気候変動最前線に立つ先住民族の革新

気候変動が地球に及ぼす悪影響について国際社会は長々と議論しているが、海面上昇、海岸浸食、激化する嵐、増える雪崩や地滑りは、世界中の先住民族や地域社会にとってはすでに過酷な現実なのである。

しかし、環境被害や協定に関する政府の議論を、彼らはただ傍観しているわけではない。気候変動の前線に立たされている先住民族は、伝統的な知識や生き残るための技術が、気候変動への適応を可能にするかどうか積極的に試しているのだ。

気候変動問題は新しくない

気まぐれに変動する気候の試練にさらされるのは、決して今に始まったことではない。先住民族は数千年にわたり、地域の環境についての知識を蓄積し、自然の変化や過酷な気候の危険性や影響に対応してきたのだ。

過去と違う点は、人間の活動がまねいた気候変動の脅威と、その悪影響への対応である。この種の変化のスピードは極めて速く、より広範な気候変動を引き起こす。そして、大気中の温室効果ガス濃度の上昇で逃げ場を失った熱により、全球的平均気温の上昇が起こるのだ。

伝統的英知の価値

先住民族は大地と密接な関係を築きながら、数十年にわたり地球温暖化の影響を観察し報告してきた。そして、その変化への対処法や適応方法の考案に関しても、一歩先を行っている。

先住民族の知識と伝統的慣行に基づく統合農業システムは、気候の激変を乗り切り、変化を緩和できるかもしれない持続的適応システムを数多く生み出している。例えば、ガイアナの先住民族は、干ばつの間サバンナから森林地帯に移住し、他の作物は育たない湿ったはんらん原(河川の近くにあり洪水時に浸水する平野部分)でキャッサバを育て始めたのだ。

気候変動研究において、先住民族社会は気候の歴史や基本データ、また地域レベルの専門的知識の貴重な情報源なのだ。先住民族の伝統的知識は、従来の科学や環境観測を補完し、環境・自然資源・文化の総体的な理解を促すという認識が高まっている。

先住民族の知識+科学的手法=革新

伝統的な英知と気候変動に適応するための新技術が融合すると、新たな協調関係への道や革新的な考え方が生まれるのだ。

その実例は多岐にわたる。狩猟者からの情報収集にイヌイットはGPSシステムを使用し、その情報が科学的に測定され地域の地図が形成される。これは‘確固たる’テクノロジーと伝統的活動の統合である。また、気候変動が生物多様性に与える影響を予測する際、テクノロジーと伝統的知識が融合されている。例えば、パプアニューギニアのヘワ族の鳥に関する知識が、いかに生息地変化や休耕サイクルの短期化を防ぐかが記録され、これは保護に役立っている。

農業と食の安全性

先住民族は往々にして、日々の生活において圧倒的に環境へ依存しており、気候変動は彼らの社会に多大な悪影響を与える。その一方で、先住民族社会は大抵、住みにくい環境や厳しい状況を生き抜く卓越した適応能力を備えているのだ。農業分野における先住民族の適応戦略は、地域社会の伝統的知識を駆使して、もはや人気の無い先住民族の農業技術にふたたび光をあて、持続的な自然資源管理の習慣を普及させることなのである。

熱帯乾燥地方の畜産農家は、厳しい環境下で食糧生産を行っているばかりでなく、酪農で生計を立てているため、特に被害を受けやすい。伝統的な牧畜システムは、大規模輪換放牧や多品種の家畜によって自然生態系を保護しているのだ。例えばマサイ族は、ミルクの量を増やす草と家畜を太らせる草を見分け、状況を改善していく。この知識は、異常に乾燥した年にはことさら重要なのだ。なぜなら彼らは、家畜を放牧する場所を判断し、より再生の早い牧草を見分け、資源の利用可能性に基づいて処分する家畜を選定しなければならないからだ。

炭素取引は両刃の剣

炭素排出量取引などの市場ベースの軽減対策は、国際社会で議論され続けている問題である。しかし、このような方策は先住民族の権利を侵害する恐れがあるのだ。

クリーン開発メカニズム(CDM)や森林減少・劣化による温室効果ガス排出削減(REDD)は、その事業目的のために、領地を引き渡さない先住民族を脅迫している。また、水力発電所は地域を浸水させ(ミャンマー、タイ)、地熱発電所は聖なる場所を奪い(フィリピン)、原子力発電所は健康に被害を及ぼし(北米)、人々を苦しめているのだ。

