米国ボルダー市が電力事業を市営化

コロラド州のボルダー市は、電力供給(そして二酸化炭素排出削減)に関する事業を、民間企業の一社支配から奪い取る権利を勝ち取った。ボルダーで変化が始まったのは、11月である。市が市営の公益事業の設立に着手することを認める2つの法案が、市民によって可決された時からだ。

現在ボルダーに電気を供給しているXcel Energy(エクセル・エナジー)社は、発電の60%を石炭に頼る巨大な電力会社だ。気候変動防止を訴えるコロラド州の活動家たちは、平原や山地、年間300日に及ぶ日照時間に恵まれたコロラド州は、風力発電や太陽光発電の開発にとって非常に大きな可能性を持っていると主張し、石炭から再生可能エネルギーへ移行するようにと、何年にもわたってエクセル社を説得し続けてきた。しかしエクセル社は、再生可能エネルギーへの転換をなかなか進めようとしなかった。

エクセル社は自社の石炭火力発電所に4億ドルを投資している。同社の計画では、2020年でも再生可能エネルギーの利用は30%にとどまっており、2028年まで増加の見込みはない。

ボルダー市側は、クリーンエネルギーの利用という市の目標にエクセル社が協力する意欲があるのかどうか、次第に疑いを抱くようになっていた。また、株主の利益よりも気候変動対策の活動を優先しながら公益事業を運営することは可能であるという分析結果も出ていた。

ボルダー市は、気候変動との取り組みの先頭に立つという目標を長く掲げてきた。2002年、市議会は、温室効果ガス削減に関する「Kyoto Resolution(京都決議)」を可決した。2006年には、市の掲げる目標達成のため、アメリカ初の炭素市民税が市民の投票によって承認されている。

ボルダー市が公益企業を自ら設立するための法的プロセスである「市営化」は、2004年から討議にかけられてきた。2008年に、エクセル社が対抗策として市全域に及ぶスマートグリッドの導入を提案したとき、市はそれを受け入れた。しかし、エクセル社とその協力会社は、プロジェクトの開始に先立って費用対効果の分析を行わず、さらに、消費者が負担することになるコストは、当初の見積もりである1530万ドルから、(合計で)4480万ドルに増加した。

一方、エクセル社が石炭に大きく依存していることで、風力エネルギーの利用量に影響が生じている。火力発電所は、風の有無に従って稼働を止めたり再開させたりするということができない。そのため、需要よりも多く発電してしまった場合には、自社の火力発電所で作られた電力を売るために、風力発電による電力の購入を抑えようとするのだ。

ボルダーで20年にわたって行われてきたエクセル社の独占的な電力販売が更新期限を迎えるにあたって、ボルダー市側は、クリーンエネルギーの利用という市の目標にエクセル社が協力する意欲があるのかどうか、次第に疑いを抱くようになっていた。一方で、株主の利益よりも気候変動防止に向けた動きを優先させながら、市営の公益事業を進めることが可能であるという分析結果が出ていた。2011年、ボルダー市は2つの法案を起草し、市民の採決を仰いだ。1つ目は、Ballot Issue 2B(投票議案2B)で、公益事業の営業権にかけられた税を増額し、市営化計画の資金に充てるというもの。もう1つは、Ballot Issue 2C(投票議案2C)で、公益事業を設立する権限と、配電網買い取りのために公債を発行する権限を市に与えるものだ。これによって、市営の公益事業が設立された場合、その電気料金をエクセル社の価格と同等かそれ以下に抑えることができる。

このようにして、豊富な資金を武器にする大企業と、一般大衆による草の根活動との間の戦いの火ぶたが切って落とされた。エクセル社は「反対に一票を」キャンペーンに100万ドルもの資金を投入、大規模な(そして一部の人によると、誤った方向に導くような)広告を打ち、個別訪問の勧誘員まで雇った。

気候変動防止を訴える活動家たちを特にいらだたせたことの1つが、気候変動防止のための活動を行っている団体、Clean Energy Action(クリーン・エナジー・アクション)の調査部長であるレズリー・ グラストロムが、エクセル社に規制をかけるためのPublic Utility Commission(公共公益事業会議)で監視役を務めるのを禁じられたことだ。

