エコカーは水素にシフトチェンジ

東京ビッグサイトで開催されている第43回東京モーターショーに、大勢の人々が未来の姿をひと目見ようと詰めかけた。自動車産業の最先端技術を通して現代がどれほど魅惑的になるのかを見ることを期待している。

東京モーターショー2013は、世界屈指の自動車展示会として、その伝統を継承している。今年のテーマ「世界にまだない未来を競え。」が表現しているように、このイベントは日本の自動車市場の土俵でもある。

フォルクスワーゲンの超低燃費ハイブリッドカーXL1から、日産のおしゃれな電気自動車ブレードグライダー、そしてヤマハの最新型電気自動二輪車まで、今年のショーには高性能で華やかなエコカーが数多く展示されている(フォトギャラリーをご覧ください)。

Our Worldが2009年の東京モーターショーを初めて訪れて以来、このイベントは一貫して、グリーンな移動性、すなわち低排出エンジンあるいはゼロエミッション・エンジンを搭載したハイブリッドカーやバッテリー電気自動車への注目を高めてきた。しかし今年、日本の自動車メーカーは、どのテクノロジーが未来の消費者エコ市場を率いるのかという点で、リスクを抑えるために両賭けしている。VHS対ベータマックス 、あるいはブルーレイ・ディスク対HD DVDのフォーマット戦争に似た状況が再び形成されつつあり、その新たな競争はバッテリー電気自動車と水素燃料電池自動車の間での闘いであるらしい。

化学の力で局面を逆転させる

バッテリー電気自動車(EV)は主に、充電可能な リチウムイオン電池を使用している。この電池はノートパソコンやスマートフォンに使われている電池に似ている。リチウムイオン電池の長所は、メンテナンスが簡単で、利用していなければ長期間、充電状態を保持できるという点だが、時間と共に性能が劣化し、充電に時間が掛かり、航続距離が短いという短所がある。東京モーターショーで発表された最新のバッテリー電気乗用車の中で、満充電状態での航続距離が200キロメートルを超えるものは皆無で、ほとんどは150キロメートル前後だ。しかし技術躍進(例えばスタンフォード大学での新しい研究)によって、リチウムイオン電池の展望は劇的に開ける可能性がある。

Charging your car

Photo: Sean Wood.

水素燃料電池はバッテリーのようにエネルギーを貯蔵しない。簡単に言えば、水素燃料と酸素を水に変換し、その過程から生じるエネルギーが自動車を動かす電力を生む。水素燃料電池自動車(FCV)の量販は、多くの理由から長い間、実現が先送りになってきた。特に、燃料電池の大きさや重さ、安全性への懸念、水素ステーションや燃料電池の費用が非常に高額であること(cells were 電池の価格はほんの5年前には100万USドルだった)が先送りの理由であった。しかし現在、こうした障壁は取り除かれつつある。

今週、日本は世界に先駆けて水素燃料電池自動車を売り込み始めた。トヨタとホンダがそれぞれ、2015年に販売開始予定の新たなコンセプトカーを発表したのだ。ホンダは今週、東京モーターショーの競争相手とも言えるロサンゼルス・オートショーをお披露目の場に選び、アップグレードした燃料電池を搭載したFCXクラリティを発表した。イギリスの自動車情報番組「Top Gear」は、FCXクラリティの初代先行モデルであるFCXを未来の最も重要な自動車とランク付けしており、同様の称賛が新しいFCXクラリティにも集まることが期待されている。

トヨタは東京で自社のFCVコンセプトを発表し、会場を沸かせた。航続距離ほぼ500キロメートルを誇るこのFCVは、日本の一部の主要都市(東京、大阪、福岡を含む)で先行販売された後、アメリカとヨーロッパでも販売される予定だ。トヨタの内山田竹志会長は最近、同社はバッテリー電気自動車市場には関心がないことをかなりはっきりと示している(とはいえトヨタは、電気自動車のみを開発するテスラモーターズの株式を2.5%所有している)。しかし、ホンダもトヨタも、利益の多いハイブリッド電気自動車を諦めたとはとても言い難い。トヨタは2012年、120万台ものハイブリッドカーを売り上げている。

EVとFCVはどちらも、ゼロエミッションという長所を持つ。しかし、この2つのテクノロジーは同じような課題も抱えている。いずれのフォーマットも、根本的には化石燃料に大きく依存しているのだ。よりクリーンな方法について重点的な研究が行われており、さほど遠くない未来に大きな進歩が見られるかもしれないが、クリーンな電解方法では今のところ、水素は5%未満しか生産できない。同様に、EVを充電するための電力生産は、世界各地の従来型の発電所に今でも大きく依存している。