一方、炭素取引事業に参加し経済的恩恵を被っている先住民族社会もある。とりわけ、数千年をかけて持続的で中立な非炭素生活を作り上げている先住民族がそうである。

中には、生態系への貢献や炭素取引制度で対価を得る仕組み作りに、積極的に参加している先住民族社会もある。石油会社コノコフィリップスは2007年、製油所が排出する10万トンの温室効果ガスをオフセットするため、オーストラリア北部に住む先住民族に対し、毎年100万オーストラリアドルを17年間支払うことに同意した。この先住民族は伝統的な火災管理術を実践している。(詳しくは「火を武器に」のビデオをご覧ください) 彼らの方法は、自然に起こる山火事に比べ、温室効果ガスを抑制することが科学的に証明されている。

先住民族への深刻な影響

間違ってはいけない。世界規模で見たら小さな炭素排出量だったとしても、先住民族は気候変動による苦境に立たされているのだ。気候変動による初期被害は深刻で、土地と自然資源の劣化、食の安全性と主権に与える影響、健康問題、文化的また精神的な影響、人口の変化(先祖伝承の土地や領土からの退去など)、経済的影響や生計の損失、水不足、伝統的知識の喪失などである。

しかし、そんな苦境にもかかわらず先住民族社会は自分たちが試行錯誤の末、身に付けた適応戦略や軽減対策を世界中と共有することを望んでいる。彼らの取り組みの多くは伝統的な生態学的知識に基づいており、既存の慣習の修正、又は環境とのかかわり方の再構築を伴うものである。

知識基盤から恩恵を得る

効果的な適応計画は、利用可能な最善の知識に基づいてつくられるものだ。この点において、急務とされる気候変動対応には、世代、解釈、情報の活用が重要なのである。

国連大学Traditional Knowledge Initiative(伝統的知識イニシアチブ)は、400以上に上る幅広いプロジェクトの概要一覧を作成した。Advance Guard: Climate Change Impacts, Adaptation, Mitigation and Indigenous Peoples (「前衛部隊:気候変動被害、適応、緩和、そして先住民族」) には、気候変動と先住民族に特化した400以上のケーススタディと研究活動が記されているのだ。気候および環境変動、異なる地域社会での局地観測結果や被害、そして現在実施されている多種多様な適応戦略や軽減対策に関し、本書で概要を知ることができる。

最終稿は2010年1月に出版される予定だが、ここでは新刊見本が利用可能になっている。(このページの右上にある“Download the paper”をご覧ください) 新刊では、本記事に書かれているすべての事例が、より詳しく論じられ言及されている。

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参考文献

カースティー・ギャロウェイ・マクリーン著(2010年、近刊予定)、新刊見本「Advance Guard: Climate Change Impacts, Adaptation, Mitigation and Indigenous Peoples – A Compendium of Case Studies (「前衛部隊:気候変動被害、適応、緩和、そして先住民族-事例研究概論」) 国連大学Traditional Knowledge Initiative(伝統的知識イニシアチブ)、オーストラリア、ダーウィン。ISBN(国際標準図書番号)978-0-9807084-4-8 (出版); 978-0-9807084-5-5 (pdf)  Copyright (c) 2010 UNU-IAS

ご意見およびご提案をtki@ias.unu.eduまでお寄せください。12月15日までにいただいたご意見は新刊書に反映いたします。尚、新刊書は2010年1月より、国連大学高等研究所のウェブサイトにて発売されます。

Creative Commons License
気候変動最前線に立つ先住民族の革新 by カースティー・ギャロウェイ・ マクリーン is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

著者

カースティー・ギャロウェイ・マクリーン氏は、国連大学高等研究所で研究員として気候変動と伝統的知識について研究するかたわら、環境情報コンサルティング会社BioChimera(バイオキメラ)(www.biochimera.com)の代表を務める。オーストラリア国立大学で理学(生化学・分子生物学)と文学(認知研究)の学位を取得し、国際科学政策の分野では20年以上のキャリアを持つ。