世界食料デー:飢餓問題に怒るだけじゃダメ

国際連合食糧農業機関(FAO)によれば、10億人以上が慢性的な飢餓状態にあるという。つまり地球上の7人中1人は、いつものように今夜も、空腹を抱えたまま眠りにつくのだ。

10億人が苦しむ飢餓の終えんを目指すFAOのキャンペーンのスローガンでは、私たちが「とんでもなく怒る」べきだとしている。なぜなら世界の飢餓問題は、十分な食糧の欠如の問題というよりは、食糧の配分と経済的不平等の問題だからだ。

アフリカの角(エチオピア、エリトリア、ジブチ、ソマリアを含むアフリカ東部を指す)と呼ばれる地域で1970年代や1980年代に起こった悪名高い飢饉の間、エチオピアのような貧しい国々に共通して見られたのは、国民が飢えているのを尻目に換金作物を輸出するという状況だった。

こうした状況を受け、権威ある経済学者で1998年度ノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・セン氏は研究の中で、ある特定の集団による食糧の需要が増えることで食糧価格が高騰し、その結果、貧しい集団は食糧を買うことができなくなるのだと論じた。

パンの価格との関係とは?

より最近の事例としては、パンの価格が30%高くなったことに端を発して起こったモザンビークの食糧暴動は、ロシアの野火によって小麦価格が世界的に高騰したことと関連している。どれもよくある状況だと、先日ガーディアン紙に語ったのはStuffed and Starved: the Hidden Battle for the World Food System(飽食と飢餓:世界食糧システムの見えざる戦い)」の著者であるラージ・パテル氏だ。

「2008年に石油、小麦、トウモロコシおよび米の価格が世界市場で高騰しました。トウモロコシの価格は2005~2008年の間に、ほぼ3倍になったほどです。その過程で、食糧を輸出している多くの国々で食糧暴動が起きました」

Our World 2.0のブレンダン・バレット氏が以前に論じたように、食糧価格の高騰を起こす要因は、2008年に4000万人を飢えに追いやった要因と同様に、数多くあり、相互に関連した複雑なものだ。石油価格の高騰、その結果として生じるバイオ燃料の生産増大、自然災害、作物を枯らす病原菌、そして一次産業への投機家たち。これらはどれも、ある程度は食糧価格を高騰させる要因だと言える。

食糧の価格高騰に対し各要因がどの程度の影響力を持つのか、その割合を明確にするのは難しいかもしれない。しかし明らかなのは、世界で最も貧しい人々の基本的条件が、世界で最も豊かな数カ国に翻弄されているということだ。国連の特別報告官、オリヴィエ・デシューター氏の言葉を借りるなら、「強力な機関投資家たち」のような「農業の市場原理に無関心な人々」の行動に左右されるのだ。「Food Commodities Speculation and Food Price Rises(食品投機と食糧価格の上昇)」と題された最近の報告書で、デシューター氏は食品市場の包括的な規制を暗に提言している。

価格を超えて

その一方、世界中の何億人もの人々が、食糧価格の高騰が生み出す問題とは正反対の問題を抱えている。苦境に立たされているのは、世界の貿易システムに組み込まれず、輸出市場から得る収入といった恩恵にもあずかれない人々だ。多くの場合、彼らのコミュニティーはスワジランド(2008年のドキュメンタリー「スワジランド 飢餓の季節」の舞台)のような世界最貧国にある。そこでは慢性的な干ばつ、食糧保存施設の不備、農業への投資の欠如といった問題がなかなか解決されないのだ。

現地の人々は、国連の世界食糧計画(WFP)のような組織が提供する人道的食糧援助に頼っている。WFPの推計では、2010年には9000万人が援助を必要とするという。WFPのジョゼット・シーラン事務局長は「10 Ways to Feed the World(世界の飢えを無くす10の方法)」を最近発表した。その提案では主に、資源の少ない開発途上国の政府が、やりたくてもできないのか、やるつもりもないのかは別として、国民のために何をすべきかという点が強調されている。

Our World 2.0の読者の方たちには、今いる場所で自分にできることはないか、そして何ができるかを考えてみてほしい。

食糧生産者と消費者の行動と選択が、地球の裏側にいる生産者と消費者に対し今ほど影響力を持つ時代はない。オーストラリアやアメリカのような有名な食糧生産国にいる人でさえ、地元で採れる食べ物と同じくらいの頻度でアジアから輸入されたシーフードやラテンアメリカ産のフルーツを食べているのだ。

そしてレジで支払う金額は安いかもしれないが、あなたに見えないコストをどこかで誰かが支払っているのかもしれない。代償を負わされているのは、汚染されたメコン川流域に住む人たちかもしれない。彼らが住む場所は、かつては豊かなマングローブ林だったが、私たちのシーフードへの飽くなき欲求に何とか応えようとした水産養殖産業によって破壊されてしまった。あるいは、安価なトマトを生産するために、低賃金で長時間働いているスペイン南部の季節労働者かもしれない。

