水関連の目標:コスト以上にリターンは大きい

このほど発表された研究によると、期待される世界の水関連目標を達成するためには、今後20年間にわたり推定で年間8,400億米ドルから1兆8,000億米ドルの投資が必要となるが、この投資によりもたらされる経済的・環境的・社会的便益は年間3兆米ドルを超える可能性があるとのことである。

この研究は、利用可能な大量のデータ、ならびに安全な飲み水と公衆衛生への普遍的アクセス、食料生産や再生可能エネルギー生産のための灌漑の拡大を含む主要な世界の水関連課題の費用に関する過去の見積りを収集しまとめたものである。

今回の研究では、2015年に国連ミレニアム開発目標(MDGs)が期限切れを迎えた後で国際的な開発アジェンダの指針となる新たな「持続可能な開発目標(SDGs)」に水を組み込むための選択肢について、初めての包括的で証拠に基づいた分析が行われた。

「Catalyzing Water for Sustainable Development and Growth(持続可能な開発と成長のための触媒としての水)」と題したこの報告書は、カナダに拠点を置く国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)と国連持続可能な開発事務所がストックホルム環境研究所と共同で作成したものである。

持続可能な開発と経済成長のための水の供給を目的とした包括的なポスト2015開発アジェンダを実施するためには、今後20年間にわたり先進国と開発途上国を合わせた世界全体で、年間8,400億米ドルから1兆8,000億米ドルの費用を要すると推定されている。

これは現在の年間支出から見ると大幅な増額ではあるが、これにより直接的な経済的利益、生活基盤の構築、保健医療システム上の節約、自然の生態系サービスの保全など、3兆米ドル以上の便益が生み出される。

例えば保健医療部門だけでも、公衆衛生と飲み水へのアクセス改善のための投資1ドルにつき4.30米ドルの利益が生じると、世界保健機関の調査は推定している。また廃水処理、灌漑、環境サービスへの投資も、かなりの経済的便益を生む。

しかし水関連費用の計算には「誰もがあえて触れようとしない汚職という厄介な問題」がいつもついてまわると、同報告書の共著者の1人であるUNU-INWEHのザファール・アディール所長は言う。トランスペアレンシー・インターナショナルの調査では、現在の水関連インフラへの投資のうちなんと約30パーセントが汚職により失われているという結論に達した。現在の水準に基づく推定によると、汚職による損失が費用を劇的に増加させることになるだろうと、今回の報告書は指摘する。

「こうした汚職の影響は、貧しい人々や水へのアクセスを持たない人々にとくに重くのしかかっている」と報告書は指摘している。「水は部門横断的で圧力にさらされている資源であるため、汚職の対象となりやすい。その管理は分散的で、インフラは大規模な財政投資を必要とする。このような要素に加えて、民間・非公式組織が関与することも汚職を助長している」

「前進するためには、システムの浄化が不可欠です」と、アディール博士は言う。「もし何らかの方法で汚職を即座に撤廃できたならば、水関連目標の達成に必要な年間投資はGDPの1.2~2.2%(現在は0.73%)となり、保健医療費やその他の社会的費用の削減というかたちで数兆ドルの利益がもたらされます。これはより良いガバナンスへの投資を求める説得力のある論拠となります」

「報告書のなかで明確な経済的便益が示されてはいるものの、投資の規模と継続性を大幅に改善するために必要な財源を動員することは非常に大変な仕事です。そして汚職が問題をさらに厄介にしているのです」

水は社会開発、環境保全、経済成長の鍵であるとアディール博士は言う。「MDGsのもとでかなりの進歩が遂げられており、これは継続するべきです。しかし2015年以降の開発目標は、国の開発・成長計画と国際的な開発アジェンダにおいて水が果たす肝要かつ分野横断的な役割を認識したものでなければなりません」

水や公衆衛生関連の投資額を現在の水準の2~3倍近くに増やさなければ、世界の成長と持続可能な開発において真の進歩を遂げることは極めて困難となる。他に選択肢はない。私たちは水への広範な投資を今すぐに始めなければならない。

