あらゆるもののカーボンフットプリント

「私はエコに関しては巨大な足をした罪人です。巨大なカーボンフットプリント(炭素の足跡)を残してきているのですから」

もし「二酸化炭素排出者匿名者会議」に参加することがあれば、私はこんなふうに自己紹介するだろう。といってもそんな会議は存在しない。しかし先進国、ほぼ先進国になりつつある国々ではそろそろ行われても良い頃ではないかと思う。

なぜか?現在人類は年間490億トンCO2e(大気中における温室効果ガス排出量を二酸化炭素の量に換算した単位)もの温室効果ガスを排出している。少なくとも気候変動に関する政府間パネルの2007年統合報告によれば、数年前はその数値だった。温室ガス排出と地球温暖化に関する見解はまちまちだが、490億トンが公害や生態系に与える影響は莫大である。我々が過度に依存する化石燃料の燃焼により、およそ300億トンCO2e、地球の温室ガス総排出量の56.6%を占める。これを考えただけでも、変化が必要なのは明らかである。

他の依存症と同様に、私たちはまず依存症であることを受け入れ、ニュートンが言うように、どんな作用に対しても同等の(温室ガスの)反作用があることを認めなければならない。

しかし低炭素のライフスタイルに切り替えるのはどのくらい難しいのだろうか。ネット上には無料の二酸化炭素排出量計算機が存在し、私たちが「どれだけ悪いか」を教えてくれる。しかし、私たちが知るべきなのは私たちが「どれだけグリーンになりうるか」である。そのために必要なのはわかりやすくシンプルな情報と、排出炭素量を意識した賢明な選択の目安となるような数字である。そうしなければ切り替えが必要かどうかどうやって決められるだろう?

そこで役立つのがマイク・バーナーズ=リー氏の新著「How Bad are Bananas?: The Carbon Footprint of Everything(バナナはどれだけ悪い?あらゆるもののカーボンフットプリント)」である。

正しい選択肢を選ぼう

英国のランカスター環境センターと提携するカーボンコンサルティング会社で取締役を務めるバーナーズ=リー氏は、私たちの日々の行動や買い物がどのように環境に影響を与えるかを示してくれる。私たちの多くはここまでする時間はないが、彼は多くの一般公開されているデータやモデル、報告書や研究(彼自身が行ったケースもある)をふるいにかけ、ほとんど全てのものについて炭素排出の概算量(または推測の量)をはじき出した。

本の中ではおよそ100項目に分け、単位ごとの(英国ベースでの)CO2eを低いもの(10グラム以下)から、莫大なもの(100万トン以上)まで挙げている。そしてそれぞれの項目に対しゆりかごから墓場までの(全過程)分析を行い、各項目による様々な環境的社会的影響を説明する。

例えば平均的なインターネットユーザーのネット習慣はどうか。インターネット使用も炭素排出量がゼロというわけではない。個人のレベルでは低い数字かもしれないが、携帯メールやEメール(このサイトによると2009年のEメール総数は90兆通)や「グーグルする」ことによる世界全体のCO2eは年間で3億6000万トンにも上る。それに加えデータ保存(ウェブページ、データベース、アプリケーション、ダウンロード)のためには1億3000万トンCO2e。サイバースペースにおいてすら、行動を起こせば影響があることが実感できる。

地下鉄に8キロほど乗ったり、500mlの牛乳を買ったりすることでどのくらい二酸化炭素を排出しているかなど考えたことがあるだろうか?衝撃的なことにイギリスではこの2つの行動の排出量は同程度である。ロンドンの地下鉄といえば1日に3万人を運んでいる。それに比べて牛乳は1人分の換算量なのだからひどいものだ。バーナーズ=リー氏によると、毎日1リットルの牛乳を消費すれば、年間527kgとなり、(それによるCO2eは)ロンドンからマドリッドへのフライトと同じだ。

個人的には、これらの数字には衝撃を受けた。私はインターネットにどっぷり浸かっているし牛乳はどんな形であれ大好きだ。新鮮な牛乳、クリーム、凝固乳、発酵乳、生乳、殺菌牛乳、ホモ牛乳も、ノンホモ牛乳もだ。私は牛乳について調べるためにもインターネットを使う。バーナーズ=リー氏の計算は間違っているに決まっている。乳製品なしの生活など宣告されてはたまったものではない。ロンドンとマドリッド間のフライトと、1年分の乳製品を選べといわれれば迷うことなく後者を選ぶ。でもマドリッドへ行って地元スペイン産のチーズを食べないかと誘われたら…これは難しい。

“何十億ものつまらない物や国際フライトが利用される理由はただひとつ。 『ステータス』だ。”

著者ははっきり述べている。「何十億ものつまらない物や国際フライトが利用される理由はただひとつ。『ステータス』だ」 社会でのステータスを証明するために金を使う必要があるのなら、より炭素排出量の少ない選択肢に投資をしてみるのはどうだろうか。派手な車を買う代わりに、ソーラーパネルや風力タービンに投資するという具合に。

