ジョン・ヴィダル氏は英紙「ガーディアン」の環境部門の編集者である。フランス通信社(AFP)、ノースウェールズ新聞社、カンバーランド・ニュース新聞社を経て、1995年にガーディアンに入社。「マック名誉毀損:バーガー文化体験 (1998)」の著者であり、湾岸戦争、新たなヨーロッパ、開発などをテーマとする書籍に寄稿している。
ニジェール・デルタ地帯を過去50年にわたって荒廃させてきた原油流出に関する国連の報告書は、今後の洗浄作業には10億ドルの費用と30年の時間がかかると予想している。
国連環境計画(UNEP) は、シェル社、その他の石油採掘企業がニジェール・デルタの1000平方キロメートル(386平方マイル)のオゴニランドを組織的に汚染し、その結果人体と野生動植物に甚大な影響を及ぼしたと発表した。
UNEP事務局長は、ナイジェリア人は経済成長に対して石油産業がもたらした「高い代償」を支払ったと語る。
UNEPの オゴニランド研究のうち一部伝わったものをまとめると、この地域の汚染に関して最初に大々的な科学調査を行ったのはガーディアン紙だった。オゴニランドの石油洗浄作業には10億ドル(780億円)が必要で、環境を再生するには25年から30年かかるとしている。洗浄作業に必要な資金のほとんどは石油会社が支払うこととなっている。
3年間の調査により判明したことは以下の点だ。
UNEPの願いは、この報告書の研究結果により、同地域での数十年に及ぶこう着状態が収束することだ。
その報告書は地域住民への警告と、飲料用井戸を洗浄するための緊急手段を講じるべきだとし、シェル社とその他デルタ地帯を開発する企業はその操業方法を徹底的に見直すべきだと指摘している。
国連事務次官、UNEP事務局長を務めるアッヘム・シュタイナー氏は、この報告書は、長年の懸案であるオゴニランドの復興に向けた科学的根拠を示すものだとしている。「過去50年にわたり、石油産業はナイジェリアの経済にとっての主要部門でしたが、そのためにナイジェリア国民は高い代償を支払うこととなりました。UNEPの願いは、この報告書の研究結果により、同地域での数十年に及ぶこう着状態が収束することです。アフリカ大陸の多くの地域での石油生産と採掘がますます進む中、この調査は石油会社と公共団体はいかに責任ある行動をとるべきかを示す1つの青写真となるでしょう」
地球の友インターナショナル代表兼Environmental Rights Action in Nigeria代表のニモ・バッセイ氏は次のように述べている。「オゴニランドに広がる汚染の報告は驚くにあたりません。それは顕著に現れているからです。人々はこの腐敗した環境の中で既に何十年も生活をしています。今後この状況を改善するには30年を要することが分かりました。特にこの地域のマングローブ林の再生には時間がかかります」バッセイ氏によるとこの汚染によりオゴニ人の命が大量に奪われたという。
「UNEPがオゴニランドの復興の当初費用として10億円を拠出するよう求めたことは大歓迎です。しかしニジェールデルタ地帯全体に関しては更に多額の資金が必要です」
UNEP報告書を受けシェル・ペトロリアム・デベロップメント・カンパニーの最高経営責任者ムティウ・サンモヌ氏はオゴニランドの原油流出に対する理解を深めるために価値のある報告だと話した。
「全ての原油流出は悪です。地域にとっても、環境にとっても、ナイジェリアにとっても、そして(会社に)とっても。私たちは1993年以降石油の生産は行っていませんが、全ての施設からの流出については理由が何であれ洗浄作業を行っており、この土地を元の状態に再生しようと努めています」
「ナイジェリアの原油流出の大半は妨害破壊行為、窃盗、違法な石油精製によるものです。ナイジェリア当局にはそのような活動を抑制するためあらゆる手段を尽くすよう求めます。そして私たちはナイジェリア政府を含むパートナーと協力を続けこれらの問題を解決し、オゴニランドでの洗浄作業の次のステップへと進みたいと思います」
環境支援団体やオゴニの住民はこの報告書を歓迎したがオゴニランドに限らず、デルタ地帯全域の洗浄作業には1000億ドルが必要だとしている。地球の友インターナショナルはシェルに対し、ナイジェリア政府と共に復興活動を開始するための行動計画を即座に立てるよう求めている。
ガーディアン紙は、シェルが6万9000人強の人々が住む地域を壊滅状態にした2件の原油流出事故の責任を認めたと公表した。それらを合わせると、その規模は1989年アラスカでの原油タンカー、エクソンバルディーズ号の座礁事故以上となり、シェルは数十億、数百億ドルものの損害賠償を支払うこととなる。
UNEPチームは4000種以上の土壌、魚、空気のサンプルを集め、オゴニランドで過去50年の間に起こった数千回の原油流出のうち69件を綿密に調査した。5,000件の医療記録を調べ、地域住民と260回のミーティングを行った。
オゴニランドでの操業が停止されたとはいえ、原油流出は恐ろしいほど規則的に発生し続けている。
この報告書は、国連が求める大規模な洗浄作業の基礎研究資料となるよう期待されている。
オゴニランドでの石油掘削は90年に停止された。シェルは大々的な汚染の元凶であるとされ、地域の発展が失敗したことを理由に撤退を余儀なくされた。同地では300億ポンド以上の石油が採掘されたが、住民の大多数の生活はこの会社が来る前と比べて悪くなっている。
報告書によると「オゴニランドでの操業が停止されたとはいえ、原油流出は恐ろしいほど規則的に発生し続けている。ナイジェリアでの平均寿命は50歳に満たないことからオゴニランドの住民の多くは人生のほとんどを慢性的な石油汚染の中で暮らしたと考えてよいだろう」「オゴニランドには悲惨な公害の歴史があるが、その結果起こる汚染についての体系だてられた科学的情報が不在なのだ」
石油会社の記録とデルタ地帯での流出に関する調査は激しい論争の対象であり、政治的に微妙な問題でもあるため、国連は特定の流出事故を非難することは避けている。
シェルの子会社シェル・ペトロリアム・デベロップメント・カンパニーはナイジェリア政府と提携しており、この地域での最大の石油会社であるため、この報告書は彼らの操業に関する調査だといえる。独立調査の一部はシェルによって支払われ、ナイジェリア政府が委託したものだ。
国連チームは研究結果を受け、ショックを隠せない。Ejama Ebubuという場所では40年以上も前に起こった原油流出により、その後「繰り返し洗浄作業を行った」にもかかわらず深刻な汚染が見られた。ナイジェリア国営石油会社のパイプライン付近にあるエレメ地区のNisisoken Ogaleでは、地域の井戸水として使われている地下水には8センチメートルの厚さの精製油が浮いているのが見つかった。
「土壌の汚染は甚大かつ広域におよび、影響は深刻だ」と報告書は述べている。この報告書は、木曜日に首都アブジャのナイジェリア大統領グッドラック・ジョナサン氏に提出され金曜日にロンドンで公表される。
この記事は2011年8月4日木曜日、guardian.co.ukで公表したものです。
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