トレント・ロードはカナダのオンタリオ州ピーターバラ在住のエコデザイナー、園芸家、教師、ジャーナリスト、研究者である。通信および持続可能な土地利用を専門とし、2004年より生態学および自然農法の研究を行なっている。
私たちの食糧システムは持続可能ではない。 これは、漠然とした根拠で、現在の食糧システムが環境に優しくない、という意味で言っているのではない。ここでの持続可能性とは、「この先も継続できるか否か」という意味である。
そして、私たちは近い将来の話をしている。多くのデザイナー、エコロジストや農家が、ようやく解決方法を模索し始めた。これらの取り組みが間に合うかどうか、それは時間が経ってみなければわからない。
解決方法を探る前に、一体なぜ、非持続可能な食糧システムに対して、現在こんなに不安が高まっているのか考えてみたい。
その鍵は市場にある。国連食糧農業機関(FAO)の食糧価格指数によると、世界の食糧価格は、2005年から2009年11月までの間に、約32%上昇した。FAOの予測では、主に食糧価格の高騰によって、2009年にはさらに1億人が飢餓に苦しむことになる。
パデュー大学のFarm Foundation研究所の農業エコノミストによると、現在の食糧価格は、昨年の歴史的な上昇に比べれば落ち着きはしたが、食糧価格を引き上げる背景はいまも変わっていない。このような背景には、肥料、水、電気、家畜飼料の価格が含まれ、その他にも多くの複雑な要因がある。
例えば、カナダでは、2008年だけで肥料価格が60%も上昇した。他の地域でも似たような数値が報告されている。世界の他の地域に比べると、カナダの食糧価格は比較的安定しているが、それでも、カナダの国営統計機関であるStatistics Canadaによれば、2009年2月までの1年間で、7.4%上昇している。
これらの事例は私たちに疑問を投げかける。富裕国の市民たちは、一体いつになったら目を覚まし、食糧を当たり前だと思うのをやめるのだろうか。
正確には何が問題で、私たちはどうすれば良いのだろうか。多くの人々が、すでに目の前にある問題に取り組むだけではなく、抜本的な変革によって、食糧システムのような生命を維持する構造を構築していくことが必要だと考えている。
建築家であり工業デザイナーであるウィリアム・マクダナー氏と化学者のマイケル・ブラウンガート氏は、共著「ゆりかごからゆりかごへ入門―世界を新しくするものづくり」の中で、人々は、産業(例えば産業的農業など)と環境は両立しない、という考え方に慣れすぎてしまっている、と述べている。両氏は、産業と環境は対立するという私たちの考え方こそが、問題であると考えている。
「もしも人間が、人類の豊富な創造力、文化や生産性の集大成となるような製品やシステムを作ったらどうなるだろう。人類が、合理的かつ安全なものを生み出し、後悔ではなく喜びをもたらす足跡を環境に残せるとしたら」
マクドナー氏は、椅子から建造物に至るまで、無害で無限にリサイクルができ、生物分解が可能な製品を多く生み出してきた。これらが、そのような社会は実現可能であるという彼の楽観的な意見を支えている。
食糧システムについても同様のことが可能である。そして、Sustainable Harvest Internationalや国際アグロフォレストリー研究センターを含む世界中の多くの人々が、そのことを実証している。食糧に関して言えば、私たちが農場を生態系の一部と考えておらず、生態系に馴染むように農場を計画しないことが問題となっている。伝統的な有機農法でさえ、健全で永続的な生態系が安定しておらず、(化石燃料や有機物質など)持続可能性とはかけ離れた多くのインプットを必要とする。
気候変動や、予測不能な石油、天然ガスや肥料の供給は、食料システムを維持していく上でとても大きな(周知の)懸念事項である。しかし、現代農業における土壌浸食の問題はほとんど注目されていない。永続的な食糧システムを構築するには、土壌も永久的に必要だというのに。
残念ながら、世界の農業用地の40%は深刻なダメージを受けている。国連の調べによると、未熟な農業技術のために、毎年ウクライナの国土に相当する肥沃な土壌が失われている。そして、この現象は世界のいたるところで見られている。