第二の欠点は、鶏が先か、卵が先かという昔ながらの状況だ。つまり、充電インフラストラクチャーが限られており、その状況が消費者とメーカーの関心を低くしているのだ。

充電インフラストラクチャーの問題

今年の東京モーターショーには、さまざまなハイブリッド電気自動車とプラグイン・ハイブリッド電気自動車が展示されている。プラグイン・ハイブリッド電気自動車は、充電ステーションにつなげられるだけではなく、充電時間はより長くなるものの家庭用の電気コンセントにもつなげることが可能だ。完全電気モードでの走行は快適だが、次の充電まで長い距離を走る際に頼りになるガソリンエンジンも搭載している。
日産のリーフからテスラの高性能なモデルSまで、バッテリー電気自動車に対する消費者の信頼感は過去数年の間に著しく高まった。今年の東京では、12台ほどの完全な電気自動車がスポットライトを浴びる中、日産とフォルクスワーゲンが闘いのリングを制している。しかし現時点までに大きな売り上げを誇る唯一のメーカーは日産であり、充電インフラストラクチャーの不備を起因とする「航続距離への不安」というマイナスの影響を最初に認めたのも日産である。
日産は群を抜く売り上げを誇るが、目標達成に至らないことが予測されている。最高経営責任者のカルロス・ゴーン氏は先日、充電インフラストラクチャーの拡張が予想よりも遅れている状況を大いに非難し、率直に次のように語った。「ガソリンスタンドがなければ、私はガソリン車を買いません」

しかし東京モーターショーでゴーン氏は、日産が引き続きバッテリー電気自動車に精力的に取り組むと発言し、同社は電気自動車への投資を全く後悔していないと語った。実際、日産はダイムラーとフォードとの提携を通して2017年のFCV市場に試験的に参入する計画がある。しかし彼は、2015年市場におけるFCVの方向性には疑問を投げかけた。なぜならFCVはEVよりも、さらに重大な充電インフラストラクチャーの問題に直面する可能性があるからだ。

Carlos Ghosn

Photo: Sean Wood

確かにゴーン氏の言うとおりだ。カリフォルニア州には、アメリカに10カ所ある水素供給ステーションのうち、1カ所を除くすべてが存在する。同州は最近、2024年までに充電ステーションを現在の9カ所から100カ所に増やす法案を可決した。しかし当初提案されていたように石油会社が増設費用を負担するのではなく、運転者の負担だ。

日本では、水素高速道路の開発が遅れており、今年初めて公共の水素燃料ステーションが開所されたばかりだ。しかし、日本の公益事業と石油供給企業と自動車メーカーは新たに連携し、ホンダとトヨタが新しい燃料電池自動車を市場で販売し始める2015年までに、100カ所の水素ステーションの設置を目指している。とはいえ、この計画が目標を達成するのは難しいかもしれず、FCV市場への参入を2017年まで差し控えるという日産の選択は賢明なのかもしれない。

対照的に、現在日本には約4700カ所のEV充電ステーションが存在する。また、10億USドル相当の政府助成金を伴う新しい産業パートナーシップが、さらに1万2000カ所のステーションを増設する計画だ。地理的規模を考えれば、アメリカの約6800カ所のEV充電ステーションは、日本のインフラストラクチャーにはとても及ばない。そして水素ステーションと同様に、アメリカ国内にあるEVステーションのうち約1500カ所はカリフォルニア州に集中している。

夢は「小さく」

ゼロエミッションの乗用車技術をめぐる闘いの行方はどうであれ、都市の移動性は引き続き、小型の電気自動車という新しい波とは相性抜群のようである。今年の東京モーターショーには、1人乗りあるいは2人乗りの小型EVコンセプトカーや、TOYOTA i-ROADのような最新の未来的な超小型エコカー、ゴルフカートのようなトヨタ車体のT・COMまで、バランスよく展示されている。

会場の上層階ではSmart Mobility City(スマートモビリティシティ2013)が開催されており、数台の小型EVを試乗することができる。このフロアには企業ブースやコンセプトの展示があり、よりグリーンな移動手段と、利用者の関心や状況に合った自動車を通して住宅とライフスタイルと都市交通をつなげる可能性を実例で示している。効率性や利便性、安全性を高めると共に、通勤にもっと人とのつながりを取り入れることを究極的な目標に掲げている。

今週の自動車の発表は、敵対する技術に対するメーカーのバイアスを白日の下にさらしている。しかしその一方で、エコカー市場が研究の進展やインフラストラクチャーの発展や消費者の好みに呼応して発展していく間は、メーカーが選択の余地を残しておくことは明らかである。グリーンな移動手段が近々に一般市場の軌道に乗るとは考えにくい状況だ。

翻訳:髙﨑文子

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著者

ダニエル・パウエルは国連大学メディアセンターのエディター兼ライターであり、Our World 2.0担当エディターに名を連ねている。東京の国連大学に加わる前は8年間、東南アジアを拠点に過ごし、農業、生物多様性、水、市民社会、移住など、幅広いトピックを網羅する開発・研究プロジェクトに携わっていた。最近では、USAID(米国国際開発庁)がカンボジア、ラオス、ベトナムの田園地帯で行った水と衛生に関するプログラムにおいて、コミュニケーション・マネジャーを務めた。アジアで活動する前は、米国林野局に生物学者として勤務、森林の菌類学および地衣学の研究を行っていた。