魚より肉を好む 日本人

この60年間に、世界中のあらゆる場所で人口統計に大きな変化があった。例えば、急速な経済発展に伴って起こった人口増加や都市化現象などである。

これによって伝統的な生活様式は大きく変化した。食事の内容が肉など動物性食品中心になったのは明らかな一例である。高タンパクで高濃度なエネルギー源を摂取する食習慣への移行は「食の西洋化」と呼ばれ、世界中で起きている現象だ。

このような食習慣の変化は世界的な家畜の生産の激増という結果を引き起こしただけでなく、最近のOur World 2.0の記事のトピックとしても取り上げたように、「肥満を蔓延させること」にもつながっていった。

国連食糧農業機関(FAO)の報告によれば、1961年以降、私たちに馴染みのあるあらゆる種類の食肉の生産と消費が著しく増えた。下のグラフが示すように、特に牛肉、羊肉、山羊肉の生産量は2倍以上になり、豚肉は3倍、鶏肉は9倍になった。

拡大と強化

家畜の生産量は、拡大と強化という2つのプロセスの同時進行により増加していった。畜産業の中には、いわゆる大量生産、大量消費と呼ばれる産業化した生産システムにその姿を完全に変えているものがある。

このような産業化した生産方法による畜産業は、空間的に密度が高く、農業中心地から地理的に孤立している傾向がある。かつて畜産業は、主に牧草地に近く、餌となる作物が育っている場所で営まれてきた。しかし過度に飼料に依存した最近の生産方法をもってすると、安価な飼料さえ十分に手に入れば、いかなる場所でも家畜の生産が可能だ。典型的な例は、東京の位置する関東地方での牛肉の生産量の増加であるが、この件については後ほど取り上げるとしよう。

このような畜産は集中家畜飼養施設(CAFOs)と呼ばれる。最近出版された本The CAFO Reader:The Tragedy of Industrial Animal Factories(集中家畜飼養施設の入門書―産業化された動物工場の悲劇)や多くの科学報告書で述べられているように、産業化された畜産の分野は、世界中で生態系を悪化させる主な要因の1つと考えられている。

“人類がこの地球上の土地を最も多く利用しているのは畜産活動で、その広さは地球の表面積の30%近くに上る。”

国連食糧農業機関(FAO)は2006年、食肉生産が環境に及ぼす影響について評価した有力な報告書Livestock’s long shadow(長期にわたる家畜の影響力)を刊行した。この報告書は論議を呼んだが、その内容は人々の度肝を抜くようなものであった。

人類がこの地球上の土地を最も多く利用しているのは畜産活動で、その広さは地球の表面積の30%近くに上る。同時に畜産活動は森林伐採の顕著な要因となっており、アマゾンではかつて森林に覆われていた(そして現在は伐採されてしまった)地域の70%が牧草地や家畜用飼料(大豆など)の栽培地になってしまった。畜産業関連の活動によって伐採された森林の面積は日本の総面積の1.3倍とほぼ等しい。(これはスペインやタイと同じぐらいの面積で、イギリスの2倍とも言える)

家畜の生産は世界中の自然環境に計り知れない影響を及ぼしており、生物多様性の損失を引き起こす大きな要因となっている。例えばコンサベーション・インターナショナルは、生物多様性が危機的状況にある35ヵ所の地域のうち、23ヵ所で家畜の生産が悪影響を及ぼしていることを確認している。

この報告書によれば、家畜部門で使用される水の量は、人間が利用する総水量の8%を占めているということだ。また温室効果ガスについては、人間が排出する総量の18%を占めており、これはあらゆる輸送活動で排出される温室効果ガスの総量よりも多いことになる。

日本の劇的な変化

食の西洋化が最も広まっている地域は東南アジアと東アジアだ。日本は過去数十年の間に、国民の食の嗜好が最も変化した国と言えるだろう。これには様々な要因がある。都市化現象、所得の上昇、食を供給する組織の変化(スーパーやコンビニの増加)、貿易自由化といった要因すべてが食の西洋化を促していった。

この歴史的な食の変化は、日本の首都である東京に現在住む人々が、魚介類よりも肉類を好んで食べているという事実からも証明される。これは東京の歴史の上でも初めての現象だ。1947年の平均的な東京都民が摂取していた肉類の量は1日5グラム程度であったが、最近のデータではこれが90グラムにも増えていることが判明した。私たちが最近調査した数字では、実際1970年から2005年の間に東京都で消費された牛肉の総量の増加率は160%(2005年に1人当たり11.5kgの増加に相当)であり、豚肉の場合でも90%(2005年に1人当たり20.1kgの増加に相当)となっている。

肉中心の食生活の流行とこれに関連して起こっている米と魚の消費の減少は、平均的な日本の献立を大きく変化させた。これについてはこのページ上にあるスライドショーの政府の説明で詳述されている。食肉消費の増大に向かう日本の献立の根本的な変化は、焼き肉レストランやファーストフードチェーンの流行という点からみても簡単に説明がつくだろう。実際に、現在マクドナルドの数が世界で2番目に多いのは日本であり、首都圏にいくつもの店舗を営業している事実から考えても、今や文化ともいえるファーストフード産業の展開を過小評価することはできない。