おかしな形の野菜を笑っている場合ではない。そういった野菜は消費者の手に届かずに廃棄されることが多いのだ。

結束して飢餓を撲滅しよう

今年の世界食糧デーのテーマは「結束して飢餓を撲滅しよう」だ。食糧システムにおける諸要因の関連性がますます強くなっている状況から言えば、このテーマが寄付金を募るだけのスローガンであってはならない。大胆に聞こえるかもしれないが、私たちは誰でも、たとえ微力であっても、世界的な飢えとの戦いを支えることができるのだ。

第1の方法として、自分が食べる食品がどこから来たのかを知り、「食糧事情通」になることで、よりよい世界食糧システムに貢献することができる。つまり、地球の裏側にいる顔の見えない人々と食べ物を奪い合うことを避けるのだ。彼らの多くは1日2USドル以下で暮らしている。ヨーロッパの人たちの食の快楽を満たすためにウガンダから輸出されるナイルパーチは、その捕獲に従事している地元の人々には手が出ないような値段が付けられている。これはまさに食糧システムの不平等を表わす状況だ。

また、地産食品を食べることは、環境的にも社会的にも健康面でも、驚くほど多くのメリットがある。例えば輸送に使われる化石燃料にそれほど依存せずに済むし、食糧生産業界を活性化できるうえに、健康や安全面でもリスクが少ない。さらに、できるだけ地産食品を食べるようにすれば、その食品を生産したり加工したり輸送したりする人たちに近づくことができ、場合によっては直接知り合いになるかもしれない。そして何よりも、新鮮な食べ物の方がおいしいに決まっている。

しかし注意すべきこともある。地産食品の推進と、外国製品や外国の生産者を悪と見なすような内向きのナショナリズムを混同すべきではない。輸入食品の中には、地産食品よりも品質が良いものや、持続可能な方法で生産された安全な食品もある。さらに階は開発途上国の生産者たちが誇りを持って持続可能な生活を送る手助けになる場合もあるのだ。

食糧生産者が費やした時間と労力に対して公正な取引をしたいという人々の願いが高まった結果、フェアトレード運動は始まった。最近BBCによって、フェアトレードのカカオ農園で児童労働が行なわれていたことが暴露されたが、これをきっかけに労働認可やフェアトレード認定基準が強化されることを願う。

第2の方法として、私たちは政治的リーダーたちに圧力を掛け、デシューター氏が言うように「食料への権利の名のもと、自分たちの義務をまっとう」させなければならない。つまり、食糧市場を悪用する無規制の金融手段といった自由経済政策を放棄させると同時に、例えば巨大企業がトウモロコシを世界市場に「国内価格以下で投げ売り」できるような保護政策もやめさせるべきだ。これに関連し、豊かな国の政府が貧困を定着させるのではなく緩和させるような食糧援助プログラムにのみ投資するように、市民は目を光らせるべきだ。

あなたにとってはゴミでも…

飢餓を減らす第3の方法は、特に私たちが住むコミュニティーでは過小評価されることが多い方法だ。つまり食べ物のムダを減らすということ。トリスタン・スチュアート氏は「Waste: Uncovering the Global Food Scandal(廃棄物:世界の食糧スキャンダルを暴く)」という綿密な著書で、アメリカのような豊かな国々では食べ物の50%が廃棄されているという統計を引用している。

さらにスチュアート氏は次のように記している。「食糧供給が世界規模で行なわれるようになって以来、特に需要が供給を上回った場合、ゴミ箱に食べ物を捨てるという行為は、食べ物を世界市場から奪い、飢えている人々の口から取り上げるのと同じことである」

スチュアート氏の言葉はスワジランドの飢餓問題の解決には当てはまらないとしても、まだ食べられる食品を捨てるのではなく役立てれば、私たちが住む地域で食べ物に困っている人たちを助けることはできる。なぜなら先進諸国でも飢えに苦しむ人たちが増えているのだ。地元の慈善団体に何が必要か問い合わせたり、地元のスーパーマーケットでは食品廃棄物をどう処理しているか、たずねてみたりしてはどうだろうか?

さらに私たちはスーパーマーケットでの習慣を変えることで、状況を改善できる。つまり、変形した野菜を買ったり、買う品数を減らしたりするのだ。また、自宅のキッチンでは、残り物を食べるようにし、古くなったフルーツはジャムやケーキにする。

経済協力開発機構(OECD)とFAOによる「農業アウトルック2010-2019」によると、食糧価格は2020年までに40%高騰する見込みだとされており、現行の食糧システムでは世界の飢餓はさらに悪化するほかない。

つまり、飢餓問題に腹を立てるだけでなく、解決に向けて行動すべき時ではないだろうか?

翻訳:髙﨑文子

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著者

マーク・ノタラスは2009年~2012年まで国連大学メディアセンターのOur World 2.0 のライター兼編集者であり、また国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)の研究員であった。オーストラリア国立大学とオスロのPeace Research Institute (PRIO) にて国際関係学(平和紛争分野を専攻)の修士号を取得し、2013年にはバンコクのChulalpngkorn 大学にてロータリーの平和フェローシップを修了している。現在彼は東ティモールのNGOでコミュニティーで行う農業や紛争解決のプロジェクトのアドバイザーとして活躍している。