エープリル・ダヴィラ氏は、ロサンジェルス在住のフリーのライター。彼女の活動については、http://www.AprilDavila.comで詳しく知ることができる。
毎日1分ごとに、私たちの地球は255人の赤ん坊を世に迎え入れている。これは、新たに養わねばならない口が毎年1億3,400万人分増えるということだ。今後30年の間に、世界の人口は合計で22億人増加することになる。
遺伝子工学を用いて、植物に除草剤や殺虫剤への耐性を持たせたり、収穫量の増加を理論的に可能にするような特性を与えたりすることを、世界中の人々が受け入れなければならない主な理由として、アグリビジネス企業大手、モンサント社の最高経営責任者であるヒュー・グラント氏は、世界の人口が急激に増加していることをしばしば引き合いに出す。グラント氏を始め多くの人々が、遺伝子組み換えを行わなければ、世界の人々は餓死する運命にあるということを確信しているようだ。
しかし、もっとよく調べてみると、このような「参加するか死か」という立場は、見かけほど絶対的なものではない。The Union of Concerned Scientists(憂慮する科学者連合)が私たちに気付かせてくれるのは、作物の収穫量を増やす伝統的な方法がいくつか存在すること、そしてさらに、世界の食糧難を解決するにあたって、生産量の多い作物というのは数ある対策のうちのほんの一策に過ぎないということだ。より大きな鍵となるのは、食料を買うための収入が不足していること、開発地域の農民たちの不利益となるような貿易政策、そして、肥料や水などの投入量が足りないことなのである。
実際に現場では、モンサント社の遺伝子組み換え(GM)作物が救済手段となる保証はないということが証明されている。モンサント社の広告で約束されただけの収穫をあげることができず、特許を理由に農民たちが種を取っておくことを認められない場合、インドのような場所では、コミュニティ全体が飢餓に追い込まれてしまう可能性がある。
遺伝子組み換えを行わなければ、世界の人々は餓死する運命にあるということを確信しているようだ。
世界の飢える人々を養うという問題を除いても、遺伝子組み換え作物には、様々な懸念が寄せられてきた。世界保健機関(WHO)は、生物多様性に関して次のようにまとめている。
「現在行われている調査では、以下のことに焦点を当てている。益虫に対して有害な影響が及ぼされる可能性、または耐性を持つ昆虫の急速な誘発を招くこと。新しい植物病原菌が生じる可能性。植物の多様性および野生動物に有害な影響が及ぼされる可能性。ならびに特定の地域的状況において、重要な輪作の実施が減少すること。除草剤に耐性を持つ遺伝子が他の植物に転移すること」
[最後の点に関しては、雑草や害虫を制圧しようとするモンサント社のたゆまぬ努力に対して、耐性を持つようになった雑草や害虫がいるということが、最近明らかになった。]
人間の健康に関する問題もいまだに残っている。実験用マウスが腎臓、肝臓、生殖組織にダメージを受けたのは、モンサント社の遺伝子組み換え(GM)トウモロコシを含む餌を食べていたせいだとする研究がいくつかある。活動家たちは、これらのような理由を掲げ、「悪辣」とか「欺瞞」などといった言葉を用いて、しばしばモンサント社の不正に抗議の声を上げている。これに対して、モンサント社を擁護する人々は、モンサント社も、他の企業と同じように、株主のためにお金を稼ぐ存在なのだと反論する。
しかし、どちらの立場も、言を弄しているだけのように思われる。最終的には個人の判断にかかっているのだ。とはいえ、普通の買い手に、十分な情報を手に入れることができるのだろうか? それどころか、モンサント社の製品を避けることすら可能なのだろうか? モンサント社の製品はアメリカ中どこにでもあるので、普通のアメリカ人は、自分たちが消費する食べ物を一口食べるごとに、自分ではそれと気づきすらしないまま、モンサント社を支えてしまっているのだ。
これは、ブランド名は表示されていないが、加工食品のなかに、原料としてモンサント社の遺伝子組み換え作物が入っているためだ(2つだけ例をあげると、遺伝子組み換えトウモロコシから作られた異性化糖、遺伝子組み換え大豆から作られた大豆レシチンなど)。ゼネラル・ミルズ社からネスレ社に至るまで、食品メーカーはモンサント社の製品を使っている。しかし、ラベルを見ても、そのことは決して分からないのだ。
今年の春、私は、自分が食べるもののうちどれくらいがモンサント社の製品を使ったものなのかを正確に知りたいと心に決めた。モンサント社がどこまで私の生活の中に入り込んでいるのかを知るために、私は、1カ月間、モンサント社の製品を1つも口にしないということを試みた。
モンサント社は、アメリカの大豆の90%、トウモロコシの85%、サトウダイコンの95%を抑えている。そのすべてが、遺伝子組み換えされたものだ。これらの生産物から作られた加工食品の成分を口にしないということは、即座に、スーパーマーケットの棚に並ぶ品々の大部分が私の「NO」リストに入るということを意味した。さらに、牛からサケまですべてがモンサント社のトウモロコシを餌として与えられているので、肉や乳製品にはほとんど手を出すことができなかった。
