ルールを守ってごはんを食べよう!

アメリカ人のフードライター、マイケル・ポーラン氏の新刊、『Food Rules: An Eater’s Manual』(食べ物を選ぶルール:食べる人のためのマニュアル)に収められているルールは、そのほとんどが分かりきった内容だ。それなのになぜ彼はわざわざこのような本を制作したのだろう。

ルール1「食べ物を食べよう」、ルール63「調理しよう」は誰もが守っているルールと考えていいだろうか?
その考えは間違いだ。2006年の統計(近年みられる増加傾向が考慮されてはいないが)がそれを証明している。

・アメリカ人の4人に1人は毎日ファストフードを食べている
・67%のアメリカ人成人は太り過ぎもしくは肥満と見なされている
・18%のアメリカの若者は肥満であると見なされている

皆さんもポーラン氏同様、ファストフードは食べ物ではなく、「食べ物もどきの食用物質」(または、KFCが実際はチキンではない)と判断するのであれば、多くの人は調理するどころか、食べ物さえ食べていないと考えるのが正しいだろう。

ルールの意味を飲み込む

ポーラン氏は産業食品システムがもたらす影響を詳細に取り上げ、その認識を世に広めた人物としてよく知られている。その決め手となった著書が『雑食動物のジレンマ――ある4つの食事の自然史』(2006年出版)である。

幅広い(横幅のことではない)アメリカ人読者層に食べ物について学んでもらうことの重要性が反映され、この書籍は手に取りやすい文庫本サイズで出版された。食の教育をするにあたり、ポーラン氏はアメリカ国民に協力を求め、それぞれが持っている食べ物のルールを紹介してもらった。何千件にものぼる反響が寄せられ、その中から選ばれた64の優れたルールをポーラン氏が3部構成の一冊の本にまとめた。1部)何を食べたらよいのか?(解答:食べ物)、2部)どのような種類の食べ物を食べたらよいのか?(解答:主に植物)、3部)どれくらい食べたらよいのか?(解答:ほどほどに)。

本物の食べ物と、口には入れたくない食べ物もどきの食用物質。「Food Rules」を通して人々がこれらを見分けることができるようにするのが彼の目標だ。ポーラン氏は複雑な栄養学には頼らず、そういった専門用語も極力使わずにアドバイスすることを心がけている。

「食べ物」と「食べ物もどき」を区別する上で鍵となるのが、ルール15「スーパーマーケットは出来るだけ避けよう」だ。このルールに従うことで、固定化された産業食品連鎖や欧米型の食習慣から抜け出すことを余儀なくされる。この「システム」や、食品安全を保障する政府の能力を信頼する人々にとってはポーラン氏が提唱するルールの多くが過激に聞こえることだろう。ルール8「保健機能食品は避けよう」及びルール11「テレビで宣伝している食品は避けよう」は、政府や食品会社そしてメディアが信用ならないことを物語っているが、ポーラン氏は正しいのだろうか?安価で便利、いつでも手に入る食べ物を疑う理由がどこにあるのだろうか?

ポーラン氏は理想主義者に見られるかもしれないが、実際は現実主義である。極端な考えを持たず、バランスを重視する。メッセージはシンプル。励ましの言葉で気持ちを伝える。ルール22「主に葉物の植物を食べよう」など単純明快。よく聞かれる「何を食べたらよいのか?」といった基本的な質問に対するポーラン氏の解答の本質が表されている。

相当のひねくれ者でもありがたいと思うルールがある。ルール43「夕食のおともに一杯のワインを」

ポーラン氏はあえて「オーガニック」という都合のいい言葉は使わず、「健全な土壌で丁寧に育てられたものを食べよう(ルール30)」と促す。まるで曾おばあちゃんが言いそうなセリフだ。もっとも、ルール2では「曾おばあちゃんが食べ物と認めないようなものは口にしないこと」と説いている。つまり、10,000年間に渡る農耕の歴史から学べることが数多くある、とポーラン氏は著書の中で示唆しているのだ。

健康食よりご馳走を愛する人にとっても、全部が全部悪い話ではない。相当のひねくれ者でもありがたいと思うルールがある。ルール43「夕食のおともに一杯のワインを」。もちろん、他のルールを守れば守るほどよいに越したことはないのだが。

食糧安全保障との関係は?

健康的な食事をすることは私たち個人の健康問題だけにかかわることではない。ポーラン氏の本はアメリカ人読者を対象に、食生活の本質を重んじて書かれており、杓子定規な政治的発言などをすることはない。それでいて、欧米の食文化がグローバルサウスの生態系にもたらす破壊的な影響をも踏まえている点は評価に値する。

しかし、ポーラン氏はこの問題について押しの強い言葉で攻撃することも露骨な態度をとることもない。むしろ、人々に健康を促すことが結果として地球を守ることにもつながる、というアプローチが彼のやり方のようだ。結局のところ、人の心をつかむには胃袋に訴えるのが一番手っ取り早いということだ。

ルール23「肉は風味を味わう程度もしくは特別な日の食事として食べよう」。このルールを受け入れてくれる人はあまり多くはいないだろう。しかし、このルールのポイントは牛の飼育が間接的に関わっている森林破壊に対し後ろめたさを味わわせようというものではない。ポーラン氏は、肉の過剰摂取(抗生物質が注入されていることが多い)が健康に与える影響について人々の関心を集め、人々の自己利益にアピールしようと試みているのだ。

