移民たちの旅は常に命懸けの危険を伴う – 女性移民150人へのインタビュー

11月24日に英仏海峡で命を落とした27人の中には、女性7人と子供3人が含まれていた。11月21日の時点で、地中海を経由して到着した移民の27.1%が女性と子供であり、欧州での新生活を求める移民には女性や子どもが多く含まれている。英仏海峡は、時として暴力的で油断できない長い旅路の危険な最終通過点となっている。

「女性に対する暴力撤廃のための国際デー」である11月25日の前夜にこのような悲劇的なニュースが流れた。皮肉なことに、女性が危険でも移住の旅を選ぶ理由の多くは暴力から逃げるためである。しかし、旅の途中や目的地で更なる暴力に遭遇することが多いのである。

女性は報復や汚名を恐れて、暴力を報告しないことが多い。これは、女性が必要なサポートを受けられないことだけでなく、正確なデータ収集の妨げにもなっている。

そこで、世界大学ネットワークから私と7人の専門家とが結集し、女性、移住、彼女たちの回復過程について調査するプロジェクトに取り組んできた。私たちは、これまでに約150人の女性にインタビューを行い、現在、彼女たちの物語を共同ストーリーテリング・プロジェクトとして発表している。 

 家庭での暴力

私の同僚の一人であるマリナ・デレグトは、故郷を離れて移住したエチオピアの若い少女たちについて調査した。彼女たちが移住する理由のひとつは、義父母や叔母、叔父によるジェンダーに基づく暴力から逃れるため、あるいは、強制的な結婚を回避するためである。エチオピアでは40%以上の女性が18歳未満で同棲または結婚している。

13歳の時、セラムは「学校をやめるか、結婚するか、叔母と一緒にハルツームに行くか」の選択を迫られた。彼女はこう語った:

15歳で結婚していない女の子は、年寄りとみなされるのです。また、学校でレイプされ、妊娠する少女もたくさんいました。祖父母は、私を守りたかったのでしょう。私が妊娠して、誰も結婚してくれなくなることを恐れたのでしょう。」

セラムは、児童婚から逃れるために移住することを選んだ。彼女は優秀な生徒だったが、家族は学校に行けば彼女が貞操を失うリスクがあると心配していた。エチオピアでは、少女たちは学校でも性的暴行を受けやすいのである。もし、レイプされるようなことがあれば、彼女は結婚の可能性を失っていたであろう。

エチオピアでは、農村部では未だに見合い結婚が一般的である。少女たちは自ら結婚を決めることができず、かなり年上の男性と結婚を強いられることも少なくない。セラムさんは、児童婚をするか、スーダンに移住するか、という限られた選択肢に直面した。

 移住先での暴力

リビアを経由する地中海中部ルート、トルコやバルカン半島西部を経由する地中海東部ルートでヨーロッパにやってきた難民の旅路について、私と同僚のタリサ・デュボーは共同で調査を行った。彼女たちは、この旅のいくつかの地点で、国境警備隊、密輸業者、誘拐犯による暴力的な虐待に遭遇し、溺死、虐待、飢餓に起因する死に直面したと語った。

トルコでインタビューしたアフガニスタンの若い女性バハールに、最近、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)から米国への移住の提示があった。しかし、手続きには4〜5年かかる上、当時、アフガニスタンにいる彼女の家族は元夫から暴行を受けていた。

そのため、バハールは米国移住の選択肢を希望していたが、トルコに留まると自分と子どもが元夫に殺されるかもしれないという恐怖のため、不法に欧州連合(EU)に渡航する計画を立てた。

EUへの渡航が命にかかわることになると承知していたが、彼女はこう語った。「私はどうしてもこのリスクを負わなければならないのです。他に選択肢はないのです。」

 目的地での暴力

目的地に到着した後も、移住女性は必ずしも自由ではない。

近年、主にアジアで結婚移民(結婚を目的とした移住)が増加している。例えば、貧しいベトナム人女性にとって、台湾への結婚移民はより良い生活を送るためのチャンスとなる。

台湾人男性と結婚するために台湾に移住するベトナム人女性について、私の同僚であるスーリン・ユーは、広範囲な調査を行っている。1997年以降、52万人以上の女性が結婚を目的に台湾に渡ったが、台湾の人口約2,400万人を考慮するとかなりの人数だ。

スーリン・ユーの調査によると、ベトナム人女性は夫による心理的・身体的虐待や、場合によっては他の男性家族によるセクハラなど、複数の形態の暴力に対して非常に脆弱であることを見出している。インタビューに応じた女性はこう語った。

「夫が深夜の2時か3時ごろに帰ってきて、私と口論になることがありました。夫は、私が妊娠3カ月ごろから殴るようになり、それは妊娠中も続きました。義父母もそれを知っていましたが、助けてはくれませんでした。」

移住女性は夫に依存している。暴力的な夫たちは、妻が台湾の市民権を申請できないようにコントロールするためパスポートを取り上げ、継続的に虐待が行われていることがわかっている。このような女性たち は孤立しがちで、支援を求める手段もほとんどない。世界的に見ると、男性よりも女性は圧倒的にパートナーに殺される可能性が非常に高く、被害者の82%は女性が占めている。

 暴力に終止符

英仏海峡で妊婦や子供を含む27人が死亡したことは痛ましいことだ。彼女たちが危険であることを承知の上で、安全な場所や自由な生活の機会を見つけ、 日常的な暴力や死の危険から逃れるために移住していることを私たちはは認識しなければならない。しかし、彼女たちの努力もむなしく、安全や可能性を求めることにより、更なる暴力にさらされたり、命を落としたりすることがあまりにも多い。

私たちは力を合わせて、 女性の移民を擁護し支援することができる。女性移民が守られ、体験を共有し、当事者中心の総合的支援サービスを提供する安全な空間を創設することが必要だ。私たちが女性たちの体験談を紹介することで、この危機の認識と支援意識を高めたい。

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この記事は、クリエイティブ・コモンズのライセンスに基づき、The Conversationから改めて発表されたものです。元の記事はこちら

 

著者

ケイティ・クッシュミンダー博士は、国連大学マーストリヒト技術革新・経済社会研究所(UNU-MERIT)とマーストリヒト大学の准教授。彼女の主な研究対象は、帰国・社会復帰、非自発的移住、移民ガバナンス。