シェルターを求めて

気候は何世紀も何十世紀もかけて一定のゆるやかさで変化する。しかし、19世紀中頃より、私たちの世界は地球が何千年もの間いまだかつて経験したことがないような温暖期へ向かっている。

もし、環境専門家たちの予想が現実のものとなったなら、気温の上昇の結果は人類に大きな影響を及ぼすことになる。環境の変化は都会から田舎まで同様に感じられ、私たちの現在の生活に大きなストレスをもたらすだろう。

2050年までには、人口は過去最高の90億人に達し、その多くは都会に住み、とてつもなく大きな「環境フットプリント」を形成することになる。これから2050年までには、次のような環境変化の影響を目にするかもしれない。沿岸地域(100万都市の多くが所在する)と小島での洪水の増加、農地の破壊、氷河から溶け出る水の消滅など。

天候がもたらす災害は、今以上に頻繁に、規模を拡大して発生し、長期的な気候変動の結果、数百万人の人々がシェルターを求めることになる。

いち早く危険から遠くに移動するための資金が準備できる運のよい人々にとっては、移住が最初の適応手段になるかもしれない。限られた財力しかもたない人々にとっては、、移住は最後の命を救うための手段となるであろう。

気候変動と新しい移住者の規模

国際移住機構(IOM)によると、約2億人の移住者が今日いると見積もられている(全人口の3%)。この数字は、政治的、経済的、そして環境の影響による移住者を含んでいる。他の団体が2007年に実施した研究によれば 2050年までには移住者の数は10億人に膨らみ、その内の2億.5,000万人が洪水や干ばつ、飢饉やハリケーンなど気候変動による移住者であると予想している。

しかし一番頻繁に使われている環境移住者数の予測は、「2050年までに2億人になる」である。2008年のIOMレポートを執筆したオリバー・ブラウン氏は、その中で、「2001年にノーマン・マイヤー氏が大胆に予想した数字である」として紹介している。ブラウン氏によるとこの数字はIPCC(気候変動に関する政府間パネル)やスターンレビュー(The Stern Review on the Economics of Climate Change : 2006年に英国の:経済学者Lord Stern of Brentfordが英国政府の要請に基づいて発表した気候変動が経済にもたらす影響に関する論文)にも引用されている。

将来の環境移住者数の予測や推測はさまざまで、意見が分かれていることは事実である。しかし、それらの推測にばかり気をとられていると、環境移民が抱える複雑な問題を理解できなくなり、この問題を将来解決するための最も重要な問いを見逃してしまうかもしれない。

環境移住者とはどんな人たちか?最初の論点は、気候変動などの環境要因によって居住地を追われた人たちをどのように分類するかである。人によって「環境難民」と呼ぶ人もいるが、1951年に制定されたジュネーブ国連難民条約の中で「難民」の明確な法的規定があることから、「難民」という言葉を使えないと言う人たちもいる。

「環境移住者」や「環境誘発移住者」といった言葉も普通に使われている。ロビン・ブロネン氏他の人々が作った言葉「climigrant(環境 climate + 移民 immigrant の造語)」は、気候変動によって移住した人たちのことを指す。

移住にはポジティブとネガティブな面があるが、一般の人たちにとっては心配の方が大きい。気候変動は、人口増加、社会的不安、安全リスク、経済発展の機会減少などとどんな関わりを持つのだろうか?

環境と気候の変動は一層著しくなっているが、それは決してすべての移住者の原因となるものではない。熱波と干ばつが作物を破壊し、暮らしが奪われて、移住せざるを得ない人たちもいるが、経済的、政治的な動機が移住を決める主な理由となっているように思われる。ただ一つ言える事は、開発途上で不安定な国々が一番最初に、かつ最もひどい影響を受けることである。

環境変化と移住のスナップショット

環境変化と移民の関係に関する研究と政策実施は1990年代前半から始まっているが、その理解はまだ限られている。ごく最近になって名高い科学者たちや有名機関がグループを形成してこの問題に取り組みはじめた。

政治上の決断において、環境変動は、より一層重要な要素となると考えられている。つまり、人類の移住に関わる管理方法をどのように発展させて行くべきかの政策議論において、経験的な証拠が不可欠になることを意味している。

欧州委員会は「環境変化と強制移動シナリオ (EACH-FOR)」のプロジェクトを知識向上の一環として共同スポンサーし、地域、国、地方、国際レベルで環境変化が移住にもたらす影響を調査した。国連大学もこのプロジェクトのパートナーとなっている。私たちは、23の異なる国々のケーススタディーを行い、環境変化のスナップショットを作った。それらは、極端な洪水、砂漠化、土地の衰退、海面上昇、水不足などのケースである。

私たちは、パートナーと共に、このようなメッセージを政策立案者たちに持ってゆきやすいように「シェルターを求めて」というレポートを2009年に作成した。最も重要な調査結果は以下の通りである。

