国連大学世界開発経済研究所(UNU-WIDER)のコーディネートによるプログラム、Research and Communication on Foreign Aid(ReCom、対外援助に関する研究とコミュニケーション)の研究は、REDDプラスの可能性に関する主要な疑問に注目しました。その目的は、地域の資源利用者や国際的な資金供与者を含む、複雑で多種多様なステークホルダーの利害と交渉が絡む状況での持続可能な森林管理を支援することです。今回は、その要旨をお届けします。
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森林は生態系の中で幅広く重要な機能を果たす。気候変動、生物多様性の保全、水資源の供給、土壌の保護に関連する機能も多く含まれる。さらに、さまざまな推計によれば、生計を直接的に森林に頼る人々の数は5億人から16億人の間だ。
しかし、森林部門は引き続き厳しい状況に置かれている。2000年から2010年の間に、およそ1300万ヘクタールの森林が毎年、別の用途に転換されたり、自然の原因で消失したりした。さらに、現存する多くの森林は比較的緩いガバナンスと誤った管理の下に置かれている。
熱帯地域の資源管理の改善が世界的に進んでいない全般的状況は、広い範囲で見られる農業の拡大、熱帯の堅材への世界的需要、モニタリングと法施行の全般的欠如、自然災害を増幅する環境負荷と関連している。
森林保護と管理には、長期的で安定した資金が必要である。近年、森林を対象とした対外援助の規模は劇的に拡大したが、持続可能な森林管理や森林保護の取り組みへのこれまでの資金調達は不十分だった。
森林部門では、双方両得の解決法が一般的に提案される。例えば、森林保護に対応しながら、同時に資源の採取も可能にする解決法だ。しかし、双方両得の解決法は多くの場合、非現実的である。森林管理において、一方で炭素隔離が行われ、もう一方では生物多様性の保護や気候変動の緩和および適応に関する目標、さらにその他の保護や開発目標があるため、それらの間で相殺効果が生じてしまうのだ。
また、ある特定の場所での介入は有益な結果を生む可能性がある一方で、保護活動を最大限に活用し多様な生態系の機能を維持するためには、より大規模な管理も必要であるという認識が高まりつつある。気候変動の緩和という特定の分野で言えば、例えば大規模な管理は「炭素リーケージ」を低減する可能性がある。炭素リーケージとは、ある場所での森林破壊を低減するための介入が、単に別の場所に負荷を移動させて温室効果ガス排出を高めてしまう状況のことだ。
過去の経験は、定期的なモニタリングと規則の実施の重要性も強調している。特に、自然資源の管理は汚職に影響を受けやすいという事実があるからだ。
持続可能な森林管理(SFM)は、1992年のリオデジャネイロでの国連環境開発会議(UNCED)の会期中に確立され、2008年、国連によってさらに詳細に定義付けされた最も期待される枠組みの1つである。この枠組みを通じて、森林部門内でしばしば対立する目的の調整が図られる。SFMは、他の生態系機能も維持する形での、ある程度の持続可能な資源抽出を含意する。その特徴は、生物多様性、森林の健康と生命力、森林資源の生産的および保護的機能、強固な法的枠組みといった要素だ。SFMのイニシアティブから生じる成果は、強いガバナンス体制に大きく左右される。
今日、森林減少・劣化からの温室効果ガス排出削減(REDDプラス)は、気候変動の緩和政策の急先鋒である。REDDプラスの目的は、森林部門における炭素排出を削減し、炭素貯蔵を強化すること(例えば森林再生を通じて)である。全般的に、REDDプラスの政策(SFMの政策との相乗効果が高い)は、森林保護の介入を支援するために工業諸国からの資金を熱帯諸国の開発に流入させることを提案している。そうすることによって、REDDプラスの資金は、土地所有者が森林の保護ではなく、利益の多いその他の活動を選んだ結果生じる損失を相殺する。
REDDプラスの政策は、条件付きの資金供与を通じてインセンティブを強化し、自発的な保護を促進する。このようなスキームには、保護地区の制定などといった保護政策が持つ限界を克服できる可能性がある。なぜなら、こうしたスキームは地域社会に別の生計手段を供給し、融通性が高く、より価値の高い分野にターゲットを絞りやすいからだ。
REDDプラスを運用可能にするためには公的資金が必要だとする合意が広まりつつある。しかし、資金供与者の協定は相当な数であるにもかかわらず、長期的で大規模かつ自発的な公的資金は、まだ確定的ではない。そのため、REDDプラスの資金の現在の構造は、REDDプラスの財政的な持続可能性を危うくしている。
熱帯地域の多くの開発途上国では、持続可能な森林管理を改善し、対外援助を最大限に活用するために、法施行、土地保有権の明確化、利益共有のメカニズムあるいは森林監視システムの透明性と説明責任に関連した森林ガバナンスの改革が必要である。資金供与者は、国、地方、地域組織を通じて、森林部門と連携すべきである。また資金供与者は、土地所有者、市民社会、地域サービス利用者を含む、森林部門で利害を有する多様なステークホルダーらの協力関係を促進できるかもしれない。
もう1つの課題は、REDDプラスの介入が地域社会の管理する権利を犠牲にして、森林資源の中央集権的な管理を増強するかもしれないという点だ。この課題は、先住民族の伝統的な土地や資源への権利に深刻な影響を及ぼす可能性がある。そのため、REDDプラスの改革では、地域の土地所有権、資源へのアクセス、自治や参加、利益配分といった問題に対処することが不可欠である。
炭素隔離、生物多様性の保護、経済および人間開発、気候変動の適応策の間で生じる相殺効果は、REDDプラスの実施条件として率直に言及されなくてはならない。そうすることで、望ましくない結果を回避し、資金供与者からの資金を最大限に生かし、保護活動の永続性を確実にすることができる。
最後に、森林部門への資金供与と支援を行う際には、経済的利益の配分について言及しなければならない。REDDプラスの資金が援助受け入れ諸国の中でどのように配分されるのか、今のところ明確ではないからだ。
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この研究要旨は、ウナイ・パスカル氏、エネコ・ガルメンディア氏、ジェイコブ・フェルプス氏、エレナ・オヘア氏によるUNU-WIDERの研究成果報告書(2013/054)『Leveraging global climate finance for sustainable forests: Opportunities and conditions for successful foreign aid to the forestry sector(持続可能な森林のためのグローバルな気候資金への外部資金の利用:森林部門への対外援助の成功のための機会と条件)』に基づいています。
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