気候変動による影響が様々な形で現れ、生物多様性が失われつつある中、自然に関する朗報はめったに聞かれなくなった。そんな中だけに国連教育科学文化機関(ユネスコ)が8月初旬に新たに6件を世界の自然遺産として登録したことは喜ばしい知らせだ。
34回世界遺産委員会では、世界遺産条約の186加盟国の代表者により21件が新規に登録された。内訳は文化遺産15件、自然遺産5件、複合遺産(文化遺産かつ自然遺産)5件である。
ユネスコ自然遺産に関する諮問機関である国際自然保護連合(IUCN)によると、世界の保護区域(国立公園、自然保護区など)の8%が世界遺産となっている。これらには、スリランカの超生物多様性ホットスポット、キリバスにある世界最大の海洋サンゴ列島生態系、シベリアのトナカイの大移動で知られる地域なども含まれる。
「こういった場所を登録することは、すなわち保全活動の必要性を警告することでもあります。気候変動のような脅威はほとんどの世界遺産にとって今後の大きな課題となるでしょう」IUCNの世界遺産プログラムを率いるティム・バットマン氏は会議をこのように締めくくった。
以下は今回新たに登録された素晴らしい自然遺産の概要である。
丹霞(中国)
丹霞は中国の南西の亜熱帯地方にある。真紅の崖や、侵食によってできた柱や塔状の岩、渓谷、滝などがある6つの区域から成り立っている。「(このような)景観は亜熱帯の常緑広葉樹林を保存し多くの動植物を育てている。そのうちの約400種は希少種、絶滅危惧種である」と登録には記されている。
フェニックス諸島保護地域 (キリバス)
南太平洋の海と陸の生物が生息する408,250平方キロにおよぶこの地域は、登録された中で世界最大の海洋保護区域である。ここにはキリバスの3大諸島であるフェニックス諸島が含まれ「世界最大の海洋サンゴ列島生態系、知られているだけで14の海山(死火山と考えられる)その他深海生物を保全している」それだけで登録の価値があるのかと思われるかもしれないが、ここには200種類のサンゴ、500種類の魚、18種の海洋哺乳類、44種の鳥を含む約800の動物相が見られる。
プトラナ高原(ロシア連邦)
この国立自然保護区は北極圏に入って100キロの中央シベリア北部にあるプトラナ高原中央に位置する。世界遺産に登録されたこの高原の一部には「隔絶された山脈に原生のタイガ、森林ツンドラ、ツンドラと北極圏砂漠などを含む北極や亜北極の見事な生態系を見せており、また手つかずの冷水湖と河川も残されている」この地域にはトナカイが大移動するルートがあり、それは「壮大なスケールの稀有な自然現象である」
レユニオン島の尖鋒、圏谷と外縁部(フランス)
2つの火山の尖峰と、巨大な壁、断崖絶壁に囲まれた3つの圏谷(山の斜面にある、半面を壁で囲まれた円形の谷。氷河の侵食によるもの)、この地域はまさに「見る者を圧倒する景観」と呼ぶにふさわしい。しかもその生物多様性も非常に重要だ。 生態系は亜熱帯雨林、雲霧林や荒野など多彩で、多様な植物にとっての理想的環境となっている。
スリランカ中央高原地帯
スリランカの中央高原地帯は島の中央南部に位置する。構成資産として、ピーク自然保護区域、ホートン・プレインズ国立公園、ナックルズ森林保護区域の3つがある。これら山地型の森林は絶滅危惧種であるカオムラサキラングール(the western-purple-faced langur)、ホートンプレインズホソロリス(the Horton Plains slender loris)、スリランカヒョウなどを含む、極めて多くの種類の動植物の生息地になっている。この地域は超生物多様性ホットスポットと考えられている。
パパハナウモクアケア(アメリカ合衆国)
最後に紹介するのは今年唯一の自然遺産かつ文化遺産である複合資産として登録されたパパハナウモクアケアである。ここは「海抜の低い小さな島々と環礁が線状に並んだ、広大で独立した群島とその周辺の海域」でハワイの主要な群島から北西約250キロに位置する。「周辺の海域も含め、長さは1931km以上もあり、世界最大の海洋保護区のひとつである。遠洋・深海の動植物生息地であり、海山や広大なサンゴ礁やラグーンが見られる。
この地域はハワイの原住民の文化にとって宇宙論的にも、歴史的にも重要な場所である。代々受け継がれた土地であり、人々と自然のつながりに関するハワイ原住民の概念を具体化しているだけでなく、生命が生まれるところであり、そして死後魂が帰っていく場所でもあるからだ。
委員会は世界遺産として登録済みの地域の状態を調べ、世界危機遺産リストも更新した。マダガスカルの雨林、アメリカのエバーグレーズ国立公園は危機に直面しているとして登録された。
またガラパゴス諸島の危機遺産登録は解除されたが、IUCNはそのことを危惧している。2007年に「危機的状況にある」とされて以来(世界遺産登録は1978年)状況は改善されつつあるが、今もなお外来種の繁殖など保全に関する深刻な問題にさらされているからだ。
「マダガスカルの雨林やエバーグレーズのように深刻な脅威がある地域にとっては危機遺産登録は強力な保全の手段となり得ます。世界の注目を集め保全のための協力体制ができるからです」とIUCNの世界保護地域委員会の副会長Allen Putney氏 は言う。「ただしその注目や協力体制には具体的かつ実用的な行動が伴わなければなりません」
地球の貴重な生態系の多くが驚異にさらされている。これらが危機リストに加わってしまう前に、国際生物多様年にあたる今、驚きに満ちたあらゆる場所の生態系を見直すことができたならどんなに素晴らしいだろう。
翻訳:石原明子
新登録の 世界自然遺産 by キャロル・スミス is licensed under a Creative Commons Attribution-NoDerivs 3.0 Unported License.