変革のために変わる金融業界

世界中で銀行に対する侮蔑的風潮が高まる中、いったい銀行家自身はどのように感じているのだろうか。彼らの中にも道徳的価値を中心に据える人々がいることをあなたは信じられるだろうか。そのような意識を持つ銀行が既に世界最大級の金融機関より、高い利益を生み出していることについてはどうだろう?

先月カナダのバンクーバーでGlobal Alliance for Banking on Values(価値観に基づく銀行国際同盟、GABV)年次会議が開催され、その後パネルディスカッションが行われた。そこで「サステナブル(持続可能な)」銀行のうち15行による独立したネットワークが、上記のメッセージを発表した。

これらの銀行を合わせると資産総額は290億米ドル以上で、20カ国に700万人の顧客がいる。彼らの目標は、銀行業務に関する公開討論で中心的役割を果たし、持続可能な銀行の成長とその影響力に対する金融支援を行い10億人の「生活に触れる」ことである。

この会議は「Values-Based Banking: Financing the Future of a Changing World(価値観に基づいた銀行取引:変化する世界の未来へのファイナンス)」と題され、会場となったバンクーバーのセンター・フォー・パフォーミングアーツには約1800人が集まった。よくある広報活動的な会議でないことは、著名な作家・活動家であるナオミ・クライン氏が参加したことからも明らかだ。クライン氏の著作や金融機関、協調組合主義、グローバル化、消費文化への批判的な活動を考えれば、彼女がメガバンクの役員会やイベントにお呼びがかかることはめったにないのも当然だ。「ウォール街を占拠せよ」運動の「腐敗や、企業による政治プロセスの乗っ取りに対する、強力で、過激で、怒りに満ちた批判」を彼女が支持したことは言うまでもない。

だが会議では金融関係のパネリストも、いわゆる典型的な「バンクスター」(「バンカー(銀行家)」と「ギャングスター」を合わせた侮蔑的な造語)からは聞けない口調で語っていた。ゴールドマン・サックスの元幹部グレッグ・スミス氏はウォール街の同僚たちが顧客を「操り人形」と呼んでいたことを最近暴露したが、この会議への参加者がそのような言葉遣いをするとしたら驚きだ。

GABV議長であり欧州のサステナブル・バンクであるトリオドス銀行総裁、ピーター・ブロム氏が開会・閉会の言葉を述べ、3人のパネリストは挨拶の言葉を述べたあと、CBC(カナダ公共放送局)ジャーナリスト、イアン・ハノマンシング氏の質問に答えた。クライン氏同様、英国のシンクタンク、ニュー・エコノミックス・ファンデーション(NEF)のスチュワート・モリス会長も、経済的変革の必要性について熱く語った。パネルで唯一の銀行家、バンシティ(カナダ最大の信用協同組合)総裁のタマラ・ブルーマン氏も理性的だった。

主流の銀行で働く人々にとっては驚きだろうが、対象となったサステナブル・バンクは世界最大規模の金融機関より財務リターンが高い。

真の経済にコミットする

GABVバンクーバー会議はまた、ある画期的な報告書発表の場ともなった。これは価値観に基づく銀行(サステナブル・バンク)17行と、大手銀行29行を比較したプロジェクトをまとめたものだ。金融安定理事会はこれら大手銀行を「グローバルにシステム上重要な金融機関(GSIFI)」と定義している。「大きくて潰せない」といわれる後者にはバンク・オブ・アメリカ、JP モーガン、バークレイ、シティコープ、ドイツ銀行が含まれる。

調査結果は以下の通り。

主流の銀行で働く人々にとっては驚きだろうが、対象となったサステナブル・バンクは世界最大規模の金融機関より財務リターンが高い。銀行の財務実績を判断するのに最適な数値とされる総資産利益率は0.50%を超えたが、GSIFIの平均は0.33%だった。また、自己資本利益率もGSIFI銀行は6.6%だが、サステナブル・バンクは7.1%だった。

では、道徳的精神を持つこの銀行家たちはいったいどんな集団なのだろうか。GABVメンバーは「私たちは地上の全ての人々の生活の質を改善すべきだと考える。誰もが経済的に相互依存しており、現在そして未来の世代に対して責任があることを認識すべきだ」という信念を持つ。

GABVは、世界の10行が集まってサステナブル・バンキングの成長を促し、世界的影響力を広めることを目的に2009年に創設された。メンバーは「国際問題へのグローバルなソリューションを見つけ、現在の金融システムと主流銀行のビジネスモデルに代わる、積極的かつ実行可能なモデルを構築するという共通のコミットメント」によって団結している。

メンバーとなる金融機関には、人、地球、利益という3つの観点から損益を考え、信用の高い融資が求められる。

ほとんどの金融機関は収益性を主に、あるいは収益性のみをもとにビジネス上の意思決定を下すが、GABV銀行は「人々のどのようなニーズを満たすべきなのかをまず特定した上で、そのニーズが財政的に持続可能かどうかを判断して決定する」

メンバーとなる金融機関は「小売業の顧客を中心とした独立した認可銀行でなければならない。資産合計は最低5000万ドル必要で、人、地球、利益という3つの観点から損益を考え、信用の高い融資をコミットしていなければならない。」

さらに、「人々や環境に対する永続的なソリューションを生み出し、真の経済のために働く起業人を金融支援する銀行が求められています」とブロム氏は語る。「真の経済」とは「金融市場での売買を中心にした経済活動ではなく、商品とサービスの生産を中心に考える経済」と定義される。

