アロック・ジャはガーディアン紙の科学と環境の記者でグリーンテクノロジーが専門。 ニュースや記事を書くだけではなく、サイエンスウイークリーのポッドキャストやガーディアンの科学webサイトも担当。インペリアル・カレッジ・ロンドンにて物理を学び、ガーディアンには科学部門が2003年に立ち上げられた時から勤務。
それは、波が打ち付けるスコットランド北海岸沖にある(風力発電の)タービンと、ドイツに並べられた巨大な太陽光パネルをつなぐ。ベルギーとデンマークの海岸に打ち寄せる波の力と、ノルウェーのフィヨルドにある水力発電ダムをつなぐ。そんな、ヨーロッパ初の再生可能エネルギーのグリッド(送電網)が今月政治的に実現することとなる。9カ国が北海周辺のクリーンエネルギープロジェクトを融合させる計画を正式に作成するのだ。
このネットワークは、高性能の海底ケーブルを数千キロにわたってめぐらせるもので、予算は300億ユーロ(430億米ドル)とされる。これが実現すれば、「天候は予測できないから頼りにならない」という再生可能エネルギーの最大の問題点を解決できることになる。
再生可能エネルギーのスーパーグリッド(高圧直流送電網)により、風が吹く場所や、太陽が照りつける場所、あるいは波が打ち寄せる場所ならどこからでも電力が供給されるのだ。
この送電網がノルウェーに数多くある水力発電所とつながれば、ヨーロッパにおける30ギガワットにもなる巨大なクリーンエネルギー電池となり、需要が低いときには電力を保存しておくことができる。これで、大陸全体を覆うスーパーグリッド構想へ大きな一歩が踏み出せたことになる。スーパーグリッドは、大きな可能性を秘めた北アフリカの太陽光発電ファームをも結びつけるものだ。
関係9カ国―ドイツ、フランス、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク、デンマーク、スウェーデン、アイルランド、イギリス―は、高圧直流網を今後10年以内に建設する計画を今秋までには作成したいと考えている。EUは2020年までに全エネルギーの20%を再生可能なエネルギーにすると宣言しており、スーパーグリッドが完成すれば、この宣言の達成に1歩近づくことになる。
「北海には膨大な資源があり、現在イギリスではそれらを広範囲で活用しています」とイギリスのエネルギー・気候変動省のロード・ハント閣外大臣は言う。「しかし、他国と協力し合って行ったほうが効率のよいプロジェクトも多々あります。ですから、(スーパーグリッドの計画は)とてもよいタイミングで進んでいます」
ヨーロッパでは100ギガワット以上にもなるオフショア風力発電プロジェクトが複数進められている。これはEUの電力需要の10%、大規模な石炭火力発電所100個分に相当する量である。欧州風力エネルギー協会(EWEA)のジャスティン・ウィルク氏によると、風力発電の増加に伴い、大陸上のグリッドを調整する必要があるとのことだ。昨年のEWEAの研究では、高圧直流ケーブルをどこに設置するかの概要が示された。これをたたき台に9カ国の話し合いが進められる模様だ。
再生可能エネルギーは分散してあるため、発電所は都市から離れた荒涼とした場所に建設されることが多い。北海のスーパーグリッドにより、大陸全体の電力のバランスを図りながら、安定した信頼できるエネルギー供給が可能になる。
ノルウェーの水力発電所は、大規模な石炭火力発電所30個分に相当するものだが、余った電力で水を高所へ押し上げ、需要が高くなれば、再び勢いよく流して電力を発生させることができる。「オフショアスーパーグリッドの利点は、オフショア風力発電地帯を結び付けることだけではありません。このグリッド内では生産量に余裕がある場合も出てきますが、その時には国家間で電力取引が可能になり、それによってEUの競争力が増します」とウィルクス氏は述べる。