また報告書は追加的な資金調達先についても触れ、投資資金の多くはその投資を必要とする国の内部で調達すべきだとしている。この10年間、海外開発援助を通じたMDGsへの投資額は低迷しており、さらに減少する傾向にある。

地方や国の課税、補助金、利用者負担、民間投資といった従来の資金調達メカニズムに加えて、ポスト2015開発アジェンダの実施においてますます重要性が高まると思われるいくつかの革新的な資金調達メカニズムがある。

これらのメカニズムは、水問題の主導権が政府から一般市民に移ったことを反映しており、マイクロクレジット制度、オンラインの「クラウドソーシング」、および効率性向上による節約分の再投資といったものが含まれる。またバイオソリッドなど、各部門の副産物を通じて生み出されるその他の収益も、目新しいものではないがポスト2015開発アジェンダにおいて重要なメカニズムとなっている。

「地球の転換点が近づき、後戻りできない変化が生じているなかで、革新的な視点とパラダイムシフトが求められています。この報告書はそうしたプロセスを可能にするためのものです」と、国連経済社会局(UN-DESA)持続可能な開発部のニキール・セツ部長は言う。

今後の課題

この報告書は、今後数十年の間に世界が直面する以下のようないくつかの水関連課題を取りあげている。

水の消費の増加

消費パターンに何らかの変化が生じない限り、水の超過需要は2030年までに40パーセントに達すると予想されている。その原因の1つは人口増加であり、最新の「世界人口展望」によると、2100年までに地球の人口は37億人増加するとのことである。この増加分の多くは後発開発途上国や開発途上国で生じる。また都市部の人口も増加し、2030年までに世界人口の60%に達する見込みである。

食料需要の増加と食習慣の変化

予測によると、2050年の世界人口91億人に食料を供給するためには、2050年までに全体的な食料供給を約70%増加させる必要がある。この需要の一部は、食料(と水)の無駄を減らすことで対処できる。無駄を削減しなければ、開発途上国の食料生産を2倍近くに増やすとともに、いくつかの主要商品(とくに穀物と肉)の生産を大幅に拡大しなければならない。収穫量の増加と作付強度の改善によって、世界全体の農作物生産増の90%(開発途上国では80%)を達成することができ、残りは農地拡大で賄える見込みである。

エネルギーの需要とアクセスの拡大

電力を利用できる人の数が増えるなか、エネルギー需要増の大半が非OECD諸国で生じている。事実2010年から2040年までに、世界のエネルギー消費は約50%増加すると予想されている。またエネルギー源の転換も、水をめぐる圧力を高めている。例えばバイオ燃料に対する需要の増加によって、燃料作物の栽培に必要な水が増える。こうした水の使用法は、下流で水を再利用できる水力発電と比べてより消費性が高い。

気候変動の影響

気候変動およびこれに対する適応・緩和政策は、資源への圧力を高める。さらにこうした圧力は世界中で不均等に配分され、回復力の低い人々や地域に最大の影響を及ぼす。

新たな地政学的力学

世界経済フォーラムは、資源の奪い合いによって国益や同盟関係を軸とした新たな力学が形成される可能性があり、これが多国間的グローバル化からの撤退を生み、その結果、国際組織の存在意義が問われ、グローバル企業は難しい政治的展望に直面することになるかもしれないと示唆している。

翻訳:日本コンベンションサービス

著者

コリーン・シュースター=ウォレス博士は、オンタリオ州ハミルトンに拠点を置く国連大学水・環境・保健研究所のプログラム・オフィサー(水と人間開発)である。気候変動への環境的要因、水媒介性の病気への影響と発生、人の健康と幸福への関係性といった分野を含む、水と健康のつながりに関する幅広い経験を持つ。国連大学に所属する前は、カナダのゲルフ大学工学部のほか、カナダ公衆衛生庁で水と環境の専門家として勤務し、カナダのウォーカートンで2000年に起こった飲み水汚染事故に関する第2次ウォーカートン調査委員会の顧問を務めた。シュースター=ウォレス博士は、イングランドのレスター大学およびカナダのウィルフリッド・ローリエ大学で学位を取得している。