温暖化ガス削減に挑む バングラデシュ

「地球温暖化とバングラデシュ」について考える時、おそらく我々の多くは、この国が今後、海水上昇と大型台風の影響をもっとも受けやすいことに気が付いているだろう。

バングラデシュが、温暖化が引き起こす深刻な影響にさらされるのは確実だ。上昇した海水は沿岸部をのみ込み、内陸部への大量の人口移動を余儀なくさせられるだろう。アル・ゴア氏も、「カルカッタとバングラデシュでは、6000万人が行き場を失い、想像を絶する貧困と死の脅威に直面するだろう」と警鐘を鳴らしている。

バングラデシュの人々は、先進国の排出する温暖化ガスを削減することも、これまでの流れに拮抗することもできない。 その代り、バングラデシュは温暖化対策や実験を行い、革新的なモデルの開発や研究をする場となっている。援助団体、支援国、NGOなどは、バングラデシュの温暖化対策の援助に取り組み始めている。

一方、温暖化ガスの排出軽減に取り組むべき先進国では、そのプロセスについて検討しているばかりで、一向に対策が取られていない。さらには、このところの金融危機と経済後退を受けて、「温暖化対策に取り組む必要があるのか?」との声も聞こえてはじめている。

妙案

貧困にあえぐバングラデシュは、気候変動への対応策に忙しいばかりか、温暖化ガス削減対策にも乗り出している。国民の大半は、「二酸化炭素を削減しよう」というキャッチフレーズを聞いたことはなくても、電球型蛍光ランプ(CFL)は巷で大流行している。ダッカから農村部まですべての地域で、人々は従来型の電球をCFLに付け替えて、電気消費量を80%も節約しているのだ。CFLの価格は、従来型の電球に比べ3-5倍も割高なため、省エネ効果があっても、価格の面で途上国では不人気だ。にもかかわらず、バングラデシュの人々はなぜCFLの導入に踏み切ったのだろうか?

首都ダッカの南部に位置するノアクハリ州の農村を訪問した際、ある店でCFLが使われていることに気が付いた。興味深いことに、それらのCFLは高圧送電線網に結合されておらず、村の発電機を電源としていた。安価な白熱電球でなく、なぜCFLを使っているのかと、村人たちに尋ねたところ、「長い目で見たら、その方が安いよ。」との答えが返ってきた。バングラデシュにはこのように考える人が多いようだ。

さらに驚いたのは、彼らの次のコメントだ。「我々がCFLを使えば、省エネで蓄えた電力をより多くのお店や家族に供給することができる。電気があれば、もっと遅い時間まで商売ができるし、人々も長く仕事ができる。暗くなっても安全で、子供たちも夜でも勉強できるからね。」

「灯油ランプや白熱電球よりも、CFLの明るい光が気に入っている。その方がお客さんの入りもいい。」と店の主人は答えた。

名案

このCFL導入のトレンドは、クリーン・ディベロプメント・メカニズム(CDM)プロジェクトを通じ、環境問題に取り組むサウス・サウス・ノースとグラミン銀行がバングラデシュのCFL製造社と提携して、国内農村部に10万個のCFLを取り付ける計画から始まった。

このCDMは、途上国が取り組む温暖化ガス削減プロジェクトに対し、二酸化炭素1トン相当の公認排出削減(CER)クレジットを与えている。これらのクレジットは取引可能で、工業国が京都議定書で定められた削減目標を達成するために使われている。

さらにバングラデシュでは、もう一つ、CDMによる温暖化ガス削減プロジェクトが実施されている。国内の肥料会社とオランダの提携会社が、野菜からでる生ゴミを質の高いバイオ肥料にリサイクルするコンポスト工場を設置した。これにより、年間8万9千トンの温暖化ガス削減が見込まれている。

1186件のCDMプロジェクトの65パーセントは、アジア地域発の「気候変動に関する国際連合枠組条約」に登録されている。全世界のCERクレジットの約80パーセントがアジアで取引され(その内、中国が半分以上を占める)、2006年と2007年には200パーセント近く増加したと、世界銀行は試算している。昨年の国際温暖化ガス排出取引市場は、600億ドルに上った。

CERの価格は金融危機の為下落している。しかし、バングラデシュ政府は、環境問題に非常に真剣に取り組んでおり、つい最近も、深刻な電力不足を緩和するため、再利用可能なエネルギー政策を発表した。税控除や低金利ローンなどのインセンティブを打ち出し、政府は国内外の投資を誘致して、2020年までに電力需要の10パーセントを再生可能な資源で賄いたいとしている。

お手本

エネルギー分野の起業家たちは、グラミン銀行(村のエネルギーを意味する)の成功に注目すべきであろう。ノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行は1996年設立され、非営利団体として、電気のない村々に再生可能なエネルギーを供給している。国内全世帯の約70パーセントに電気が通っておらず、これまで灯油やディーゼル発電機を用いて発電し、汚染を引き起こしてきた。グラミン銀行は現在までに、20万5千個の住宅用太陽光発電システム(SHSs)を販売、設置してきた。

このように多数の設備が導入できた理由は、グラミン銀行がそれらを返済可能なマイクロ・クレジット(少額無担保融資)で販売したことにある。グラミン銀行は、世界銀行と、バングラデシュのインフラ開発会社により設置されたグローバル環境機関の助成金とローンを用いて、マイクロ・クレジット制度を整備した。助成金は今年いっぱいで廃止となるが、グラミン銀行はクレジットの返済をしながら、この制度を維持し続けている。

さらにグラミン銀行は、再生可能なエネルギー技術を促進する包括的方法で、牛の糞から台所用ガスを作り出すバイオガス工場や、従来の半分しか薪燃料を要せず煙のでない調理用ストーブを販売している。 その他にも、人材訓練や能力強化プロジェクトを含むプログラムもあり、技術センターで女性技術者を育て、住宅用太陽光発電システムに付随する装置(電気、電話充電器、充電コントローラー)の組み立てや、太陽光発電システムの設置と維持を図っている。

グラミン銀行の成功は、国際的な称賛を浴び、2007年には、代替ノーベル賞として知られるライト・ライブリフッド賞など、数々の再生可能エネルギー賞を受賞した。

このような技術革新は、節約になるばかりか、電気のなかった人々に明かりを供給することにより、バングラデシュの社会経済的状況の改善に寄与している。人々は、知らず知らずのうちに、自分たちの行動が気候変動の緩和に貢献しているのだ。

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温暖化ガス削減に挑む バングラデシュ by チュン・ニー・タン is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

著者

チュン・ニー・タンはグローバル環境情報センターの国連大学プロジェクトコーディネーターです。

プトラマレーシア大学・環境科学の大学院生だった1997年から、地球観測に携わるようになりました。GIS、遠隔測定の修士号取得後、GISエンジニアとしてESRIマレーシアに勤務。

長崎大学で衛星海洋学の博士号を取得した後、2006年に国連大学に加わりました。

研究関心分野は遠隔観測、気候変動、災害管理、自治体強化など。東南アジア地域の若い科学者たちに、衛星写真、研修、アドバイスなど積極的に提供しています。