食料不安と紛争のワナ

戦争に揺らぎやすいソマリアで今も続いている飢饉は、暴力的紛争と食料不安の関連性について多くの推測を呼んだ。評論家の中には、エジプトやチュニジアで今年起こった政治革命と食料価格の記録的な高騰を結びつける者もいる。

国際連合世界食糧計画(WFP)のPolicy, Planning and Strategy Division(政策、計画および戦略部門)が発表した最近の報告書は、食料不安と、政治的紛争(例えば革命や社会不安)と暴力的紛争(例えば内戦や国家間の戦争)の両方との関連性を分析している。さらに下記で考察するように、平和を取り戻し社会資本を築くような食料援助を各国政府と国際社会が提供できる方法を挙げている。

「Food Insecurity and Violent Conflict: Causes, Consequences, and Addressing the Challenges(食料不安と暴力的紛争:原因、結果、問題への対処)」の中で、著者であるヘンクヤン・ブリンクマン氏とカレン・S・ヘンドリックス氏は、食料不安は「脅威であり、暴力的紛争を増幅させる原因」であると明言している。彼らは100以上の研究資料を参照し、かなり広範囲にわたる研究を検討した結果、「食料不安は、特に食料価格の高騰によって引き起こされた場合、民主主義体制の崩壊、内戦、抗議活動、暴動、地域的紛争のリスクを高める」としている。

食料不安は十分条件ではない

しかしながら、食料不安だけが紛争を誘発する条件ではない。あらゆる因果関係と同様に、2つの力の関連性はコンテクストによって特定されるものであり、国の発展レベル、政治体制や社会的セーフティーネットの強度に左右される。筆者たちは、国が脆弱であればあるほど、国民は輸入食料(相対的に、より高額である)に頼る傾向があるため、食料価格が不安定な状況下では、さらに影響を受けやすいという点を強調している。

“国が脆弱であればあるほど、国民は輸入食料に頼る傾向があるため、食料価格が不安定な状況では、さらに影響を受けやすい。”

写真:ILRI/Mann

写真:ILRI/Mann

「脆弱な国」ほど食料不安に陥りやすいという仮定は、直観的に理解しやすいだろう。一方、あまり明白ではないのは、非常に抑圧的な独裁政権は「反乱や革命のような地下活動の誘因を作り出す」かもしれないが、政情不安を制圧したり、それがもっと大規模な紛争に発展する危険を押さえ込むことに優れているという点だ。とはいえ、長い目で見れば、リビアやその他の圧政的な国で起きた最近の出来事から分かるように、暴虐的な政権は「パンと見せ物」を提供できなければ失墜する運命なのだ(それはちょうど、ローマの詩人ユウェナリスが西暦100年頃、支配者に対する国民の反乱を防ぐ方法として気づいた状況だ)。

いまだに続くアラブの春(今は夏だが)と呼ばれる革命で、食料価格はどんな役割を担っているのかという疑問について、ブリンクマン氏とヘンドリックス氏は、食料価格が決定的な要因であるという「統計的証拠は不足している」と考える。しかし、食料価格の高騰が(内戦ではなく)激しい暴動のきっかけとなることは、歴史が証言している。この相関関係が明らかになったのは、下記の図表で分かるように、2007〜2008年に当時としては史上最高となった食料価格の高騰が48カ国で暴動を引き起こした時だ。

出典:世界食糧計画。ヘンク=ヤン・ブリンクマン氏とカレン・S・ヘンドリックス氏による「Occasional Paper 24 ― Food Insecurity and Violent Conflict: Causes, Consequences, and Addressing the Challenges(臨時報告書 24 ―食料不安と暴力的紛争:原因、結果、問題への対処)」

出典:世界食糧計画。ヘンク=ヤン・ブリンクマン氏とカレン・S・ヘンドリックス氏による「Occasional Paper 24 ― Food Insecurity and Violent Conflict: Causes, Consequences, and Addressing the Challenges(臨時報告書 24 ―食料不安と暴力的紛争:原因、結果、問題への対処)」

紛争の可能性を高めるその他の側面としては、(失業しやすい)若年層の人口が相対的に多いかどうかといった人口統計的な要因が考えられる。同時に都市化の割合が高い場合、食料生産者に対する消費者の割合が高くなることが多い。この点に関連し、世界自然保護基金(WWF)による最近の報告は、「巨大都市」の増加が食料安全保障にとって極めて重要な水の供給を含む基本的サービスの崩壊を引き起こしていると主張している。

さらに、所得の不平等性(特に世帯間ではなく、異なる民族言語グループあるいは宗教グループ間での不平等)が高まることも紛争の誘因であり、その誘因がそろえば最悪の状況を生み出しかねない。