環境変化の対応に苦しんでいる多くの家族にとって、季節移住はすでに重要な役割を果たしている。田舎の生活を今でも支えることができる生態系を求めて土地から土地へ移住することが、さらに一般的になる可能性が高い。生活を支える生態系への依存の崩壊が、長期的に移住の一番の理由であり続けると考えられる。

災害が短期的な強制退去と移住の主要理由であり続ける。災害のリスク削減に投資できなく、災害時の公的対応が乏しい国は深刻な状況に直面することになる。

海面上昇は、塩水侵入、浸水、大波、浸食、その他の沿岸危険を悪化させる。 これらの脅威は島の共同体にとってとりわけ厳しいものである。気候変動の衝撃は小さい島の生計維持と商業的農業に多大な影響を及ぼすと言うことは、今日のシシュマレフ やツバルやカルトレ諸島で見られるように明確である。

人口密度の高いデルタ地方(ガンジス、メコン、ナイル)だけでも、海面が1メートル上昇すると2,230万人の人々に影響を及ぼし、150万ヘクタールの農地を奪う可能性がある。 海面が2メートル上昇すると1080万人に影響を与え、少なくとも96.9万ヘクタールの農地を非生産的にするだろう。

多くの人は支援なしでは、気候変動の負の衝撃を十分に避けられる遠地に逃れることができないであろう。移住には、経済的、社会的、政治的なものをすべて含むリソースが必要である。これは、まさしく弱者がもたないものなのだ。ケーススタディーによれば、貧しい環境移住者は、去った場所と同じく不安定な場所に移住することを示している。

EACH-FORは、経済と政治的要素が今日の強制退去と移住の主要な理由であると認識しているが、今回のケーススタディーが示唆するように、気候変動もまた、すでに実証可能な影響を与えていると認識している。

挑戦の対処法

各国政府と人道主義に基づく活動家達は、急速に悪化しつつあるこの問題に、どこまでどのように対処していくつもりなのだろうか。移住は、環境と気候変動における適合戦略という文脈の中でまだ系統的な議論がなされていない。また、この議論においては以下のように様々な見解がある。

移住は適応の一形式ではなく、適応の失敗例であると指摘する人たちもいる。しかし、研究によると移住は、環境ストレスなどその他の様々な危機に直面している家族にとってリスク回避多様化戦略の一つであることがわかった。

もうひとつのポイントは、移住者と環境的圧力を受けている土地に残った人々は、お互いに交流があり、政策を考える上で同時に考慮する必要がある。移住者は大抵の場合、残ったコミュニティーとの繋がりを断たない。それらは時には物質的(送金)なものや、文化・社会・政治的なものであり、この繋がりが去った人と残った人の回復力と順応力を育成する。

もうひとつ、他の場所に行けばこれまでより人生がよくなると考える人々がいるので移住が往々にして発生するという事実がある。実際の自然な臨界点は、社会システムが臨界点に達する前に臨界点に達する必要は必ずしもなく、環境誘発移住自体が臨界点の表現となる。

これらのポイントは、移住とと再配置のための適合プランにおいて、大切な事を示唆している。しかし、世界中の政府は(未だ)移住をを適合代替手段としてみなしていない。「国家適合計画」の中で移住や強制退去に言及しているものはない。

現在のコペンハーゲン合意の草稿交渉文章は、移民と気候変動を関連づける必要性に言及しており、気候変動による影響に対応するための人類の移動という役割への理解が深まっていることを示している。

政策と研究における相乗効果の必要性

気候変動と移民についての結びつきをより理解し、持続可能な解決法を作り出すために、国連大学、国際移住機構(IOM)、国連環境計画(UNEP)、ストックホルム環境研究所、Munich Re Foundation (ミュンヘン財団)は、気候変動、環境、移民アライアンスを2008年4月に設立した。

同アライアンスは、政策と研究、異なる学問分野と異なる利害関係者の協力、国レベルでの総合的アプローチの作成において相乗効果を生み出す必要性があるという認識により設立された。これは、気候変動と移住において、知識から行動へと正しい道へ踏み出すための大きなステップとなった。

主要な目的は、移民における政策と実践の管理ということを念頭においた環境と気候変動の情報を一本化し、世界で現在議論されている環境気候問題に移住問題を組み入れることである。

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シェルターを求めて
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Based on a work at http://ourworld.unu.edu/en/in-search-of-shelter%E2%80%A8/.

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著者

ココ・ワーナー博士は、国連大学環境・人間安全保障研究所(UNU-EHS)の環境移住、社会的脆弱性、および対処能力の研究分野で学術研究官の長を務めている。開発と環境経済をジョージワシントン大学で学び、2001年ウィーン大学より博士号を取得した。1996年から1998年までフルブライト交付金の研究員としてオーストリアに滞在。国際専門誌、地球温暖化の編集局の委員でもある。ワーナー博士は、2009年12月のコペンハーゲンでの国際気候変動会議の協定に向けて精力的に交渉を続けている。

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