移住のためのグローバル・コンパクトで平等性を重視すべき理由

2022年4月、国連大学は他の国連機関に加わり、安全で秩序ある正規移住のためのグローバル・コンパクト(GCM)に関する国連システム誓約を承認した。この記事は、国連大学移住ネットワークのメンバーや寄稿者が、政策や実務における公正でエビデンスに基づいたGCM推進について検討するブログ・シリーズの一部である。

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地中海からヨーロッパに渡る移民の増加による政治的、政策的影響に行動を迫られ、国連加盟国は2016年、ニューヨークで会合を開き、国際的な人の移動の管理をいかにして向上させるかについて話し合った。その2年後、「安全で秩序ある正規移住のためのグローバル・コンパクト(GCM)」が152の国連加盟国によりモロッコで採択された。GCMは、人命を救い権利を守ると共に、世界規模で責任を共有するとしたニューヨーク宣言の抱負の実現に向けた2つのグローバル・コンパクトの内の1つである。

その当時から、さまざまな変化があった。ベネズエラ難民の流出や米国・メキシコ国境での子供たちを含む移民の拘束、新型コロナウイルス感染症による国境閉鎖。最近では、ロシアの侵攻に起因するウクライナからの約7百万人もの人々の移動。2018年当時と比べて、世界は全く異なる場所となった。

しかし、残念なことに、変わらないこともある。移住は今なお政治的な議論の的であり、政策は、根本原因の解決のためのニーズや責任の共有よりも、加盟国の利害によって決定されている。難民申請者をルワンダに移送しようとする英国の計画など、最近の政治的イニシアチブは、グローバル・スタンダードやコミットメントを弱体化させる脅威となっている。また、移住には、世界的、国家的、地域的レベルでの大きな不平等が伴い続けている。これは、人類の幸福や持続可能な開発目標(SDGs)の実現に貢献し得る移住の可能性を損なうものである。このような不平等は、新型コロナウイルス感染症により拡大の一途をたどっている。

データの重要性

移住政策の決定に資する正確で信頼でき、比較可能なデータの重要性は、以前から認識されており、このことはGCMにも反映されている。実のところ、これは23の目標の内の1番目である。だとすれば国連大学の同僚であるエレイン・レボン=マクグレガーが解説記事で以前指摘したように、国連加盟国が自らの自発的国別レビューで最も頻繁に言及する目標の一つがデータとエビデンスであるのは、驚くことではないだろう。

しかし、移住政策決定のためのデータの作成は、決して容易ではない。まず、移住についての知識は、移住が多く起き、移動が常に生活や生計手段の一部となってきたグローバルサウスではなく、グローバルノースによって生成される傾向がある。また、経済的要因のみが注目され、移住の意思決定を左右する他の要因や、より広範な社会的、文化的、政治的変化プロセスと交差する他の要因が排除される傾向がある。

幸いなことに、これは変わりつつある。

Migration for Development and Equality(開発と平等のための移住:MIDEQ)ハブは、グローバルサウスにおける移住と開発と不平等の間の関係について、エビデンスに基づく理解を構築することを目的として、5つの大陸から約100名の学者らが集う国際協調事業である。12カ国で暮らし仕事をする研究者らが率いるMIDEQでは、移住と開発と不平等の関係について、膨大な量のデータとリサーチ・エビデンスを収集した。

移住と不平等の関係

MIDEQのデータは、いくつかの重要な点で、移住と不平等との関係についての我々の理解を複雑なものにする。

第一に、移住と不平等との関係が単純なものではないことが確認される。例えば、送金によるリソースの再配分など、移住によって不平等が軽減される場合もあるが、移住が起きた状況のせいで、不平等がさらに増幅される可能性もある。グローバルサウスの多くの移民やその家族にとって、移動の権利の不平等は、多くの場合、困難で高価で時には危険な旅を、権利の欠如を、不安定な雇用条件を、そして、社会保障にアクセスする機会が全く無いか、あっても制限されていることを意味する。移住によって新たな社会的不平等が生じる場合もある。例えば、エチオピアでは、親族を南アフリカに移住させた一部の家族だけが、リソースにアクセスできる状況が生まれている。

第二に、移住に伴う不平等は多くの場合、交差的である。GCMでは、移住における男女間の不平等を減らす必要性が強調されるものの、それ以外の不平等や、それらの間の交差性については、ほぼ無視されている。MIDEQの研究者らが活動する環境においては、人種や民族による不平等が、男女間の不平等と同等か、時にはそれ以上に重要である。例えば、ブラジル南アフリカにおいては、奴隷制やアパルトヘイトに根差した人種差別やゼノフォビア(外国人嫌悪)のそれぞれが、それらの地で今日、生活する移住者らの体験を形作っている。これらのプロセスは、多くの場合、深くジェンダー化されている。

第三に、移住に伴う不平等は多くの場合、構造的である。それは、グローバルサウスとグローバルノースの中に、また、それらの間に長きにわたって存在してきた不平等な政治的、経済的関係の歴史を反映している。これらの不平等性は、社会という織物の中に深く織り込まれている。例えば、ハイチでは、多くの場合、国内の政治指導者たちの腐敗の問題が注目され、ハイチ政府の統治能力を損なってきた構造的不平等や、それに伴う介入策が無視される。移住管理だけを向上させても、これらの問題を解決することはできない。人々を移住に駆り立て、発展の可能性を損なっている、より広範な社会経済的、政治的状況を大々的に見直すことが求められている。

最後に、MIDEQの研究は、移住に関係する不平等が、移住する人々のみならず、移住しない人々に対して及ぼす影響についても明らかにしている。例えば、ネパール・マレーシア間の移住に関する研究では、「残された」人々、特に移住者の留守中に家計をやり繰りする移住者の妻たちがどのような経験をしたかに注目する。アニメーション映画、「COVID Chronicles(コロナ物語)」では、これまでの移住研究では軽視されることが多かったこのような経験が表現されている。新しい研究データに基づくこのアニメーションでは、アーシャとその夫、アミルの経験が描かれる。アミルはマレーシアに出稼ぎに出るが、新型コロナウイルス感染症の蔓延の影響で家に戻ることができなくなる。他の状況と同様、ここでも新型コロナウイルス感染症により移住に伴う不平等が深刻化しており、世界中の移民たちが直面する不平等の根深さ、幅広さを明らかにしている。

政策や実務における平等性の重視

国連加盟国がGCMの目標1の実現に努力していることは称賛に値する。今、我々がすべきことは、この努力を、大きく異なる地理的、政治的な背景にとどまらず、その他の全てのGCM目標を通じて、意味あるものにすることである。どのGCM目標も、その中核にあるのは平等性である。このプロセスにおいて重要な第一歩は、移住と不平等の関係について、すなわち、不平等がどのように人々を移住へと駆り立て、また、移住によって軽減されるかや、異なる状況下でさまざまな不平等が交差し、どのように移住の機会や結果を形作っているのかについて、そして、移住という症状を発現させている、より深刻な構造的不平等について、理解を深めることである。

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この記事は国連大学政策研究センター(UNU-CPR)ウェブサイトから転載されたものです。

著者

ヘブン・クローリー教授は、国連大学政策研究センター(UNU-CPR)で公平な開発と移住(Equitable Development and Migration)に関する研究のプログラム・ヘッドを務めています。