ルール32についても同様のことが言える。「脂肪分の多い小魚を見逃さないように」と説き、魚に蓄積された高レベルの水銀について言及しつつ、数が減ってしまった大型の魚(クロマグロやメカジキなど)には手を出さないよう警告している。

ポーラン氏は私たちが食べ物(または食べ物もどき)を選択する行為が環境に与えている影響を道徳的に説こうとはしない。人々が聞きたがるようなことを言って人気を集めようとしている訳ではないのだ。それが出来ないことを少し残念に思っているかもしれないが。

ポーラン氏自身も認めているが、中には喜ばしくないルールもある。例えば、ルール44「支払いは多く、食べる量は少なく」やルール45「食べる量を減らそう」。地球、社会、そして体にも良い食生活は、人類が1,000年もの間続けてきた行いにもかかわらず、そのような食生活はお金のかかる特権的なものと受け止められる場合がほとんどだ。

それでもポーラン氏は、安く手に入る食べ物には高い代償が伴うと固く信じている。

「味、または栄養価(大体の場合質の善し悪しと比例する)から判断して良いとされる食べ物は確かに高価ですが、それは時間と手間をかけて育てられているからです」とポーラン氏は言う。

「質の高い食べ物の方が美味しければ、量は少なくても満足するでしょう。量より質を、カロリーより食べ物から得られる感覚を重視してください」

ただ、ポーラン氏の言葉だけを鵜呑みにしないこと。「甘い精白パンを栄養価が高く食べ応えのある全粒パンに置き換えてみよう(ルール37)」。その後、「自分の直感に耳を傾けてみよう(ルール48)」。それからポーラン氏の言うことが正しいかどうか考えてみるのだ。

脂肪が溜まった世界

「Food Rules」は食生活を変える必要がある何百万ものアメリカ人にとって健康回復の手助けとなる。それだけではない。ぜい肉競争のトップ集団にはまだ程遠い途上国を中心とした地域に住む読者にとっても、予習のためのガイド本として役立つことだろう。アンバランスな食生活が問題になっているのはアメリカ、イギリス、オーストラリアといった国々だけの話、と考えるのは甘い。

肥満は世界的な現象だ。誤った食べ物の選択が深く関わっている。世界保健機関(WHO)によると、2015年までに世界の成人23億人が太り過ぎもしくは肥満になると予測され、その一方で10億人が栄養不足に陥るとされる。

ポーラン氏の述べるルールはもっともなものが多いが、ルール41「フランス人、日本人、イタリア人、もしくはギリシャ人のように食べよう」、は少々ロマンチックすぎる。フランスのような素晴らしい食文化のある国の人々、特に若者の嗜好が本物の食べ物よりファストフードに向いている傾向は気がかりだ。もしかするとルールもこう書き換えた方がいいのかもしれない、「かつてのフランス人のように食べよう・・・」と。

ポーラン氏やその他大勢のフードライターは「Food Rules」のような本を書かざるを得なかった。悲しいことだがこれは私たちが食や環境、そして突き詰めるところ私たち自身の体に対して感謝の気持ちが欠けていたということだ。

食の哲学

最後のルールに辿りつくまではポーラン氏の食に対する哲学とルール作りの意図に心から感謝する気にはならないだろう。

ポーラン氏はこう勧める、ルール64「たまにはルールを破ろう」。

ルールを説きながら、それを破ることを勧めるなんて矛盾していると思われるかもしれない。しかし、ポーラン氏が言いたいのは、食事という行為が科学のように複雑な手順を踏むものになるべきではない、ということ。

「過去数十年の私の経験から言えるのは、ダイエットして十分過ぎるほど栄養に気配りしたからといって、スリムでより健康的になるとは限らないということ。大切なのは、食べ物に対し気持ちを楽にして向き合うこと。」ポーラン氏は言う。彼が提唱するルールはどれも広く信じられている考え方だ。それほど難しいことではない、できるだけ自然のものを、地元産のものを、旬のものを、偏りなく、なるべく多く食べよう。ポーラン氏やその他大勢のフードライターは「Food Rules」のような本を書かざるを得なかった。悲しいことだがこれは私たちが食や環境、そして突き詰めるところ私たち自身の体に対して感謝の気持ちが欠けていたということだ。

すでにポーラン氏の他の著書を読んだ人にとって「Food Rules」の内容は目新しものではない。しかし、安く手に入る食べ物には高い代償が伴うことを知らない人たちに広めたい知識が盛りだくさんだ。この本は良質な食べ物に似て、投資する価値のある一冊だ。

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マイケル・ポーラン著「Food Rules: An Eater’s Manual」(食べ物を選ぶルール:食べる人のためのマニュアル、ペンギン・ブックス、2009年)は現在書店にてお求めいただけます。

翻訳:浜井華子

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著者

マーク・ノタラスは2009年~2012年まで国連大学メディアセンターのOur World 2.0 のライター兼編集者であり、また国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)の研究員であった。オーストラリア国立大学とオスロのPeace Research Institute (PRIO) にて国際関係学(平和紛争分野を専攻)の修士号を取得し、2013年にはバンコクのChulalpngkorn 大学にてロータリーの平和フェローシップを修了している。現在彼は東ティモールのNGOでコミュニティーで行う農業や紛争解決のプロジェクトのアドバイザーとして活躍している。