ジェニファー・シッセ博士は国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)のアソシエイト・アカデミック・オフィサーを務めています。
国際社会は新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)に引き続き揺らいでおり、自然災害と気候危機の影響に対する認識も次第に高まっている。しかし、災害リスクが持続可能な開発目標(SDGs)を達成する能力に及ぼす影響の大きさを、国際社会はまだ認識していない。災害リスクの影響はSDGsに及ぶにもかかわらず、リスクがSDGs特にうまく取り込まれているわけではない。この問題を強調するために、国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)とミュンヘン気候保険イニシアティブ(MCII)の現任および前任の専門家であるジェニファー・シッセ氏、ユリア・プラース氏、ズィモン・シュッツェ氏が、災害リスクとSDGsに関する5つの事実を共有する。
最近の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書(AR6)「影響・適応・脆弱性」が強調するように、気候変動は人間の福祉と地球の健康への脅威である。よく知られていることだが、より包摂的で野心的な適応・緩和策に向けた行動がこれ以上遅れれば、すべての人にとって住みやすく持続可能な未来を確保するための、短く急速に閉じつつある機会を人類は逃すことになる。
SDGsは、世界各国が極度の貧困を撲滅し、持続可能で「レジリエント(強靭)な」開発を支援するための道しるべとして、2015年に設定された。レジリエンス(強靭性)に焦点を当てているにもかかわらず、SDGsの169のターゲットのうち災害リスクに明確に言及しているものは1つのみで、世界的な健康リスクに言及しているものも1つのみである。
SDGsの目標、ターゲット、指標における災害リスクの主要な用語の使用を、災害リスクの文脈での使用に限定して細かく調べていくと、169のターゲットのうち10個(6%未満)、231の指標のうち5個(2%)のみが災害リスクの主要な用語に言及していることが分かる。「主要な用語」とは、「リスク」、「災害」、「レジリエンス/レジリエント」、「ショック」、そして「脆弱な/脆弱性」である。SDGsの目標毎に見ても似た傾向が見られ、災害リスクの主要な用語のいずれかを含むターゲットが2つ以上あるのは目標9と11のみである。
SDGsは、自然災害に直面した人々やコミュニティー、国の財政面におけるレジリエンスに焦点を当てていない。世界銀行は、物理的および社会的レジリエンスとともに、財政面におけるレジリエンスを災害レジリエンスの3要素の1つとして特定した。レジリエンスに焦点を当てたSDGsの目標とターゲットは、物理的(インフラなど)レジリエンスと社会的(家庭、コミュニティーなど)レジリエンスに焦点が分けられている。気候リスクを含む災害リスクに対する財政面でのレジリエンスに言及した目標、ターゲット、指標は1つもない。
安全で豊かな世界を確かなものにするには、SDGsを達成することが極めて重要である。したがって、災害リスク削減と災害リスクファイナンスを含む災害リスク管理を持続可能な開発政策と活動に完全に一体化し、次の災害によって近年の開発成果が帳消しにされないようにしなければならない。
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本記事は6月30日に国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)が掲載した記事を翻訳し、2022年の防災の日に際し、転載したものです。元の記事はこちらからご覧ください。