あるいは、もし会社を経営しているなら生産、小売、廃棄というサイクルを改めて見直してみてはどうだろう。二酸化炭素排出を減らすことで効率を上げ、節約もできることに驚くかもしれない。そしてもちろん、善を成すこと自体が称賛に値する。

しかしそういった難しい選択を「難しすぎる」とか「1人の行動では何も変わらない」などと決めつけてしまうのはあまりに容易く、危険である。多くの個人が団体になり、団体が集まって社会的運動となることを決して忘れてはならない。

10トンCO2eのライフスタイル

達成目標を設定するのはよいことだ。そうしやすいようにバーナーズ=リー氏は10トンライフスタイル目標を提案している。つまり、公害の深刻な先進国の1人当たりが年間の温室ガス排出量を10トンCO2eに抑えるという目標だ。

平均的なオーストラリア人とアメリカ人で考えると、現在の3分の2を削減することになる。(その研究によるとオーストラリア人とアメリカ人はどちらも年間30トンCO2e近くを排出している)

この目標値はあまりに低く、達成は不可能と思えるかもしれない。しかしはっきりさせておこう。それでもこの数値は高いのだ。現在の世界全体の平均は4トンほどだ。だから地球上の全員が10トンCO2eのライフスタイルをおくったとしても、環境的にはまだまだ厳しい状態なのだ。

モルディブその他の島国で決定されたように世界的な気温の上昇を1.5度に抑えることは2050年までに二酸化炭素排出量の8割を削減することを意味する。1人当たりが年間の二酸化炭素排出量3トンのライフスタイルをおくらなければならないのだ。これは大変な二酸化炭素節約目標ではないか。それを思えば10トンという目標は最初のステップとしては控えめなものだ。

では10トンのライフスタイルとはどんなものだろうか。イメルダ・マルコス夫人なら、かの有名な靴のコレクション(3000足程度、すなわち30トンCO2e分)を3分の1に減らさなければならない。これは夫人がごく一般的な靴を買うと仮定してのことであり、また他には一切何も(食べたり、飲んだり、運転したり、電気を使用したり)しないという条件での話だ。いかにも辛そうだが?

私たち一般人の場合、年間10トンの生活というのは1ヶ月の排出量を833キロCO2eに、つまり1日27.4キロに抑えることを意味する。以下の一覧表を見れば、私たちの現在の生活ではいとも簡単に10トンを超えてしまうことがわかる。下に示した項目以外一切何もしない、という条件であることをお忘れなく。

二酸化炭素排出量10トンのライフスタイル

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いかに簡単に10トンの排出量になってしまうかがおわかりだろう。毎月2個のチーズバーガーをあきらめれば、(10トンのライフスタイルの2日分に相当する)、10トンのライフスタイル365日分となる。

(注:明記していない場合を除き、計算は著者が本の中の統計に基づいて行ったもの)

自分なりの取り組み方を決める

この表が示すのは、最終的に自分なりの取り組み方を決め、広い視野を持って臨むことの大切さだ。つまり、ペーパータオルを使うべきか、電気のハンドドライヤーを使うべきかといった細かいことばかりに気を捕らわれすぎないようにということだ。それより出張で飛行機に乗る代わりに電話会議で事足りないか検討したり、毎日肉を食べるといった影響の大きな習慣を見直したり、ほんの10分先の店へ行くのにガソリンを食う車で出かけるのをやめたり、といったことを考えるほうがよい。

また自分なりの取り組みを決めるにあたって、次の例を考えてみてほしい。2010年南アフリカワールドカップで誰もがひいきのチームを応援していたとき、このイベントによりわずか1ヶ月の間に280万トンCO2eが排出された。これは国内外の選手や観客の移動、スタジアム、その周辺地区、宿泊施設の運営のエネルギー消費や建築と資材からの排出分も含めた数字だが、各家庭でのテレビ観戦で消費されるエネルギーは含まれていない。バーナーズ=リー氏によると、この量は「6000回スペースシャトルを発射し、エトナ山の火山活動を3年間停止させ、イギリスの全ての老若男女に20個のチーズバーガーを与えるのと同程度のエネルギーだ」

しかし最終的にバーナーズ=リー氏が強調するのはこうだ。「この本は何かをするよう命じたり、過激になるよう勧めたりしているわけではない。これらは個人的な決定事項だ」

食べ物が答えだ

バーナーズ=リー氏は1つのセクションを食料からのカーボンフットプリントについて費やしている。私たちが購入する食料だけでも二酸化炭素排出の20%も占めるからである。しかもそれは表面的な数字に過ぎない。大規模な農業による森林伐採の損害も考慮に入れれば、数字は30%に跳ね上がる。

