地球の生命維持能力に値段をつける銀行

森林やきれいな川や汚染されていない大気の価値を決めることは簡単ではない。しかし世界最大の金融機関のグループが、それを行おうとしている。

グループに参加した金融機関は、代価を支払わずに環境を利用し、しばしば環境を破壊するという現行の経済システムのあり方は持続可能ではないという点で合意した。

また、一部の企業が自らの未来や、ましてや地球の未来を考慮せずに自然資源を使い尽くしつつあり、いずれ崩壊するだろうと、金融機関は懸念している。さらにそのような企業に警告し、企業が行動を改めない場合には最終的に貸付金を回収する方法を求めている。

2012年に開催された国連持続可能な開発会議の成果として、世界銀行を含む43金融機関が作業部会を発足させている。リオ+20として知られるこの会議では、主要な39の大手金融機関が自然資本宣言に署名した。

自然資本宣言は自然資本を「地球の自然財産(土壌、大気、水、植物相、動物相)から成り、それらに起因する生態系サービスによって人間の生活は成り立っている」と定義している。

宣言はさらに、自然資本によって提供される食物、繊維、水、健康、エネルギー、気候保全、その他あらゆる不可欠なサービスは年間何兆ドルもの価値を生み出しているが、それらは適切に価値評価されていないとしている。

アメとムチ

「我々の健康に必要不可欠であるにもかかわらず、その日常使用は今日の経済システムの中でも、ほとんど見過ごされたままである。このような自然資本の使用は持続可能ではない」と宣言文に記されている。

金融機関グループは、こうした状況の責任の一端は金融機関にあることを認めている。なぜなら金融機関は自然資本の価値評価の方法を持たず、さらに、自然資本の破壊によって一部企業の安定性に危険が及ぶことをこれまで認識していなかったからだ。

金融機関グループは各国政府に、企業の自然資本への依存性と企業が自然資本に与える負荷に関する情報を、年次会計報告書で開示させることを求めている。また、情報開示を行わない企業への罰則と共に、事業の一環として自然資本の保護を行う企業への税制上の優遇措置を求めている。

価値の評価

しかし、自然資本の価値評価を行うためには、自然資本の金銭的な価値を誰かが算出しなければならないことを金融機関は知っている。きれいな空気を供給し、雨水を吸収し、炭素を隔離し、食料を提供する1ヘクタールの森に、どんな価値をつけられるだろうか? それと同じくらい重要なのは、その森が破壊された場合、経済的損失はどの程度なのかという疑問だ。

採掘やフラッキング(水圧破砕法)を行う産業は、その前線にある。なぜなら、それらの操業はすでに、きれいな水資源を汚し、使い尽くし、汚染の原因となると認識されているからだ。金融機関はこうした活動に金銭的価格をつけて、資源の過剰使用が事業に与える金融リスクは金融機関にとって不利な投資となるのかどうか問いたいと考えている。

しかし投資を管理する金融機関も含め、あらゆる事業は自然環境に影響を与えている。ところが一般的に事業はその代価を支払わず、代価は会計上にも表れない。そこで、1年前の性急な宣言をより具体的なものにするため、金融機関は自然界に値段をつけるために強力な作業部会を発足させた。

幻想は抱かず

自然資本宣言のプロジェクト・マネージャーのリーゼル・ヴァン・アスト氏は、イギリスのオックスフォードのGlobal Canopy Programme(グローバル・キャノピー・プログラム)を拠点に活動している。彼女はジュネーブの国連環境計画・金融イニシアティブと協力し、宣言の実施に向けて金融機関が一連の委員会を発足する支援をしている。

彼女は次のように語った。「金融機関は、自然資本に関してどのように責任を取っていくつもりなのかについて言及し、なぜそうしなければならないのかを全ての人に説明し、さらに、それをどのようにやるのかを表明しなければなりません」

「現在、自然資本の過剰使用は事業リスクとして見られていません。なぜなら資源が底をつき崩壊が生じる前に抜け出せると誰もが信じているからです。私たちはこうした姿勢を変え、企業に自然資本の過剰使用に対する代価を支払わせたいと考えています」

自然資本をバランスシート上で説明し、それを株価やローンの利息や保険費用に反映させようとする金融機関の取り組みがすぐに実現するという幻想は、誰も抱いていない。

宣言の署名機関はこの夏、財務会計や情報開示や報告に、自然資本に関する考慮を取り入れ始めた。4大陸の金融機関が主導する4つの作業部会が、金融業界に自然資本に関する考慮を取り入れるための重要課題に取り組む予定だ。これらの作業部会を率いるのは、ラボバンク、バノルテ、ナショナルオーストラリア銀行、ネッドバンクである。

このイニシアティブは2020年を目標に、国際的システムの設立と運営、および国連気候変動枠組条約の署名国全てによる承認を目指している。時間の掛かる難しい作業かもしれないが、現行の経済システムが地球を破壊するのを防ぐ上で不可欠であると参加金融機関は考えている。

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本稿は Climate News Network のご厚意により、Our World 2.0 チームによる小規模な加筆をした上で掲載されました。

翻訳:髙﨑文子

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地球の生命維持能力に値段をつける銀行 by ポール・ブラウン is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.
Based on a work at http://www.climatenewsnetwork.net/2013/08/banks-put-a-price-on-earths-life-support/.

著者

ポール・ブラウン氏は Climate News Network の共同編集者である。イギリスの地方紙および全国紙で新聞記者やニュース編集者として働いた40年の経験を持つ。『ガーディアン』紙で24年間働いた後、2005年8月に退職した。同紙を離れるまでの16年間は環境担当記者として、特に気候変動に重点を置き、幅広い問題を取り上げた。環境問題に関する8冊の著作がある。現在は『ガーディアン』紙でウィークリーコラムを執筆しているほか、フリーランスで執筆活動をしている。テレビのドキュメンタリー番組の脚本を書いた経験があり、ラジオ番組への出演も数多い。彼はケンブリッジ大学ウルフソン・カレッジのフェローであり、Guardian Foundation(ガーディアン財団)の活動の一環で東欧およびアジアでジャーナリズムを教えている。