2009年度にドイツで消費された電力のうち、16.1%は風力をはじめ太陽光発電やバイオマスなど再生可能資源を利用したものであった。8,000万人以上の国民がいるこの国で起きている変化は、実際のパーセンテージが示すよりも、そのスピードが明確に物語っている。消費電力に占める再生可能資源の割合は2000年度にはわずか4.7%でしかなかったが、2020年までには30%に届くであろうと予測されている。
この変化が実現した背景にあるのが、ドイツのRenewable Energy Sources Act (再生エネルギー資源法)である。この法律によって固定価格買い取り制度が導入され、送電網運用者には電力供給に投入された再生可能エネルギーへの支払いが義務付けられた。
固定価格買い取り制度は再生可能エネルギー産業への投資を効果的に促進させる一方、アメリカやオーストラリアなど市場重視型経済(かつ、化石燃料依存型経済)の国々からは反対されている。
雇用、雇用、雇用
より環境に優しい経済への大転換を図ることに対し起きる最大の議論は、主に石炭など従来のエネルギー関連産業における雇用が失われる点である。政府は大切な有権者である市民の怒りを買うようなリスクに対して臆病なため、持続不可能な現状維持の経済モデルを選ぶのである。
しかし、ドイツ環境省が報告した2008年のレポートによると、およそ278,000人が再生可能エネルギー部門で雇用されており、2020年までには400,000人に達すると見込まれている。また、環境に優しい技術革新により、ドイツの伝統産業として名高い自動車業界などでも雇用の活性化を図ることができる。
気候を犠牲にしてまで安い化石燃料を供給する「市場」システムをこれまで通り受け入れることに意味があるのだろうか?
これまで順調に進展してきたものの、純粋な懸念もある。原子力への関心が再燃したこと、そして電力の過剰供給につながる再生可能エネルギーへの過度な助成。これらは産業に対し、また最終的には気候問題にも逆効果をもたらす恐れがある。
市場重視志向で良く知られるドイツの経済シンクタンク、Rheinisch-Westfälisches Institut für Wirtschaft sforschungはさらに批判的な立場をとっており、2009年10月には再生可能エネルギー産業に対する手厳しい報告書を発表した。これによると、労働者一人あたりの補助金は24万ドルにも及ぶと算出されている。にもかかわらず、この巨額の助成は「実行可能性と費用効率を確保しつつ、再生可能エネルギーを国のエネルギー・ポートフォリオに加えるために必要とされた市場の活性化に失敗した」。報告書ではこのように主張されている。
例えこの報告が正しかったとしても、気候を犠牲にしてまで安い化石燃料を供給する「市場」システムをこれまで通り受け入れることに意味があるのだろうか?
環境への配慮が込められた全体像
再生可能エネルギー支持の価値に対してどのような見解を持とうが、ドイツの環境政策における幅広い活動が環境保護への大転換と言えるものなのか、もしくは「グリーン・ニューディール」と類似するものなのかを判断することが重要である。
グリーン・ニューディールは気候変動、経済破綻、石油枯渇の「3大危機」を対処することを目的としている。
この概念の主要な提案者である国連環境計画は、グリーン・エコノミー・イニシアチブ(政府が環境を配慮した金融システムへ転換を図れるようの支援するため定められた)として下記の6つの重点分野を明示した。
• リサイクルを含むクリーン・エネルギーやクリーン・テクノロジー
• 再生可能エネルギーや持続可能バイオマスを含む農村エネルギー
• 有機農業を含む持続的農業
• 生態系基盤(例えば、貯水量の補充)
• 森林減少・劣化からの温室効果ガス排出削減(REDD)
• 設計、交通、環境保護建築を含む持続可能都市
上記のいくつかの項目を見れば分かる通り、ドイツは環境政策上、相互に関連性のある分野をまたいだ取り組みを進めている。例えば、「有機農業を含む持続的農業」に関して言えば、ドイツの自給率は93%にのぼる(2007年以降)。同じく先進工業国である日本の自給率わずか40%をはるかに上回る。
Our World 2.0では以前、ドイツがどのようにしてオーガニック食品主義を発展させたのかを紹介した。2007年度時点でドイツには71億ドル相当のオーガニック市場が存在し、現在も急成長している。