ニワトリが先か、卵が先か

ブリンクマン氏とヘンドリックス氏は、食料不安と暴力的紛争の関係は一方通行ではないと指摘している。食料価格の高騰は、社会不安の可能性によって増長されると同時に、社会不安を増長する。言い換えれば、食料安全保障は政治的安定の前提条件であり、政治的安定は食料安全保障の前提条件であるのだ。どちらが先かという問題は、「紛争のワナ」とコリエ氏と彼の同僚たちが称した状況から抜け出す方法を理解しようとすることに比べれば、今日的な意義はないかもしれない。

報告書は、食料価格の高騰に際して紛争のぼっ発を避けるために脆弱な国家でさえ取り入れることが可能な全般的政策を挙げている。例えば、輸入関税や税金の引き下げ、価格を抑えるための補助金の引き上げ、備蓄食料を開放し供給量を増やすことなどだ。実際、急激に食料価格が高騰した2007~2008年に、調査を行った84カ国のうち77カ国で価格安定化のために上記のような政策が実施されている。

“食料価格の高騰は、社会不安の可能性によって増長されると同時に、社会不安を増長する。”

写真:ILRI/Mann

写真:ILRI/Mann

政策決定者たちにとっての課題は、短期的な食料支援が食料不安と紛争の関係を長期的に悪化させないようにすることだ。例えば補助金は、最も弱い立場にいる人々を含む、すべての国民に対して食料価格を引き下げるため、理にかなった方法に見える。ところが、収入のうち食費に当てる割合が非常に低い人々も、絶対的には同じ経済的恩恵を受けることになるため、補助金は本質的に逆進的でもある。補助金をむやみに投入すれば、所得格差を広げる可能性があり、その結果、将来的な紛争の可能性を高めるかもしれない。

予防策なしの治療

WFPは飢餓から人々を救う任務という最も難しい課題に挑んでいる。アメリカ合衆国を含む強力な食料提供者の支援のおかげで、WFPは73カ国以上で年間9000万人もの人々に食料を提供している。食料支援活動において崇高な努力を重ねるWFPだが、彼らの役割は一種の治療であり、予防ではない。

支援を必要とする人々、特に幼少期の栄養不足が生死を左右する子どもたちに食料を提供することは不可欠である。しかし食料支援活動は、食料不安の長期的で持続可能な解決法には決してなりえない。WFPやその他の人道的支援組織が暫定的に直面する課題とは、報告書の筆者たちも認めているように、食料支援活動が「地域の食料生産への投資や地域能力の開発を損なう」ような、さらなる「紛争の原因」にならないように注意することだ。

とはいえ、WFP以外の国連組織、中央政府、地方政府、NGO(非政府組織)で働き、政策を決定する立場にいる人々は、飢餓と闘う世界最大の人道的支援団体がソマリアの前線でどのような活動をしているかについて恐らく関心が高いだろう。報告書の筆者たち(WFPを代弁しているのではない点は注目すべきことだ)は、「紛争のワナ」を打破することに関して、どのような貴重な洞察を国際社会に与えてくれるだろうか。

残念ながら、報告書の第5章「The International Community: Answer the Call, Promoting Peace(国際社会:要望に応え、平和を広める)」は、紛争諸国や、エルサルバドルやシエラレオネといった紛争後の問題を抱える国々でのWFPの活動を称えることに多くのページを割いており、あまり詳細な情報はない。インフラストラクチャーの建設に参加した人々に労働対価として現金あるいは食料を支給するという、キャッシュまたはフード・フォア・ワーク・プログラムは、紛争後の戦略として効果的であるとされている。さらに、WFPのフード・フォア・トレーニング・プログラムは、武装解除・動員解除・社会復帰(DDR)を進めるために、子ども兵士を含む元兵士へのインセンティブとして食料支援や新しい技術訓練を提供している。

しかしながら、より詳細で独立した評価(WFPは独自の評価を行っている)なしには、どの介入が成功したのか、そしてソマリアやその他の解決困難な状況に対処する際に役立つ教訓は何かを特定することは難しい。

唯一、報告書の筆者たちを始め多くの人々が確実に知っていることがある。それは、食料不安と紛争の結びつきを断ち切るのは「10年あるいはそれ以上かかる、長期的なプロセスである」ということだ。確かに予防は治療に勝るかもしれない。しかしソマリアの人々にとって、あまりにも長い間耐えなければならなかった状況に比べれば、治療の方がマシなのだ。

翻訳:髙﨑文子

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食料不安と紛争のワナ by マーク・ノタラス is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

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著者

マーク・ノタラスは2009年~2012年まで国連大学メディアセンターのOur World 2.0 のライター兼編集者であり、また国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)の研究員であった。オーストラリア国立大学とオスロのPeace Research Institute (PRIO) にて国際関係学(平和紛争分野を専攻)の修士号を取得し、2013年にはバンコクのChulalpngkorn 大学にてロータリーの平和フェローシップを修了している。現在彼は東ティモールのNGOでコミュニティーで行う農業や紛争解決のプロジェクトのアドバイザーとして活躍している。

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