フリーランス映画製作者、写真家、ライター。アメリカ在住。2007-2008に国連大学メディアスタジオに勤務し、ドキュメンタリー「英知への歳月」のディレクターを務めた。
先月ニューヨークタイムズ紙に掲載された記事 『Farmer in Chief』(農業政策の最高決定者へ)は、世界中のマスコミ、環境保護主義者、ブロガーの注目を浴びた。その記事は、カリフォルニア大学で教鞭をとるジャーナリストのマイケル・ポーラン氏が、 バラク・オバマ米国次期大統領に宛てた公開書簡であり、食糧安全保障を重要課題に位置付けるよう要請している。
著書『In Defense of Food』(仮訳:食糧の防衛)をはじめ、国際的食糧事情を明かにした研究成果の著者であるポーラン氏は、安価な石油に依存しているアメリカ人の食習慣と現行農業システムを、なぜ太陽光を利用した自然農業に移行しなければならないのか、またどのようにすれば移行できるのかを説明している。
当初、オバマ氏の事務所がこの14頁にわたる書簡を長すぎると指摘したとの報道も流れたが、最終的に書簡は無事次期大統領の机の書類の山の一部になったと言われている。タイム誌に掲載されたインタビューの中でオバマ次期大統領は、アメリカ人の食習慣を、安価な石油への不健全な依存から切り離すことは、自らが目指すエネルギー政策に直接結びつくと言及している。
残念なことに、オバマ氏の公式サイトは、食糧安全保障を検討課題に挙げていない。しかし、次期大統領が2050年までに温暖化ガス排出量を80%削減しようとする「アメリカの新エネルギープラン」のキャンペーン活動を繰り返し行っていることからも、今後、ポーラン氏の提言を真剣に受け止めるであろうことが伺える。
ポーラン氏の書簡は長く、内容も多岐に及ぶ。それは、現状況に陥るまでの理由説明から始まっている。安価で、一見枯渇することのないと思われた石油供給に基づく過去の政権の歴史的政策決定が、今日の農業の工業化を生んだのだと指摘している。
現行の石油依存型農業から、太陽エネルギーを取り入れた再生可能なエネルギー資源に基づく食糧生産に転換させるためのプログラム、政策、またはインセンティブを創出するため、次期大統領政権の強いコミットメントが必要であると、同氏は断言する。
ポーラン氏の提言は包括的で、食糧生産、加工、消費までのすべての食糧システムに及び、重要課題は次のように要約される。
ポーラン氏は、アメリカの農業再生を訴える。農業が再生すれば、経済も再び上向き、環境に配慮した仕事が多く創出され、21世紀のポスト化石燃料経済において極めて重要になるだろうと述べている。
食糧システムの再編成、すなわち、多様性に富んだ農業を支援する、地域の食糧経済のためのインフラ構築に取り組むべきだとしている。
さらに同氏は、ジャンクフードや炭酸飲料は含まない「食糧の連邦定義」を検討するよう新政権に提言している。「最終的に、アメリカ人の食習慣を輸入化石燃料依存型から、ローカル太陽エネルギー型に切り替えるためには、我々の生活を変えなければならない。」
食文化を変えるには、まず子供たちにそれを教えなければならない。新政権は、子供たちの食育プログラムを推進し、「農産物を栽培・飼育することの価値や、健康な食事の大切さを教えるためのあらゆるツールを用いるべきだ。」食卓で子供たちと食事を共にする努力もしていきたい。
具体的な提案としては、すべての学校に菜園を設ける、肥満や2型糖尿病に関する健康推進キャンペーンを行う、食糧生産の透明化を図る、食べ物がどこでどのように加工されているのかについての、より多くの情報を消費者に提供することを挙げている。
世界でもっとも裕福な国の1つである米国次期大統領へ宛てたポーラン氏の提言は、アメリカ国内の化石燃料消費の削減のみだけでなく、国民の健康と福祉の改善をも目的としているのだ。
アメリカ人の石油消費量はどれくらいか? by アンデレイナ・ ライレー is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.