「設計、交通、環境保護建築を含む持続可能都市」に関しては、ドイツの主要都市(ベルリンやミュンヘンなど)の多くが先進的取り組みを行っているため、国内で最も環境に優しい都市になることは簡単ではない。町の規模は下回るがエコ・シティのモデルとしてよく名前が挙げられるのがフライバーグだ。世界的にみられる傾向とは逆に、この町ではエネルギー利用と輸送活動から排出される二酸化炭素量が減少した。鉄道、路面電車、自転車の交通基盤に対し大規模な投資が行われ、車を所有する魅力が薄れたからだ。
ドイツは環境政党が政権の座に就き、持続可能計画を推進する いまだ唯一の経済大国なのである。
ここで重要なことが2つある。1つは、より持続可能な未来を築こうというフライバーグの取り組みは1970年代から続いているということ。つまり、たとえ小さな都市でも環境保護へ転換するには何十年という時間がかかるのだ(政府であれば尚のこと、今後のポスト化石燃料経済プランについて今すぐに検討しなければならない)。もう1つは、政治的性格。フライバーグでは環境政党の勢力が非常に強く、ディーター・ザロモン市長は90年同盟/緑の党メンバーなのである。
連邦政府もある程度この動きにならったため、ドイツは環境政党が政権の座に就き(1998年-2005年の間は中道左派との連立)、持続可能計画を推進するいまだ唯一の経済大国なのである。現在、90年同盟/緑の党は野党ではあるものの、ドイツ連邦下院に68名の党員が所属する最大の緑の党である。
この環境志向の広まりは、その他連邦政府政策の多くに反映されている。例えば、新しい家を建てる際は再生可能エネルギーを使った暖房システムの設置が義務付けられている。そして、 この有名な古い建物もより環境にやさしく生まれ変わった。
環境保護のメッセージを伝えあう
The Great Transformation — Greening the Economy (大転換-環境保護経済へ)が5月28-29日にベルリンで開催される。フライバーグなどのサクセスストーリーは、グリーン・ニューディールについて話し合うこの重要な国際会議の場で、産業界、政府、市民社会のリーダーたちと共有されることだろう。
この会議は、ドイツの環境保護運動に影響力を持つシンクタンクであるハインリヒ・ベル財団、そしてメルカトル財団、センター・フォー・アメリカン・プログレスによる連携のもと開催される。
気候変動の緩和と適応するための技術開発は重要だが、本当の課題は環境活動の恩恵を公に、特にインターネットを活用して伝えることだ。
Our World 2.0はこの会議のオフィシャルブログサイトとして選ばれた。私たちが特に関心を寄せるのは、ソーシャル・メディアと気候変動に関するパネルセッションであり、気候変動問題に取り組む活動団体、AvaazやGerman Greensの代表者も参加する予定だ。
気候変動の緩和と適応するための技術開発は重要だが、本当の課題は環境活動の恩恵を公に、特にインターネットを活用して伝えることだ。
ドイツから学ぶ
グリーン・ニューディールを進めているのはもちろんドイツだけではない。より規模の小さいスウェーデンやデンマークといった国々はむしろドイツを上回るほど進歩していると考えられている。一方、中国もこれに並ぶ勢いを見せる。国の大きさゆえ、急速なスピードで環境に優しいエネルギー技術の導入を進めている。
しかし、他の主要な先進経済圏に対し手本としてよりふさわしいのはドイツである。経済規模が大きい(世界第4位)だけでなく高度に発達している。また、サービス産業や自動車などの製造業に依存している。
特にアメリカにとってはドイツの経験がよい参考になるのかもしれない。アメリカは緑の革命によってもたらされる投資機会と雇用のチャンスを見逃しているのではないか、という懸念が大西洋を隔て各地で高まっている。環境保護運動だけでなく、オバマ米大統領や投資家もこのような意識を持っている。
ドイツ社会、そして同国における技術への投資から学ぶことができるのは何も先進国に限ったことではない。急成長しているが、現状では技術を発展、展開させる力が不足している途上国にノウハウと資本を移転させることは、今後数十年の間に増加が予想される温室効果ガスの排出に世界が取り組む上で非常に重要となる。インドは2012年までに電力の10%を再生可能エネルギーでまかなうことを目指しており、ドイツの専門知識を活用することに熱心な国のひとつだ。
ドイツは環境に配慮した考えと調和する政治風土を定着させただけでなく、全国レベル、地方レベルでそれらの考えを行動に移した。ドイツでは間違いなく大転換が始まっていると言えるだろう。
翻訳:浜井華子