バーナーズ=リー氏やマイケル・ポラン氏などはこの数字を減らすため、簡単で、論理的、倫理的な選択肢を勧めている。これらは驚くほど大きな炭素削減効果があるのだ。以下がカギとなる例だ。

 購入したものを食べること(例 残り物を捨てないこと、食べ物を冷蔵庫で保存すること)によって25%削減につながる。
 肉や乳製品の消費を減らすこと— 25%
 旬のものを食べ(著者はどんな食べ物がいつ旬なのか簡単なガイドを添付している)温室栽培や空輸したものを避けること — 10%
 過剰包装を避け、リサイクルすること — 6%
 店の廃棄物を減らすため、棚の前列に並べられている(消費期限の近い)ものや価格を下げた商品、形の悪い果物や野菜を選ぶこと— 2%
 調理のためのエネルギーを減らすこと (例 鍋のふたを使用すること、出来るだけ加熱を減らすこと、使用しないときにはガスを消すこと) — 5%

これらの大部分ができれば食料分のカーボンフットプリントの60%が楽に削減できる。これは全体のカーボンフットプリントの20%の削減にあたる。

他にも驚きなのが、非効率的に製造され過剰に使用される肥料1トンはその12倍もの温室効果ガス(12.3トンCO2e)を排出するのである。最終的な作物生産に影響を与えることなく肥料を削減する余地はたっぷりある、とバーナーズ=リー氏は主張する。それに加えて、他にも環境的、社会的利益もある。肥料の価格が高いため負債を抱える農家にとっては特にそうである。

“肥料の使用の削減は非常に有効な手段だ。世界全体の炭素排出量の0.5%削減になる。ごく簡単で悪い副作用もないのである。”

「How Bad Are Bananas?」を読み、私の日常の個人的な二酸化炭素排出量は適量であることが分かった。私と夫は東京の素晴らしい公共交通手段のおかげで、車を持っていない。よく歩くし自転車にもよく乗る。住んでいるところは靴箱ほどの大きさだし電化製品も少ない。めったに肉を食べないし、調理はガスで行っている。給湯エネルギーを最小限にするためのコントロールパネルもある。

しかし、大きな問題点もある。私たちはパソコンの前に1日中座っていることが多いし、オーストラリアの家族を訪れたり、出張したりするため飛行機を利用する。年に3度海を渡るだけですでに10トン分を排出しているではないか。本気で温室効果ガス削減を目指す人は「旅行麻薬を蹴り飛ばす」よう努めているが、仕事や家族が理由で飛行機に乗りたい場合も多い。どうしたらよいのだろう?

「カーボン本能」を身につけるため文脈で数字を理解する

バーナーズ=リー氏の著作が素晴らしいのは、彼が数字を状況に合わせて示してくれる点である。私たちに分かり易い方法で炭素排出量を教えてくれるのである。私には数字だけでは意味をなさないので、これは重要な点だ。多くの人にとってもそうではないだろうか。数字の意味が分かりづらい場合は多いが、彼はそこをうまくフォローしてくれる。

さらに重要なことに、彼は各項目について製造から、輸送、エンドユーザーを経て廃棄物処理場に至るまでの全行程を読者に簡単に紹介してくれる。このため「カーボン本能」が身につき、各項目に対する、自然資源の量、時間、エネルギー、廃棄物量が把握できるようになる。

つまり「How Bad Are Bananas?」はカーボン数値を読み解く能力を与えてくれるだけではなく、全行程の理解力を与えてくれるのである。多くの人々は、購入するものがどういう影響を与えるか、他にどんな選択肢があるか、ということはほとんど全く考慮に入れずに物を選んでいる。月面に降り立った最初の人物ニール・アームストロング氏の表現を借りてまとめてみよう。(ニール、許してね!)「人間にとっては小さな1つの『足跡』だが人類にとっては偉大かつ持続可能な飛躍である」
では、バナナはどのくらい悪いのか?是非この本を読んで確認していただきたい。

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傍注:この本と共にフレッド・ピアス著の「『エコ罪びと』の告白」も是非読んでいただきたい。ピアス氏は名前、顔、場所を特定しながら具体的な話を紹介しており、様々な数字を示してくれるバーナーズ=リー氏の本の補足となるだろう。

翻訳:石原明子

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あらゆるもののカーボンフットプリント by アルバ・リム is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

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著者

アルバ・リムは国連大学サステイナビリティと平和研究所の地球変動とサステイナビリティの研究者である。それ以前は、オーストラリア財務省の経済政策アナリストとしてオーストラリア政府に勤務。思いがけずアナリストから気候変動の活動家に転身し、気候変動の適応対策と社会、道徳、世界経済の実態についての課題に取り組んでいる。日本の国立政策研究大学院大学 (GRIPS)で公共政策の修士学位を取得し、オーストラリア・シドニー大学では経済学(優等学位)を取得。

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