スティーブン・リーヒー氏は、カナダ人のフリーランスジャーナリストとして、インタープレス・サービス(IPS)通信社での記者として寄稿した5年間を含め、通算12年にわたり活動してきた。リーヒー氏は、科学、環境、農業分野を専門としていて、数カ国で主要な雑誌・新聞で執筆している。カナダのトロント均衡のブルックリンに拠点を置き、Society of Environmental Journalistsのプロフェッショナルメンバーでもある。
「経済システムが私たちの役には立っていないことは、火を見るよりも明らかです」と、経済学者のティム・ジャクソン氏は語った。彼は英国のサリー大学で持続可能な開発の教授を務めている。
今回の報告書の執筆者で、『成長なき繁栄』の著者であるジャクソン氏はIPSに、気候変動、汚染、生態系の破壊、記録的な種の絶滅、持続不可能な資源の利用はすべて、機能不全に陥った経済システムの明らかな症状だと語った。
「現在の経済システムは、本来あるべき経済の偽物です。社会の幸福を創出することは全くできず、世界中の人々や社会を傷つけてしまったのです」と彼は語った。
『The Emissions Gap Report 2013(温室効果ガス排出ギャップ報告書2013)』によれば、世界の気温上昇を2℃未満に抑えるためには、排出量を2020年までにピークから減少させなければならない。この報告書には17カ国の44科学団体が参加し、国連環境計画(UNEP)が調整役を担った。
コペンハーゲン合意に基づく気候に関する現在の誓約を各国が順守したとしても、2020年のCO2排出量は、妥当なコストで気温上昇を2℃未満に保つために必要な排出量より80億~120億トン多くなる可能性が高い。
化石燃料の燃焼によって生じる二酸化炭素(CO2)は今のところ、世界の平均気温をわずか0.85度上昇させるにとどまっているが、この上昇でさえ、さまざまな影響を及ぼしている。
長年にわたる交渉にもかかわらず、各国の排出削減への取り組みは相変わらず、必要条件を満たす状況からは程遠いと、UNEPの気候変動コーディネーターのMerlyn van Voore(マーリン・ヴァン・ヴーア)氏は語った。
コペンハーゲン合意に基づく気候に関する現在の誓約を各国が順守したとしても、2020年のCO2排出量は、妥当なコストで気温上昇を2℃未満に保つために必要な排出量より80億トンから120億トン多くなる可能性が高いと、同報告書は結論付けた。この「排出ギャップ」を2020年までに埋めることができなければ、炭素排出量を急降下させるために前例のない国際努力が必要となる。
「ただ手をこまねいていれば、さらなる膨大なコストが生じます」と記者会見でヴァン・ヴーア氏は語った。
2009年のコペンハーゲンでの誓約を超えた取り組みを自ら行う国は皆無である。また、今週開催される気候変動に関する国連枠組条約締約国会議(COP19)で新たな提案がなされることを、誰も期待していない。COP19に出席予定の首脳は非常に少なく、結果的に今回の会議は、2020年になって初めて効力を発する新たな気候協定を形作る、技術的な交渉の場になりそうだ。
COP19に出席予定の首脳は非常に少なく、結果的に今回の会議は、2020年になって初めて効力を発する新たな気候協定を形作る、技術的な交渉の場になりそうだ。
2020年までに残された6年間で、各国は排出量の削減目標を高めなければならない上に、一部の国はコペンハーゲン合意を達成するための政策を実際に導入しなくてはならない。報告書は、中国、インド、ロシア、欧州連合は順調な進展を見せているものの、アメリカとカナダは順調ではないことを明らかにした。
しかし、アメリカはこの数カ月間に、発電所に対する排出の上限規制を含む、新たな政策と計画を導入した。カナダはその逆の方向に進んでいる。
カナダ政府の最近の報告書は、同国の排出量がコペンハーゲンでの削減目標より少なくとも20パーセント多いことを認めている。急速に拡大しつつあるオイルサンド開発から生じる排出量が急増していることを考慮すれば、カナダの現状は「良好な進展」であると、同報告書は記している。
「カナダは豊かな国です。容易に目標を達成できるはずです」と、世界資源研究所の気候およびエネルギープログラムのディレクターを務めるジェニファー・モーガン氏は語った。
「カナダが目標を達成することは非常に重要です。そうすれば世界に大変重要なメッセージを送ることになります」と、UNEPの報告書の筆頭執筆者であるモーガン氏はIPSに語った。
しかし、経済が行動を妨げている。カナダはアメリカへの最大石油供給国として、非常に豊かな国になった。過去20年にも満たない間に、カナダの国内総生産(GDP)は3倍の1兆8000億ドルになり、さらなる成長を遂げるための野心的な計画を立てている。カナダの政治家たち、また世界各国の政治家たちは、自国の経済成長を損なうと考えられる対策を拒絶するのだ。
ジャクソン氏や多くの生態経済学者は、現在の自己破滅的な経済を、共有的で永続的な繁栄をもたらす経済に転換しなければならないと語る。この種のグリーン経済は、クリーン技術を導入した、従来の経済を大きく超えるものである。それはジャクソン氏が「目的適合型の経済」と呼ぶものであり、安定的で、公正性に基づき、まっとうで満足できる暮らしを提供する一方で、地球への負荷が軽い経済である。
「繁栄とは、より多くのものを手に入れることではありません。繁栄とは、限りある地球上で健やかに暮らす技術です」とティム・ジャクソン氏は語った。
ジャクソン氏は、成長を崇拝する現在の消費経済は「屈折して」おり、人間の特性や本来の欲求とは調和しないと語る。
「繁栄とは、より多くのものを手に入れることではありません」と彼は語った。「繁栄とは、限りある地球上で健やかに暮らす技術です」
現在の経済には強力な既得権益が存在するため、こうした転換を実現することは難しい。しかしコミュニティのレベルでは、すでに実現し始めている。ジャクソン氏と、共同執筆者でカナダのヨーク大学のピーター・ヴィクター氏は新たな報告書『Green Economy at Community Scale(コミュニティ規模でのグリーン経済)』の中で、こうした状況を詳しく記している。
ジャクソン氏らは、地域社会を強化するコミュニティ銀行、信用組合、共同的投資スキームに転換的なグリーン経済のルーツを見いだしている。多くの人々にとって役に立たず、環境的危機を生み出した経済への反応が、トランジション・タウン運動、地域通貨、コミュニティ経営によるエネルギー計画、世界的なエコシティ運動なのだと、ヴィクター氏はプレスリリースに記した。
「成功の指標としてGDPを用いることは、ペダルをこぐ速さだけに注目しながら自転車に乗るようなものです」とジャクソン氏は言う。「あまりにも多くの点で間違っています」
翻訳:髙﨑文子