欧州委員会(EC)も北海の再生可能電力のグリッド構想を研究中だ。ゲオルグ・ウィルヘルム・アダモウィッチ氏が率いるECのエネルギー部門の作業グループは2010年の終わりまでにプランを作る予定である。アダモウィッチ氏は「送電のインフラがもっと整わなければEUの高い目標を達成することはできない」と述べている。ECの作業グループの研究結果は9カ国グリッド計画作成の参考となるとハント閣外大臣は語った。
北海グリッドの費用はまだ計算されていないが、グリーンピースは2008年に似たようなグリッドを2025年までに建設する場合の費用を150億ユーロ(215億-285億米ドル)と見積もっている。北海グリッドはこの地域の周りを約6000キロ以上のケーブルを張り巡らせるものだ。
EWEAの2009年の研究では、100ギガワットの風力発電ファームと、将来的に風力、波力発電所をつなげるための連結装置建設には、300億ユーロ(430億米ドル)必要だと試算している。今月 当該9カ国により、技術、計画、法、環境などの側面について話し合われる予定だ。
「まず私たちが目標としているのは、ビジョンの共有化です」とハント閣外大臣。「秋には担当大臣たちが、これから何を成し遂げようとしているのか、どのように計画するのかを整理し、覚書に署名できることを期待しています」
ウィルクス氏は、関係者は未来にも期待していると述べる。「北海グリッドは将来のヨーロッパ全体の電力スーパーグリッドの土台となるでしょう」
このスーパーグリッド構想は、欧州委員会のエネルギー研究所(IE)の科学者たちの支援とフランスのサルコジ大統領とイギリスのブラウン首相の政治的バックアップを得ている。これは南欧の巨大な太陽光発電ファームを(太陽電池で発電させるか、太陽熱で蒸気を発生させタービンを回す方法のいずれかで)大陸のほかの地域の海洋、地熱、風力プロジェクトとをつなげる構想である。IEの科学者たちの見積もりによると、サハラ砂漠と中東の砂漠の太陽光のうちわずか0.3%で、ヨーロッパの全エネルギー需要が満たされるという。
このグリッド内では、高圧直流ケーブルで送電される。これまでの交流ケーブルより高額だが長距離では電力のロスが少ないのだ。
ハント閣外大臣は欧州スーパーグリッドは長い間 夢に過ぎなかったが、これを現実に変えるだけの価値は十分あると述べる。彼によればイギリスは他国と同様「再生エネルギーに関する目標という大きな挑戦」と対峙している。「2020年という目標は始まりに過ぎません。その後は2050年までに脱炭素化された電力供給を目指さなければならないのです。ですから、できる限りの再生可能エネルギーが必要なのです」
北海グリッドは、ドイツが先頭になって進めている、より大規模なDESERTEC Industrial Initiative(デザーッテク産業イニシアティブ/DII) と呼ばれる再生可能エネルギー利用計画と融合することも考えられる。DIIは2050年までに、砂漠と地中海に広がる電力ラインを通してヨーロッパの電力の15%を供給することを目標としている。
この計画は昨年の11月に着手されたもので、参加企業には世界最大の再保険会社、ミュンヘン再保険をはじめ、シーメンス、エーオン、アセア・ブラウン・ボベリ、ドイツ銀行などドイツ最大のエンジニアリング会社や総合電機大手などが含まれる。DIIは、4000億ユーロを投じて南欧、北アフリカの集熱型太陽エネルギー(CPS)を使うという計画だ。
これは、鏡を使って太陽光線を液体の入ったボイラーに貯め、蒸気を発生させて発電タービンを駆動させるという仕組みだ。この技術そのものは何も目新しいものではない。アメリカではもう何十年もCSP工場が稼動しているし、スペインも多くを建設してきた。しかしDIIプロジェクトは、その史上最大規模のものなのだ。
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この記事は2010年1月3日日曜日、グリニッジ標準時22:30にguardian.co.ukで公表されたものです。
翻訳:石原明子
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