アメリカ人の石油消費量はどれくらいか?

先月ニューヨークタイムズ紙に掲載された記事 『Farmer in Chief』(農業政策の最高決定者へ)は、世界中のマスコミ、環境保護主義者、ブロガーの注目を浴びた。その記事は、カリフォルニア大学で教鞭をとるジャーナリストのマイケル・ポーラン氏が、 バラク・オバマ米国次期大統領に宛てた公開書簡であり、食糧安全保障を重要課題に位置付けるよう要請している。

著書『In Defense of Food』(仮訳:食糧の防衛)をはじめ、国際的食糧事情を明かにした研究成果の著者であるポーラン氏は、安価な石油に依存しているアメリカ人の食習慣と現行農業システムを、なぜ太陽光を利用した自然農業に移行しなければならないのか、またどのようにすれば移行できるのかを説明している。

当初、オバマ氏の事務所がこの14頁にわたる書簡を長すぎると指摘したとの報道も流れたが、最終的に書簡は無事次期大統領の机の書類の山の一部になったと言われている。タイム誌に掲載されたインタビューの中でオバマ次期大統領は、アメリカ人の食習慣を、安価な石油への不健全な依存から切り離すことは、自らが目指すエネルギー政策に直接結びつくと言及している。

残念なことに、オバマ氏の公式サイトは、食糧安全保障を検討課題に挙げていない。しかし、次期大統領が2050年までに温暖化ガス排出量を80%削減しようとする「アメリカの新エネルギープラン」のキャンペーン活動を繰り返し行っていることからも、今後、ポーラン氏の提言を真剣に受け止めるであろうことが伺える。

詳細な助言

ポーラン氏の書簡は長く、内容も多岐に及ぶ。それは、現状況に陥るまでの理由説明から始まっている。安価で、一見枯渇することのないと思われた石油供給に基づく過去の政権の歴史的政策決定が、今日の農業の工業化を生んだのだと指摘している。

現行の石油依存型農業から、太陽エネルギーを取り入れた再生可能なエネルギー資源に基づく食糧生産に転換させるためのプログラム、政策、またはインセンティブを創出するため、次期大統領政権の強いコミットメントが必要であると、同氏は断言する。

ポーラン氏の提言は包括的で、食糧生産、加工、消費までのすべての食糧システムに及び、重要課題は次のように要約される。

  1. 新しい食糧生産システムを構築するためには、農家が化学肥料や農薬を使わなかった頃のような自然農法に立ち返らなければならない。
  2. アメリカ新大統領は、食糧生産システム管理を徹底し、太陽エネルギー利用に基づく自然農業経済への転換を図るべきだ。
  3. アメリカ新大統領は、農家ができるだけ多種類の作物を栽培、あるいは家畜を飼育できるような政策を打ち出さなければならない。農場に多種類作物があればあるほど、化学肥料や農薬も必要なくなるだろう。
  4. アメリカ新大統領は、農家が石油に依存した化学肥料を使用せず、冬季には被覆作物を栽培するように働きかけねばならない。この方策は、土壌流失も防ぐことができ環境に優しい。
  5. 農業政策の次期最高決定者は、地方自治体で生ごみのコンポスト作りを義務化し、自然肥料が農家に行き届くメカニズムを構築するべきである。ゴミの削減を図ることもできるだろう。
  6. 国民の肉消費を控えるよう次期大統領は主張すべきだとしている。これは健康上の理由からだけでなく、家畜の飼育に大量の水が必要とされることから環境に悪影響を与えるためである。
  7. ポーラン氏は、化学肥料を使わない農業は、今日の農家がトラクターを運転して農薬を撒くだけの農法よりも労働集約的であると、次期大統領に警告している。従って、国民に十分に行き渡るだけの食糧を栽培するためには、多くの農業従事者が必要となる。
  8. 十分な労働力を確保するため、新政権は新世代の農業者養成プログラムを含む自然農法アジェンダを策定しなければならない。「持続可能なやり方で食糧自給ができない国は、海外の石油資源に頼らなければならず、常に国際貿易に譲歩しなければならない立場にさらされるのだ。
  9. すべての耕地を保護し、農家が利用できるようにすることも、今後の国家安全保障に必要とされる課題だ。また、都市生活者向け農産物の輸送費を抑え、鮮度を保つためにも、都市部周辺の耕作地保護も大切だ。
  10. また、不動産会社が土地開発に着手する前に、開発が土地に与える食糧生産への影響評価を義務付けるのも一案だ。さらには、新たな税金あるいはインセンティブを与えて、現在、開発業者がゴルフコースやレクリエーションエリアを設けているのと同様に、土地開発に農地を盛り込むというやり方もある。

食文化の変化

ポーラン氏は、アメリカの農業再生を訴える。農業が再生すれば、経済も再び上向き、環境に配慮した仕事が多く創出され、21世紀のポスト化石燃料経済において極めて重要になるだろうと述べている。

食糧システムの再編成、すなわち、多様性に富んだ農業を支援する、地域の食糧経済のためのインフラ構築に取り組むべきだとしている。

さらに同氏は、ジャンクフードや炭酸飲料は含まない「食糧の連邦定義」を検討するよう新政権に提言している。「最終的に、アメリカ人の食習慣を輸入化石燃料依存型から、ローカル太陽エネルギー型に切り替えるためには、我々の生活を変えなければならない。」

食文化を変えるには、まず子供たちにそれを教えなければならない。新政権は、子供たちの食育プログラムを推進し、「農産物を栽培・飼育することの価値や、健康な食事の大切さを教えるためのあらゆるツールを用いるべきだ。」食卓で子供たちと食事を共にする努力もしていきたい。

具体的な提案としては、すべての学校に菜園を設ける、肥満や2型糖尿病に関する健康推進キャンペーンを行う、食糧生産の透明化を図る、食べ物がどこでどのように加工されているのかについての、より多くの情報を消費者に提供することを挙げている。

世界でもっとも裕福な国の1つである米国次期大統領へ宛てたポーラン氏の提言は、アメリカ国内の化石燃料消費の削減のみだけでなく、国民の健康と福祉の改善をも目的としているのだ。

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アメリカ人の石油消費量はどれくらいか? by アンデレイナ・ ライレー is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

著者

フリーランス映画製作者、写真家、ライター。アメリカ在住。2007-2008に国連大学メディアスタジオに勤務し、ドキュメンタリー「英知への歳月」のディレクターを務めた。