モンサント社の種子バンクが市場の大部分を支配しているため、アメリカの農場経営者は、有機農法を行っている者でさえも、モンサント社から種を買う以外にほとんど選択肢がない。
さらに分かったことは、モンサント社がここ10年の間に種苗会社を買い占め、独占といえるような立場を市場で固めてきたことだ(それゆえに、独占禁止法に関する調査が現在米司法省によって行われている)。今や数ある子会社の種苗会社の1つとなったセミニス社を買収したとき、モンサント社は、トウガラシからサヤエンドウ、レタスからライマメに至るアメリカの野菜種子市場のうち、推定40%の支配権を1度に手中に収めた。
モンサント社の種子バンクが市場の大部分を支配しているため、アメリカの農場経営者は、有機農法を行っている者でさえも、モンサント社から種を買う以外にほとんど選択肢がない。モンサント社の製品を避けるという私の試みにおいて、何を食べるべきかということを知る唯一の方法は、どの食品についても、その元となった種が誰のものだったのかを知ることだった。
好奇心からちょっと覗き見をと始めたことが、全精力を傾けて何か食べるものを探そうと努力する羽目になってしまった。いつもの食べ物を、その原料の種の出所まで辿るために、私は精力的に何日も費やし、さらには数週間を費やした。モンサント社の製品を使わないことを誇りにしているコメ農家のグレッグ・マッサと連絡を取った。また、アニーズ社の最高経営責任者は、有機農法による自社のマカロニとチーズもまた、材料にモンサント社の製品を使っていないことをはっきり述べた。
私は、地元の農産物直売市へ行き、有機農業を営む農場経営者たちに種をどこで買ったのかを尋ね、そしてモンサント社由来ではない農産物を買い込んだ。また、牧草で家畜を育てている農家から、肉や乳製品を購入した。少しずつ、私が食べることのできるものは増えていった。充分にたくさんあるというわけにはいかなかったが、その月の終わりには、私の食事は、主に米、肉、野菜から成る、バランスのとれた健康的なものになっていた。
モンサント社の製品を避けるのがとても難しいことを考えると、私たちは遺伝子組み換え食品を世界的な解決策として受け入れ、飢えた人々を何とか養い続けるべきなのだろうか? いまだに様々な事実が集められ、議論され、検討されている(今週の最高裁判所の決定でも証明された)。
ジョン・ジェヴァンズ氏は、著書『How to Grow More Vegetables : Than You Ever Thought Possible on Less Land Than You Can Imagine(より多くの野菜を育てる方法:考えられないほど小さな土地で、考えられないほど多くの野菜を育てる)』のなかで、自らが「小型農法」と呼ぶ農法を説明する。標準的なアメリカの農業で生産することのできる量の平均2~6倍もの量を産出する有機農法だ。ジェヴァンズ氏によると、地球上のすべての人は、よく管理された土地がそれぞれたった9.3㎡あれば自分を養っていくことができるという。
地球上のすべての人は、よく管理された土地がそれぞれたった9.3㎡あれば自分を養っていくことができるという。
あまり知られていないが、植物学者のスー・エドワーズ氏の研究によると、エチオピアにある有機園芸の実験場では、試験的に栽培されたすべての作物の収穫量がきわめて高かったという。2008年、国連貿易開発会議(UNCTAD)は、「アフリカにおいて、有機農法は、従来の生産システムのほぼどれよりも食料確保に貢献することができ……おそらく長期的には、持続可能なシステムとなる可能性がより高いだろう」と述べ、有機農法を支持した。
遺伝子組み換え食品を奉ずるモンサント社の一作物栽培ではなく、有機農法を支持する方向を指し示すデータがますます多くなっていると同時に、アメリカ式の農法にとって不利となるデータも増え続けている。
2007年、アメリカでは、1960年の5倍以上の肥料が使われたが、作物の収穫高の増加量は、推定50%とはるかに遅れていた。汚染の原因となる殺虫剤の使用量はこれまでになく高いが、その一方で、今や60年前よりも多くの作物が害虫の被害にあっている。産業的な農業は明らかに持続不可能なのだという主張を支持する科学者の数は、ますます増している。
世界の飢える人々をどのように養うのかという問題がいまだ立ちはだかる一方で、その答えが言を弄する類のものではないのは明らかだ――それは、科学的なものなのだ。世界的なコミュニティとして、私たちの食料がどのように作られているのかについて、事実を正直に見つめるときがきたのだ。
そして個人としては、もし巨大企業のやり方がよいと思えない場合には、私たちは自分たちの食べるものによって変化を作りだす力を持っている。私たちには、それを行うための1億3,400万もの新たな理由が、毎年与えられるのだ。
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翻訳:山根麻子
モンサント社なしで世界を養う方法は? by エープリル・ダヴィラ is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.