに就く前には、さまざまな業界で幅広い経験を積んできた。その間にはワシントンで政府関係機関に勤務したほか、International Cooperation Agency of Medellín (メデジン国際協力機関)、アトランタのカーター・センター、ニューヨーク市保健精神衛生局に協力したこともある。経営学で学士号、行政学で修士号を取得している。