バーチャル施設:ゼロ・カーボン・センター

「1年前、私は自分のチームにコストと二酸化炭素排出量を削減しつつ、気候変動に関する活動の範囲を広げるようにという課題を出しました」——そう語るのは、中国のブリティッシュ・カウンシルで気候変動および持続可能性プログラムを担当するディレクター、レベッカ・ナディン博士だ。その課題に対する答えがゼロ・カーボン・センターとなった。ナディン博士いわく、同センターは「先駆的なバーチャル・エキシビション&コンファレンス・センターで、個人および組織を結びつけ、持続可能性および気候変動についての情報共有、シナジー創出、 そしてイベント開催を促進する」デジタル・プラットフォームだ。

6月21日に正式オープンしたゼロ・カーボン・センターは、エキシビション・センターを模した、使い勝手のよい3-D環境である。パートナー組織は各々、複数の部屋から構成された「スタンド」を持ち、そこから気候変動に関する情報を広めたり、ビデオを流したり、ビジターとやりとりしたりできる。BBCやドイチェ・ヴェレのドキュメンタリーが放映される映画館も別に設けられている。

また、ビデオ会議システムのWebExを導入しているので、パートナー組織は世界中の参加者を対象にトレーニングやウェビナーを実施できる。スピーカーやモデレーターはプレゼンテーションの掲示、ライブ投票の実施、参加者の質問への回答、6つまでのライブビデオフィードの同時表示といったこともできる。ウェビナーは無料で、参加は比較的容易だ。参加者はインターネットに接続できるパソコンとスピーカーまたはヘッドセットを持っていればよい。

さらに、ソーシャルメディアのプラットフォームとは完全に互換性があり、運営上の二酸化炭素排出量はすべて相殺されている。つまり、ブリティッシュ・カウンシルのデジタル・マネジャーで、シスコ・システムズやイマステといったベンダーと共にゼロ・カーボン・センターの構築にあたったスティーブ・リプスコム氏の言葉を借りれば、このセンターは「クリーンでスマートな学習、議論、イノベーションのスペース」なのだ。

デジタル・フロンティアで取り上げられる気候変動問題

費用を削減し、参加者を増やし、二酸化炭素排出量についての「有言実行」を進めるために、ゼロ・カーボン・センターは、持続可能な未来の推進に尽くす世界有数の組織を協力パートナーに迎えている。その中にはユニセフ、国連大学、英国エネルギー・気候変動省、カーボン・トラスト、インドの巨大IT企業であるインフォシス、BBC、ドイチェ・ヴェレなどが含まれている。

「パートナー組織はゼロ・カーボン・センターにスタンドを持っており、それは彼らの、そして私たちの活動の範囲を広げるのに役立っています。私たちは互いのネットワークを組み合わせ、拡充させて利用しています」とリプスコム氏は語る。

中国全土から最終候補に残った43チームが、ゼロ・カーボン・センターのスタンドにビデオや写真などをアップロードして、自分たちの学校をより環境に配慮したものにするプロジェクトを紹介した。

中国全土から最終候補に残った43チームが、ゼロ・カーボン・センターのスタンドにビデオや写真などをアップロードして、自分たちの学校をより環境に配慮したものにするプロジェクトを紹介した。

2009年に中国で行われた気候キャンプ、写真:アダム・ピルスベリー

ゼロ・カーボン・センターがお披露目となったのは、昨年12月にメキシコで開催された国連気候変動枠組み条約第16回締約国会議(COP16)である。この時、ゼロ・カーボン・センターを会場に、ユニセフとの協調により、若者たちによる討論会が3回にわたって開催されたのだ。参加したのは、カンクンに集まっていたブリティッシュ・カウンシルの気候チャンピオン(気候変動に対する理解を深めるためのコミュニティ活動を実践している)、そして中国やインド、スーダン、ドイツなどの国々で志を共にする彼らの仲間、それに英国の外務省およびエネルギー・気候変動省の高官だった。

ナディン博士は次のように語る。「これらの討論会は、COP16に出席できなかった人々にも情報と声を上げる場を提供し、また彼らのアイデアを活かす機会になりました。一方、出席者も耳を傾け、質問や提案を行うことができました。気候変動に関する国際合意を目指すには、まさにこういったことが推進力の形成に不可欠です」

2回目の試験的利用は2011年の冬で、その際にはゼロ・カーボン・センターの潜在的な利用範囲の広さが示された。中国語(北京語)版のゼロ・カーボン・センターを、ブリティッシュ・カウンシルが中国で行う「環境に優しい学校づくり(Green Your School)」競争の全国最終選考会の会場として使用したのだ。全国から最終候補に残った43チームが、ゼロ・カーボン・センターのスタンドにビデオや写真などをアップロードして、自分たちの学校をより環境に配慮したものにするプロジェクトを紹介した。