税務、監査の巨大企業KPMGがこの会議を後援し、また報告書は保守的なロックフェラー財団が資金提供したということは、このようなメッセージが予期せぬところでも勢いを増していることの表れかもしれない。

憤りは変化をもたらす

多くの国々で金融危機に対する公の憤りが噴出している今、良識ある銀行が躍進する機が熟している。さらに、今の支配的な経済パラダイムは、経済的のみならず、科学的にも持続可能ではないという科学的認識も広まっている。

クライン氏はスピーチの冒頭で、ウォール街占拠の際、金融セクターに対するメッセージとして有名となった表現を使った。「あなたたちの危機のツケは払わない」。そして、ごくわずかなエリートの「夢の政策」を推し進めるために経済危機の利己的な利用が行われていると続けた。すなわち、社会のセーフティネットを削減して国民をより危険にさらし、負債に依存させるような政策のことである。だがそのような政策立案の理由をスケープゴート(組合など)に押し付けて非難することはもはや許されないと氏は述べた。大衆は「金融危機の根源は欲だ」ということを理解しているからだ。

NEFのウォリス氏は、経済は世界的生態系のごく一部にすぎないこと、そして人類はこの惑星の環境収容力を認め始めなければならないということ(そしてもう何十年もそれを超えてしまっていること)をより広い視野で認識することが必要だと強調した。

「私たちは『トリクルダウン政策(大企業優先の経済政策。「徐々にじわじわ浸透する」の意)』から『フーバーアップ(「猛スピードで上昇する」の意』に転換しなければならない」とウィットに富む表現をした (バラク・オバマ米大統領ですら「トリクルダウン」を痛烈に批判している。)

経済における「4人の騎手」に話を移そう。それはシステマティック、かつ絡み合った、人々を持続不可能、不公平、不安定、不幸に陥れる一連の問題のことである。ウォリス氏は転換を成功させるのはややこしいかもしれないが、それでも変革は可能だと主張する。(偶然にもイギリスでは「Four Horsemen(4人の騎手)」と題された「指導的思考家」を描く映画が公開された。作品には希望のメッセージもこめられている。)

銀行は重要な公共サービスを提供している、とウォリス氏。「銀行はまるで自分たちが主人のように振舞っていますが、本来は人に仕える立場にあるべきです」と彼は言う。そして「安定し、公平で、社会的に役立つ」存在でなければならない。

バンシティのブルーム氏も同意した。そもそも政府が銀行の債務を保証するようになったのは資本金は人と地球のサービスのために用いられるものだからだ。しかし、それはもはや多くの場合当てはまらず、銀行が不当な優位性を保っているということを氏はほのめかしている。

さらにクライン氏は銀行救済も銀行に特権を与えているだけだとの見解を述べた。銀行取引は「それ自体が特権です。信用創造は特権なのです」

行動への呼びかけ

どのように大手銀行や銀行救済を規制するか、その取り組みに関する激しい議論が交わされている中、「サステナブルで、地域重視の金融支援を中心に据える」新たな銀行は、価値観に重点を置くモデルが強力であることを証明している。
主流の銀行に代わる実行可能なな他の選択肢を人々に与えることは、クライン氏がグローバルな金融構造を変革させる「二本柱戦略」と呼ぶ戦略の最初の一歩である。これにより、真の経済に再び焦点を絞り生態的安定と社会的公正を育てる変革に資金提供することができる。

会議の最後にハノマンシング氏がパネリストに「行動を呼びかける」メッセージをお願いすると、クライン氏は「お金を動かすだけでは不十分です!」と答えた。人々が「運動に参加すること」が大切なのだと。表面的には議論の冒頭で氏が説明したように、銀行を「無罪放免」にするのではなく「分割」し国有化しようとする運動がよい。

クライン氏がグローバルな金融構造を変革させる「二本柱戦略」と呼ぶ戦略により、真の経済に再び焦点を絞り、生態的安定と社会的公正を育てる変革に資金提供することができる。

ウォリス氏も同意しており、君臨するメガバンクのエリート達の見下したような態度が私たちを「彼らのマネーゲーム」に駆り立てているのが現状であり、そのため新たに実行可能な代替モデルを作り、その代替的選択肢への転換に弾みをつけていると述べた。

トリオドス銀行のブロム氏は、満員の聴衆に対し、本当に変化は起こりつつあるのだという希望的観測で会議を締めくくった。5年前にはこのような討論会はせいぜい30人~40人の注目しか得られなかったという。

ブルーム氏は「どこに資本があるかによって、私たちが向かう世界が決まります」と述べた。そうであれば、GABV会議でバンクーバーの聴衆に伝えられたメッセージが早く世界に伝わることを願う。OECD報告書によると、2050年の世界経済は現在の規模を上回り、8割増しのエネルギーが必要となるのだから。

翻訳:石原明子

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著者

キャロル・スミスは環境保護に強い関心を寄せるジャーナリスト。グローバル規模の問題に公平かつ持続可能なソリューションを探るうえでより多くの人たちに参加してもらうには、入手しやすい方法で前向きに情報を示すことがカギになると考えている。カナダ、モントリオール出身のキャロルは東京在住中の2008年に国連大学メディアセンターの一員となり、現在はカナダのバンクーバーから引き続き同センターの業務に協力している。