天ぷら廃油でクルマが走る

リオデジャネイロのはずれに、1日に9000トン以上のゴミを受け入れる世界最大のゴミ投棄場がある。ジャルジン・グラマショ(グラマショの園)と呼ばれるこの投棄場は、まさにゴミであふれ返っている。数年前にはその構造体にいくつかの割れ目が見つかったが、不法投棄などの問題があるために、閉鎖の措置はまだ成果を上げていない。

調査の結果、わかったことだが、グラマショでは 毎日、家庭ゴミ、瓦礫、医療廃棄物、産業廃棄物などに由来する有機・無機化合物の混ざった800立法メートルもの汚染水が、グアナバラ湾に流出している。この流出液は、高濃度のアンモニウム、窒素、塩化物、ナトリウム、カリウムを含み、非常に毒性が高いと考えられている。

劣悪な環境条件下にもかかわらず、廃品回収業者は過去30年以上もの間、ゴミの山から価値の高い再生資源を収集・販売し、収入を得てきた。写真: グラウコ・ウンベリーノ

劣悪な環境条件下にもかかわらず、廃品回収業者は過去30年以上もの間、ゴミの山から価値の高い再生資源を収集・販売し、収入を得てきた。写真: グラウコ・ウンベリーノ

ブラジルでは2010年、屋外投棄を廃絶する法律が国会で成立したため、2012年末には、この場所も含めて、国内のゴミ投棄場がすべて閉鎖されることになっている。しかし、環境災害の終息を喜ぶより、市当局は市内の廃棄物の70%、それに加えて近隣の市から排出されるゴミのすべてを今後どこで処分するのか、また投棄場からもたらされる収入で生計を立てている1万5000人をどうするのかに頭を悩ませている。

劣悪な環境条件下にもかかわらず、廃品回収業者は過去30年以上もの間、ゴミの山から価値の高い再生資源を収集・販売し、収入を得てきた。投棄場が閉鎖されれば、3000~4000人が埋め立て地から締め出され、近隣のスラムで暮らす家族が収入源を失う。

ブラジルでは従来、廃品回収業者の組合が法律の制定に影響を及ぼすことなどほとんどなかった。しかし、今回の法律では廃品回収業者の働き口についても配慮がなされ、彼らをリサイクル業界に取り込むこと、一方で彼らがより健康かつ安全に働けるように、労働条件の整備に努めることが明記された。

組合の解決策

リオデジャネイロから南西に700マイル離れたサンパウロでは、廃品回収業者の組合がレジ・カタザムパというネットワークを作って成果を上げている。このネットワークにはサンパウロ市内および周辺の15組合が加盟し、プラスチック、古紙、ガラス、発泡スチロール、廃食用油などの再生資源を地元の飲食店、家庭、中央集積所などから回収している。

通常、廃品回収業者は荷台一杯に再生資源を積み、組合に持ち帰る。組合では別の廃品回収業者がその資源を分類する。組合の施設は、高速道路の高架下の空き地から、市が提供した大型の建物までさまざまだ。組合のほとんどは圧縮装置を所有しているので、分類した資材の保管も容易にできる。リサイクル会社は必要な資材をたいていは大量に一括購入するので、その時まで貯蔵しておくのである。

ネットワークに加盟している組合がどのように協力しているかを示す例を挙げたい。たとえば古紙はすべて、 CRUMA (「環境のための廃品回収業者組合連合」を意味するポルトガル語の頭文字を取った名称)という1つの組合に持ち込まれ、その組合がまとめて、より高い価格で販売し、その利益を協力組合間で分配する。地元のスラムのメンバーで構成されている別の組合は資金を集めて、ソーダのペットボトルからほうきを作る機械を購入した。

サンパウロ近郊の小さな市、アルジャーでは、CORA (Association of Collectors in Arujá and Region:アルジャーと周辺地域の廃品回収業者組合)という組合が1ヶ月に80~100トンの再生資源を回収・分類するだけでなく、講習会を開催して地域コミュニティの環境教育にも尽力している。この組合は20人の廃品回収業者を雇用しており、市から寄付された大型収集トラックを活用し、今の作業場を現在建設が進められている大規模施設に間もなく移転する予定だ。

“ブラジルの廃品回収業者組合が行っている独自のアプローチは世界の注目を集めている。”

ブラジルの廃品回収業者組合が行っている独自のアプローチは世界の注目を集めている。2011年5月には、マサチューセッツ工科大学 (MIT)、サンパウロ大学、航空技術研究所、カンピーナス州立大学の学生が、ある組合と協同で、回収した廃食用油の価値を上げるために安価な廃食用油ろ過システムを導入した。MITで2010年1月に開始されたグリーン・グリース・プロジェクトの目的は、サンパウロの廃品回収業者が回収した廃食用油(waste vegetable oil:WVO)の用途を見つけることである。そのチームを構成するのは、MITのバイオディーゼル・グループに所属する学生だ。同グループはキャンパスに設置した加工装置で廃食用油をバイオディーゼルにリサイクルする活動を行っている。