「その結果は私たちの期待をはるかに超えていました」とデジタル・マネジャーのリプスコム氏は言う。「ゼロ・カーボン・センターで最終選考会を開催したことで、昨年、オフラインで実施した時に比べて,56トンの二酸化炭素と何万ドルもの費用を削減することができました。また、訪問者数も昨年よりはるかに増加し、120万人以上のユニークビジター(重複を除く訪問者数)が私たちのパートナーの投票所で270万を超える票を最終候補チームに投じました。このイベントはインターネットで広く報じられ、140万人もの人たちがこのトピックに関するブログ、ミニブログ、オンラインフォーラムへの投稿を閲覧しました。さらにチャイナ・デイリー紙は『環境に優しい学校づくり』に関するビデオレポートを、1日に360万人ものユニークユーザーを惹きつけている同紙のサイトに掲載しました」

リプスコム氏は次のように言う。「ゼロ・カーボン・センターの特長を端的に表すなら、『低低高高』でしょう。つまり、低コスト、低炭素排出量、高インパクト、高利用価値ということです」

スマートなサミット

ゼロ・カーボン・センターで最も重要なウェビナー(ウェブ上で行う2方向の会議)の1つは、「気候変動のコミュニケーションをはばむ障壁」に焦点を合わせたものだ。議長は、中国における気候変動の報道について広範な研究を行っているナディン博士で、主なスピーカーは、ガーディアン紙特派員でアジア環境問題担当のジョナサン・ワッツ氏、それに気候変動に関する戦略的コミュニケーション・アドバイザーとして英国政府に協力し、また Engaging the Public with Climate Change: Behaviour Change and Communication(一般の人々を気候変動に関与させるには:行動の変革とコミュニケーション)という書籍の執筆にも関わっているジェマ・レグニアス氏だ。スピーカー、そしてメディア専門家、NGOリーダー、ビジネス・マネジャー、青年活動家などから成る参加者は、世界各地の自宅やオフィスからログオンして、開講を迎えた。

「このイベントをオフラインで実施したら、スピーカーの会場までの移動や宿泊まで責任を持たなければなりません。それに伴う時間、費用、二酸化炭素排出量はかなりの負担になります。さらに、これほど幅広い参加者を惹きつけることは絶対にできません」とナディン博士は語った。

北京に本社を置く社会的企業で、ゼロ・カーボン・センターにスタンドを持っているクライメット・アクションの最高執行責任者、スティーブン・チウも開講式に参加した。彼は次のように言った。「気候変動が地球に及ぼす悪影響が日に日に明らかになってくる中で、オンラインフォーラムで人々を結びつけ、気候変動について議論するのは重要というだけではありません。不可欠なのです」

このイベントをオフラインで実施したら、スピーカー達の会場までの移動などに伴う時間、費用、二酸化炭素排出量はかなりの負担になります。さらに、これほど幅広い参加者を惹きつけることは絶対にできません。

イメージ画像:ブリティッシュ・カウンシル

今後数ヶ月の間に、ブリティッシュ・カウンシルは原子力エネルギーから持続可能な都市まで、さまざまなトピックをテーマとするウェビナーを開講する予定だ。Climate 4 Classroomsプロジェクトの指揮を取り、ブリティッシュ・カウンシルを代表して、国連気候変動枠組条約との折衝にあたるクリストファー・パーマー氏によると、南アフリカのダーバンで開催される予定の気候変動サミット、COP17のバーチャルホームにする計画も進行中だ。

「今のところ、このようなウェビナーやバーチャルイベントは目新しいものですが、将来的には一挙に増えるでしょう」とパーマー氏は語る。「実際、COP17のような重要な気候変動サミットの大部分がオンラインで開かれると想像することも、けして不可能ではないのです」

ウェビナーのトピックやセッションについての詳細は、ゼロ・カーボン・センターのウェブサイトからご覧ください。

翻訳:ユニカルインターナショナル

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バーチャル施設:ゼロ・カーボン・センター by アダム・ピルスベリー is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

著者

アダム・ピルスベリー氏は、ブリティッシュ・カウンシルの気候変動および持続可能性担当シニア・コミュニケーションズ・マネジャーとして、気候ジェネレーション、E-アイデア、Climate4Classrooms(気候教育・学習支援)などのプログラムを世界に広めている。ブリティッシュ・カウンシルに参画する以前は、新聞、雑誌、ビジネス・ニューズレターに記事を寄稿していた。また、中国関連の英語書籍や地図を扱う独立系の出版社、イマ―ジョン・ガイズの創設者、編集長でもあった。中国には13年在住している。