飛ぶことは忘れよう

Our World2.0のゲスト著者であり、なんとも適名であるカナダのカーボン市に住む農家、ジョナサン・ライト氏は以前、「教育」のためだけでは飛ぶ理由にならないのではと提案した。彼の論説、旅行麻薬を蹴り飛ばすでは次のように述べている:

「旅行に多大の時間を費やす理由は教育である、と主張する私の仲間が増えている。最初は正しい言い分のように聞こえることは認めるが、ついつい軽口をたたいて反論したくなる。ますますたくさんの人たちがますます楽々と世界中を旅して回っているのに、地球上の生命に影響を与える事態の深刻さに、なぜ、ますます無知蒙昧になりさがって行くのか、と」

ライト氏は、イギリスのトランジション・タウン運動の創設者であるロブ・ホプキンズ氏など著名な運動家たちと共に旅行麻薬を断ち、各自が設定した飛行禁止区域の中から活動している。対して、他の運動家たちは気候変動の意識を広めるために飛行移動は必要だと主張して飛ぶことを正当化する。この様な「正当飛行家」にはアル・ゴア氏や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のラジェンドラ・パチュアリ博士、そしてエイジ・オブ・ステューピッドのフラニー・アームストロング監督などがいる。彼らや気候変動の研究や政策決定や支援に関わっている他の人たちは口先だけだと批判されることがある。

国際連合大学(国連大学)やそれに含まれるOur World2.0の制作を行うメディア・スタジオでは世界で起こっていることを国際社会に伝えることを使命としている。そのためには講義を通して生徒を迎えたり、世界中の研究機関と提携したり、このサイト用に教育映像や記事の制作などを行っている。そしてそのために飛行移動による排出をかなり出していることは確かだ。私たちの取り組みの多くが気候変動に関連している中、とても皮肉なことであると認めざるをえない。ではどうするべきだろう?

「学び」はEラーニングへ

海外出張は国連大学やその他の教育、支援機関にとって有意義な目標の達成に必要である。これを受け入れるのであれば次にあがる課題は、いつ、どこへ、そしてどのような理由で飛ぶのかを慎重に決める賢い飛行者になることだ。

飛行癖を変えるためにはまず短い会議や遠い場所への出張を避け、ビデオ会議やスカイプ回線などの最新技術を駆使することだ。

ビデオ会議は一般的なシステムで米2,000ドル、最新のものとなれば米20,000ドルもするため初期費用が高そうに見えるかもしれない。しかし実はエネルギー効率の良い照明や教育のように長期的に利益が見込める賢い投資なのだ。それは世界一周航空券のビジネスクラス数枚分に匹敵する金額だ。しかし、加えて比較的単純で使い易い上、何時間もの空港での乗継ぎ待ちからくたびれた旅行者を救ってくれる。

国際色豊かな教育を提供するためにはeラーニングが最も双方に有利な解決策となる。言い方は様々だが、eラーニングとは基本的にオンラインまたウェブ上で行われる技術を駆使した学習法だ。今日eラーニングとは、Moodle(ムードル)などウェブ上のコース管理システムなどを使うことで世界中で即時に情報交換が可能となる。それだけでなく、ビデオ会議では複数拠点にいる相手とリアルタイムで面と向き合いながら聞くことも話しかけることもできる。そうすることで国際的な学習や連携が自分の家を出なくても可能となるのだ。

イギリスで行われた研究によると通信教育やオンライン講座は従来の校舎形式の講義に比べてカーボンやエネルギーフットプリントが大幅に小さい。しかもこれは生徒の航空旅行分は含んでいない場合だ。

アジア環境人材育成イニシアティブ

国連大学もその一員であるアジア環境人材育成イニシアティブは国際的なeラーニング連帯構想の成功例の代表である。慶応大学の鵜野公郎教授によって2002年の持続可能な開発の地球サミットで立ち上げられ、今では日本、アメリカ、インド、インドネシア、タイ、そしてサモアの大学10校を含むものと発展した。

現在は2つのコース(10-15週間)、「災害管理と人道的支援」と「気候変動、エネルギーと食料保障」が提供されている。2009-10年の秋冬学期のコースには297人の生徒が登録されている。

生徒たちのビデオ会議に対する反応はとても良く、一人の生徒は次のように述べた。

「最も重要なことは世界各国の人々とコミュニケーションをとることで他の観点や文化に触れる機会が得られることです。テレビ画面を通じて面と向かった対談をすることで私達はより柔軟な観点を身に着けることができるのです」

またオンライン教育で学んでいる別の生徒は次のように話した。

「Moodleは時間制限のあるビデオ会議から解放された教師と生徒の交流の場を提供するために開発されました。これにより先生たちの関心分野や専門知識をより良く知ることができるようになりました・・・」

「その上、生徒同士のことをより良く知ることができるようになりました。様々な教材やフォーラムでは生徒たちの意見交換や最新情報の取得を可能にしてくれました。教師や生徒がMoodleに投稿するのは互いを知り合うためなのでしょう」

未来の学習法

2010年から開始予定の国連大学が初めて行う日本と他国の大学と協同の修士課程、博士過程の教育プログラムではeラーニングが重要な役割を持つのだ。

確かに、実際の対面に代えられるものはない。しかしこの先、飛行を選ぶ人がどんどん増え、燃やせる石油がどんどん減ることで旅費が増加していけば、気候変動への影響に関係なく各機関は不要なコストの削減を強いられるだろう。たった10分のスピーチのために大西洋を横断する時代は終わるのだ。

既に機能しているビデオ会議などのエネルギーや時間効率の良い技術を使って世界をつなぐことは非常に理にかなっている。そして、私たちが残していく環境問題に立ち向かわなくてはならない未来のリーダーたちや次世代の若者には、ビデオ会議やeラーニングなどを組み合わせた教育が最適だ。様々なeラーニングのツールを駆使できる環境をととのえた組織や団体は、未来社会にうまく適応できるだろう。

翻訳:越智さき

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著者

マーク・ノタラスは2009年~2012年まで国連大学メディアセンターのOur World 2.0 のライター兼編集者であり、また国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)の研究員であった。オーストラリア国立大学とオスロのPeace Research Institute (PRIO) にて国際関係学(平和紛争分野を専攻)の修士号を取得し、2013年にはバンコクのChulalpngkorn 大学にてロータリーの平和フェローシップを修了している。現在彼は東ティモールのNGOでコミュニティーで行う農業や紛争解決のプロジェクトのアドバイザーとして活躍している。