また、とどまるところを知らない肉類の需要の拡大は、日本の農業システムの食糧自給に深刻な被害をもたらしてきた。国連食糧農業機関(FAO)の統計によると、日本は1960年代初期には牛肉、豚肉、鶏肉のほとんどを国産で賄っていたのに、今ではすべての種類の肉と飼料における純輸入国となっている。

例えば上のグラフからもわかるように、人口の多い日本は今や国内で消費される牛肉の50%以上を輸入に依存しており、また国産牛肉の生産に使われる飼料の大部分も輸入に頼っている。この状況が、日本に直接食肉を輸出しているオーストラリアやアメリカなどの国々だけでなく、ブラジルのように畜産用の飼料を生産、輸出している国にまでも計り知れないストレスをさらに課していることになるのだ。

影響

日本人が次第に多く食べるようになったこのような食材の自給自足率は低く、これが日本政府の大きな悩みの種となっている。実際、日本政府は食糧自給率をトップの政策目標として取り上げ、これを(他の先進国と比べ)比較的低い割合ではあるが40以上に引き上げようとする努力を続けている。

最も興味深い政策のひとつに、米が健康食であると称賛し、米中心の食習慣を普及させようとするキャンペーンがある。これは、食育基本法(食育)に則って進められてきた。食育によって、食についての教育と信頼できる食の選択が政府計画の中心的な要素となっている。

また、肉や卵や牛乳と比較した場合、日本が高い自給率を維持している米や野菜といった農産物を消費することが重要視されていることも興味深い。

食糧自給率に与える影響はさておき、肉類の消費が増加したことにより、別の否定的な側面も浮き彫りになった。それは環境に関係したことだ。現在東京で消費されている国産の食肉量を賄うため日本で飼育されている家畜が必要としている農地の広さは、東京の総面積の2分の1という広大なものだ。しかしこうした農地が実際には減少している(1970年には大まかにいって東京2つ分の広さが必要とされていた)にもかかわらず、家畜の生産を激しく強化することによってなんとか必要とされる食肉の量を賄ってきた。私たちの統計の結果では、日本の農地1ヘクタールで飼育される動物の数が1970年から2005年の間に牛で3倍、豚ではほとんど10倍となった。

東京が位置する関東地方においては、この飼育密度の上昇がますます顕著である。2005年には関東地方で1ヘクタールに飼育されている牛の数が20頭(1970年には2.5頭)、豚は538匹(1970年には30匹)にもなっていた。この数字からも、関東地方が国内でも有数の飼育密度の高い畜産業を行っていることがわかる。

しかし、もしこの数字に飼料を育てるのに利用される土地を含めるとなると、東京で消費される食肉をすべて賄うためには、さらに広い土地が必要となり、言うまでもないことだが、これを日本国内の土地だけでカバーすることはできないということを忘れてはならない。2007年にバージニア大学のジェイムズ・ギャロウェイ氏が率いる学際的なグループがInternational Trade in Meat — the Tip of the Pork Chop(食肉の国家間貿易―ポークチョップのヒント)と題した研究論文の中で見積もった数字によると、日本が豚肉と鶏肉の生産のために利用している外国の土地の面積は、日本国内でこれらの生産に利用している土地の約10倍にもなるということだ。

ここで一番大切なことは、こういった外国産の食肉の輸入に関与している人々や、これを食している日本人は、自分たちの食糧の選択が環境コストに影響を及ぼしていることにまったく気づいていないという点である。

それゆえに、日本人の食習慣の変化やそれに伴った食糧自給率への挑戦が重要な意味を持ってくるのは、日本国内だけにとどまらない。これは肉へと傾く日本人の嗜好の変化を、直接あるいは間接的に支えることで環境負荷を負っているオーストラリアやブラジルやアメリカのような国々にとっても、大きく関係してくる問題なのだ。

翻訳:伊従優子

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魚より肉を好む 日本人 by アレクサンドロス・ ガスパラトス and タティアナ・ ガッダ is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

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著者

スウェーデン王立工科大学のSpatial Planning(空間利用計画)で理学修士を取得し、ブラジルのPontifícia Universidade Católica do Paraná(パラナの教皇カトリック大学)で建築と都市計画の学位を取得。その後日本の千葉大学で地球環境科学の博士号を取得。また千葉大学在学中、東京大学の国際開発と地域計画グループの研究開発員としても活動。2006年に日本学術振興会の国連大学博士修了研究員として国連大学高等研究所(UNU-IAS)に加わる。現在はブラジルのUniversidade Tecnológica Federal do Paraná(パラナの連邦技術大学)の非常勤講師を務める。最近では所得水準格差が目立つ都市における消費傾向についての調査に力を入れている。

日本学術振興会の国連大学高等研究所(UNU-IAS)博士修了研究員。国連大学高等研究所に入る前、スコットランドのダンディー大学の研究員時代に博士号を取得している。専攻は、化学、環境科学、エコロジー経済学。エネルギー安全保障、食糧安全保障、エコロジカル・サービス、環境維持といった分野がお互いに関わりを持っている点に興味を持ち研究している。

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