単刀直入に言えば、大量飢餓を防ぐためには新しい農業システムが必要なのである。土壌がなければ食糧も生まれない。
それでは少しの間、他の食糧シナリオを想像してみよう。より多く収穫するために、森林のような垂直空間を使うシステムはどうだろうか。林冠から下層、低木、つる、小さな植物、地面を覆う草に至るまで、システムの中の全ての種が食糧や薬草を生み出すのを想像してみよう。
次に、この食物に適した自然の中の畑に、自分の好きな食べ物がいたるところにあるのを想像しよう。それらの食べ物は、周りの木々や植物に栄養をもらい、風や害虫から守ってもらったり、その根を覆ってもらったり、ミネラルやその他の必要なもの全てを与えられている。それは食糧の森であり、実際にこのような森林は存在している。
自然の森は有機物を生成するのが早く、土壌の侵食を防ぐばかりではなく、土壌そのものを生み出す。そのバイオマス収量は現代の農業システムをはるかに超えており、私たちは、食用・薬用の植物を使って、森林の真似をすることだってできるのだ。これは都市部と地方の両方で実行可能である。
カナダのゲルフ大学やアメリカのミズーリ大学など、世界中の多くの機関が研究を進めているアレイクロッピング技術を利用した、大規模な産業システムという選択肢も残っている。これは、貴重な樹木や多年生作物を列に並べて植え、その列の間に従来の品種または新しい種類の穀物を植えて機械で収穫する手法である。
生態学的観点から構築された食糧システムは、通常様々な多年生樹木や非木本作物(樹木ではない作物)を使用する。これらが常に地面を覆い、風や水による浸食を防いでくれる。
同時に、様々な植物を植えることは、根の深さ、形状、大きさにも多様性をもたらし、植物同士の競争を最小限に抑える一方で、土壌を安定化しその構造を改善することができる。さらに、透水も向上し、流水による土壌の損失も防ぐことができるようになるだろう。より多くの空気を含んだ土が、土壌中の生物に栄養を与える。これが最終的には植物の栄養源となっていくわけである。
木本植物と多年生の非木本植物は、一年生植物よりも根を深く張る。つまり、(外部からのインプットの必要性を大幅に減らしながら)より多くの栄養素を吸収し、リサイクルすることができる。
これらの植物の土壌表面への落葉落枝の量もまた、一般的に、(いまだに多くを占める)従来の作物よりも大幅に多い。この層が根を覆って保護し、そのうち分解生物(虫、ミミズ、バクテリア、菌)によって少しずつ分解され可溶性の植物栄養素となる。さらに、これらの分解生物自体が栄養素であり、その生死のサイクルが長い時間をかけて植物に栄養を与え続けるのである。
土地の浸食を抑える持続可能な食糧システムの他の方法としては、無耕農業、または大型機械を使わない農法がある。これらは、とりわけ土壌が湿っている場合に有効である。これらの方法を用いることで、水の浸透を妨げ、土壌の流出の原因にもなる土壌の圧縮が軽減され、根の成長や健康状態にとって理想的な土壌構造を維持することができる。
ここに私が述べてきたコンセプトと原則は、生態学に基づいて構築された食糧システムにおける複雑な相互作用と働きのほんの一部である。このような生態学的原則は様々な規模で応用できる。
資源は永遠に続くわけではない。そして、土壌、肥料、その他の主要なエネルギー源など、その多くはあっという間に減っていく。私たちは、地方に真に持続可能な農場を構築していく一方で、都市部でも一部の食糧を育てられるシステムを考え始めた方が良いのではないだろうか。
そうすることで、私たちは、生活を支えるだけではなく、生活に意味を与えるような世界を創造していくであろう。マクドナー氏が述べているように、私たちのゴールとは、「クリーンな空気、水、土そして力がある、素晴しく多様で安全、健全かつ公正な世界であり、それらが経済的で、公平かつ優雅に、環境に配慮した形で享受される世界」でなければならないのだ。
翻訳:森泉綾美
How Things Work: Ecological Food Systems by Trent Rhode is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.