しかし、投票議案2Bと投票議案2Cに対する「賛成に一票を」キャンペーンでは、市の強みがうまく生かされた。学園都市であり、進歩主義者や技術者が多く住むボルダーは、クリーンエネルギーの使用に向けた活動の中心地となっており、また、大気に関する研究でも中心的な役割を果たしているのだ。「賛成」キャンペーンを支持する団体、RenewablesYes(リニューアブルズ・イエス)は、ボランティアのメンバーから成る「Citizen Technical Team(市民技術チーム)」の招集に一役買った。このチームは、太陽エネルギー、風力エネルギー、電力使用量のデータを使ったモデルを開発し、ボルダーで使われる電力の発電源の割合を分析した。そして次のような分析結果が公表された。市営の公益事業によって、市の二酸化炭素排出量を66%削減し、再生可能エネルギーの使用割合を40%にまで増加し、電気料金をエクセル社が課したものと同じかそれ以下に保つことができるというものだ。

投票議案2Bと投票議案2Cを推薦する人々のリストには、数十人に及ぶ選出議員や数多くの企業、地元紙3社、そして1000人を超える市民の名が連ねられた。政治活動団体のNew Era Colorado(ニューエラ・コロラド)は、若者たちを動員してこの取り組みにさらなる活力を加えた。若者たちは電話応対に従事し、エクセル社の広告に対抗すべく街を歩き回った。

2つの法案は僅差で可決された。エクセル社が費やした資金が草の根キャンペーンの10倍だったことを考えれば、大きな勝利と言えるだろう。このキャンペーンのリーダーであるケン・レガルソン氏は、コミュニティーをうまくまとめたことが勝利につながったと考えている。有権者一人一人と個人的な触れ合いを持つことは「企業が投入する大金よりも価値があるのです」とレガルソン氏は言う。

市営の公益事業は、エクセル社が「反対に一票を」キャンペーンで決めつけていたような、実証もされていないような実験などではない。アメリカ合衆国には2000以上の公営の公益事業があり、4600万人がそれを利用している。このような公益事業のなかには田舎の小さな市場を対象としているものもあるが、ボルダーは成長しつつある大きな市場であり、現在少なくとも年間1億ドルの収益をエクセル社にもたらしている。ボルダーで可決された法案が秘めた革命的な可能性とは、市営の公益事業のために発電を行うことで、投資家に牛耳られた企業に利益を送る代わりに、地元経済に数100万ドルを落とすことができるということだ。

ボルダー市は、電気事業の成立には3年〜5年かかると見積もっている。気候変動防止に取り組み、この計画のために尽力する活動家たちは、この取り組みが他の市への成功モデルとなることを願っている。「私たちは自分たちのすべての活動を、できる限り幅広く共有するつもりでいます……学ぶべきこと、共有すべきことがたくさんありますからね」とケン・レガルソン氏は言う。ボルダーが詳細を詰めていくのを、多くの市が見守っている。これらの市は、「ボルダーになる」べく、すでに民間企業に見切りをつけ、地元の電力を自分たちの手で管理することを計画しているところかもしれない。

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この記事は、YES! Magazine(イエス!マガジン)誌の2012年春号に掲載された 9 Strategies to End Corporate Rule(企業支配を終わらせるための9つの戦略)のために、同誌の共同編集者を務めるバレリー・シュローレット氏によって書かれたものです。また、非営利団体 Institute for Local Self-Reliance (地域の自立を目指す協会)のジョン・ファレル氏も記事の作成に協力しています。

この記事はCreative Commons Licensingに従い、YES! Magazine誌から転載されました。

翻訳:山根麻子

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米国ボルダー市が電力事業を市営化 by バレリー・シュローレット is licensed under a Creative Commons Attribution-NoDerivs 3.0 Unported License.
Based on a work at http://www.yesmagazine.org/issues/9-strategies-to-end-corporate-rule/9-strategies-to-end-corporate-rule.

著者

バレリー・シュローレット氏は、2010年の夏に共同編集者としてYES!に加わる。シアトルに育ち、ワシントン大学で英文学とジャーナリズムを学んだあと、イギリスへ居を移す。ロンドンで25年間、ライター、編集者として働き、通信関係の仕事もこなしてきた。ごく最近では、刑事司法に関する政策の改革を推進している。娘が一人おり、フラットの改装やガーデニングを楽しみ、賃借人組合を主宰している。YES!で共同編集者を務めることで、持続可能性と社会的公正を求める草の根運動について知識を深め、またそれに寄与する良い機会が与えられたと感じている。