2010_0824Brasil2010-30085-460x260廃食用油の中の遊離脂肪酸を中性化するために必要なエステル交換反応のプロセス(水酸化ナトリウムなどの強力なアルカリ触媒を用いて、メタノールのようなアルコールと植物油の中に含まれているトリグリセリドを反応させる)は比較的単純だが、有害化学物質を必要とするため、正しい知識とトレーニングが必要だ。MITのコミュニティ・イノベーターズ・ラボのリビー・マクドナルド氏から助言を受けている学生グループは、その点を考慮して、より初歩的な技術を選択した。つまり、エンジンの余熱だけを用い、変換の処理をしない廃食用油でディーゼル・エンジンを稼働させることにしたのである。

CRUMAで試験的なワークショップを行い、学生グループはリサイクル品と現地で調達できる資材を用いて2台のディーゼル車の改造を行った。この技術はディーゼル・エンジンの発明に遡るものである。発明したルドルフ・ディーゼルが植物油でエンジンを稼働させようとしたのは、その燃料であれば農民や職人が地元で手に入れられるからだった。しかし今日、廃食用油を燃料として用いる技術には、入手できる情報や法規が十分でないために、かなりの制約がある。バイオディーゼル製造ほど複雑ではないが、慎重なメンテナンスと廃食用油の適切なろ過が必要で、いずれにしても専用の設備と十分な説明による理解の浸透が不可欠である。

廃食用油の課題

他の再生資源に比べて、廃食用油にはいくつかの課題があり、特に問題になるのは保管と安全性だ。古紙やプラスチックはその他の廃棄物から簡単に選り出せるが、廃食用油は生活排水として廃棄されることが多い。だが、それではすぐにでも水質汚濁を引き起こす危険性がある。サンパウロで廃食用油のリサイクルを行う企業、 バイオオートによると、適切に処理されていない廃食用油は1リットルで最大2万3000リットルの水質汚濁につながるという。つまり、廃食用油を排水に流すのではなく、バイオディーゼル生産や直接燃焼など、より生産的に用いられれば、水質汚濁を抑えられるうえに、化石燃料への依存も減らせる可能性がある。

サン・ジョゼ・ドス・カンボスにある組合、サン・ヴィセンテは、他の組合からも廃食用油を回収して、バイオディーゼル製造業者に廃食用油を大量販売しようとしている。この廃品回収業者は植物油の供給元に保存容器を配布し、効率的な吸い上げ技術で回収して、25万リットルの処理能力を持つ高度なシステムでろ過を行っている。このシステムの購入にあたっては、市当局の支援が一部に充てられている以外はローンを利用した。1ヶ月あたり4万リットルを回収すれば損益分岐点に達するのだが、今は1ヶ月に1万リットルしか回収できていない。

“米国では廃食用油はまだ環境保護庁に燃料として認められていないが、これらの取り組みは世界中の活動に影響を及ぼしている。”

このろ過システムを見たグリーン・グリース・プロジェクトのメンバーは、リサイクル品と現地で調達できる資材を用いて、より小型で安価なシステムを作ることに決めた。CORAに設置したシステムは、処理能力こそ200リットルながら、廃食用油から86%の水分と5ミクロンより大きい粒子のすべてを取り除ける。しかも、コストは150レアル(約80米ドル)と、サン・ヴィセンテのシステムより1000倍以上も割安だ。2011年5月にこのシステムを導入して以来、組合は商品価値を2倍にすることができた。

米国では廃食用油はまだ環境保護庁に燃料として認められていないが、これらの取り組みは世界中の活動に影響を及ぼしている。 グリーン・グリース・プロジェクトそのものも、ボストンを拠点に廃食用油を回収、また廃食用油で走行するようにディーゼル車を改造しているグリーン・グリース・モンキーという企業からインスピレーションを得ている。別のMIT学生グループは、地元の労働者が所有する組合、ロクスベリー・グリーン・パワーと力を合わせて、ボストン地域全体で廃食用油回収量を増やし、バイオディーゼル製造企業や廃食用油対応車オーナーに販売することで、組合の利益を最大化しようとしている。

代替燃料源として廃食用油を回収しても、ジャルジン・グラマショのようなゴミの山が一夜にして片付くわけではない。だが、環境や社会にとって持続可能な手法でシステムが確立されれば、廃棄物に対する私たちの認識が変わり始めるかもしれない。グリーン・グリース・プロジェクトのようなイニシアチブがリオデジャネイロでも根づけば、廃品回収業者は廃食用油で動く収集トラックに乗り、安全かつ衛生的な労働条件下で再生資源を選り分けられるようになるだろう。私たちが生み出す廃棄物の量が人口増加とともに増えざるをえないならば、そのようなイニシアチブは埋め立て地に眠っている計り知れない価値に目を向けさせる力を持つだろう。

翻訳:ユニカルインターナショナル

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天ぷら廃油でクルマが走る by アンジェラ・ホジナキ is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

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著者

アンジェラ・ホジナキ氏はMITで機械工学を専攻しており、エネルギーと環境問題に特に強い関心を抱いている。廃食用油をバイオディーゼルにリサイクルしてキャンパスで利用しようという学生主体のイニシアチブ、Biodiesel@MITに参加、その経験を活かして、コミュニティ・イノベーターズ・ラボとIDEAS コンペティションの支援を受けたグリーン・グリース・プロジェクトの実施に協力した。現在は大学を1年間離れ、ボストンおよびサンパウロにおける廃食用油の燃料利用、ニカラグアおよびインドにおけるバイオ消化槽活用など、廃棄物をエネルギーに転換するプロジェクトの推進に尽力している。

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