ビクトリア・フット氏は非営利の環境保全団体、オンタリオネイチャーの広報担当ディレクターで、受賞歴のあるONネイチャー誌の編集長を務めている。オンタリオネイチャーは、保全、教育、広報活動を通じてオンタリオ州の野生種や野生的空間を保護することを使命としている。
昨年の10月、世界各国から代表団が集まり、2週間かけて、今後10年間の環境保全に関する議題を設定した。しかしその生物多様性条約締約国会議(COP10)も、もはや終わってしまった。
2010年(国際生物多様性年)が終わり、生物多様性という昨年のテーマへの注目と勢いはあっという間に薄れ、生物多様性の重要性がふたたび影に隠れてしまうのではという懸念が頭をもたげてきている。
しかし、世界全体の生物種の減少は今日、そして将来、私たちが直面する最も重大な課題のひとつであり、この問題を忘れてはならない。植物、動物、そして自然のシステムは、私たちに清浄な水や空気、食糧、薬、住処を与え、自然災害から守ってくれている。
全国レベルでも、州あるいは地方でも、地球のあちこちで生物多様性が失われていくのが感じられる。カナダのオンタリオ州は、次のような多様な生物の宝庫だが、こことて例外ではない。
4つのユネスコ生物圏保護区があり、いずれも世界的に重要な生態系である。
「世界の生物多様性の保全において、またその生態系の構成要素、プロセス、恩恵やサービスの維持を通じて人間の生活を維持するために重要」な8つの世界的に重要な湿地がある。
「世界の鳥類の長期的保全に不可欠」で、世界的にも大きな意義のある46か所の重要な野鳥生息地がある。
さらに、世界中の種やシステムは相互につながり影響し合っているため、オンタリオ州の生物多様性を保護することは、カナダの生態系、ひいては北米の生態系を強化することになり、それらすべてが現在および将来における地球全体の健全性にきわめて重要な役割を果たすことになる。
オンタリオ州の生物多様性には、他には見られない植物や動物が含まれているだけでなく、その北方林は気候変動の制御にきわめて重要な役割を果たしている。北方林の保全によって、大気中から大量の炭素が取り除かれているのだ。
カナダの北方林は世界でも最大級、かつ最も手つかずの生態系のひとつである。International Boreal Forest Conservation Campaign (国際北方林保護運動)の推計によると、この北方林は約1,860トンの炭素を蓄積し、その中には泥炭地の生態系がいくつもあるという。オンタリオ州政府によると、同州だけで、北方林地域が年間に大気から吸収する二酸化炭素は約1,250万トンにのぼる。さらに、つい先日発表された報告書は、カナダの森林を世界最大の水源であるとして、その価値を強調している。
これまでに、州南部だけで湿地生息地の70%以上、草原の98%、森林の80%が失われてしまった。
オンタリオ州(カナダ第2の州で面積は107万6,395平方キロ)が、野生生物や生態系、重要な生息地を守る上でこれほど大きな役割を果たしている一方で、種や野生的空間はあまりにも速いペースで失われ続けている。これまでに、州南部だけで湿地生息地の70%以上、草原の98%、森林の80%が失われてしまった。現在同州では、200種以上の植物や動物が絶滅危惧種に分類されている。
オンタリオ州の在来種のカメ類は一つを残してすべて絶滅危惧種に指定されており、草原の鳥類は、北米大陸のあらゆる場所で減少(1968年以降、37~78%減少)したのと同様に、同州内でも激減してしまった。州内の一部地域では、ウッドランドカリブーも年間約11%の割合で減少している。
1995年、連邦政府・州政府・準州政府の協力によって、カナダ生物多様性戦略が策定された。この戦略は、重要な森林生態系の保全を確立し、今後も森林管理の改善をはかり、それを実施していくことなどを主な目的としている。
またカナダ天然資源省は、以下を含めて複数の森林関係の法律を連邦政府の管轄下にすると発表した。
希少種や絶滅危惧種の商取引を禁止し、カナダの生態系への望ましくない種の侵入を防ぐ、国際および州間取引における野生動植物保護規制法
渡り鳥、その卵、および巣を乱獲から守る渡り鳥条約(MBCA)
連邦政府の重要な義務として、野生生物種を絶滅から守るため、その発見に必要な行動を取り、野生生物の法的保護と生物多様性の保全を定めた絶滅危惧種法
このような万全の対策を整えているにもかかわらず、残念ながら全国的に見るとやはり生物多様性の減少は続いており、激減しているものもある。たとえば、1980年から絶滅の恐れのある、あるいは絶滅寸前の魚種の数は増加の一途をたどり、今日では淡水回遊魚の18%がそれらに該当する。北方に生息するカリブーの群れも減少しており、一部は急速に姿を消している。
皆様の支援があれば、未来の人間の生活や野生生物を守るために、大胆な政策を取るよう、強力なメッセージをオンタリオ州政府に送ることができます。
オンタリオ州では、住民の天然資源に対する需要が大きいために州内の生物多様性が失われているが、これは特に南部で顕著である。2010年オンタリオ州生物多様性報告書は、生物多様性が脅かされている多くの地域に焦点を合わせ、2036年までに同州人口が約500万人増加するという予測を出している。
オンタリオ州の住民にできること
絶滅危惧種の数が増加していることをふまえ、非営利環境保全団体のオンタリオネイチャーは、誰でも署名できるオンタリオ州生物多様性憲章を作成した。この憲章には、2020年までに生物多様性の喪失を遅らせるために、カナダの連邦政府、州政府、地方自治体政府が取らねばならない10の重要な行動が列挙されている。
1. オンタリオ州の陸水生態系の生物多様性を十分網羅した保護地域システムを作る。
2. 重要な野生生物の生息地を保全し回復するため、農家や地主に対する奨励措置を設け、オンタリオ州南部および東部の公・私有地における自然地域ネットワークの構築を支援する。
3. 絶滅危惧種や生態系を回復させるため、効果の高い、科学に基づく計画を立て、完全に実施する。また普通種を普通種として保つため、減りつつある動植物に積極的な保護対策を取る。
4. 船のバラスト水や植物の苗など、危険性の高い侵入ポイントを管理し、外来種の侵入と蔓延を防ぐ。
5.有害物質低減法や有害物質低減戦略を有意義な形で実施し、生物多様性に有害な汚染物質の放出を大幅に減らす。
6. 賢明な都市開発法の原則を実施し、公共交通機関に投資することによって、道路や高速道路による生息地の崩壊やその他の景観への悪影響に取り組む。
7. オンタリオ州の生物多様性の状態の研究、監視、報告のために十分な資金を継続的に配分する。
8. 政策、融資、その他の奨励措置を通じて持続可能な産業開発を支援し、政府が持続可能で独自の認定を受けた生産者から物品やサービスを購入するようにはからう。
9. 生物多様性の保全政策を、オンタリオ州政府の土地と水の使用および環境保護に関わるすべての省庁の付託事項に盛り込む。
10. オンタリオ州のために先取り的な計画を策定し、気候変動の影響に対する景観の回復力を高める。
この憲章は2011年5月22日の国際生物多様性の日に、オンタリオ州首相ならびに天然資源相、環境相、北方開発・鉱山担当相に提出される予定である。
オンタリオ州でも皆様の地域でも、生物多様性を守るためには数が大きな力となります。皆様の支援があれば、未来の人間の生活や野生生物を守るために、大胆な政策を取るよう、強力なメッセージをオンタリオ州政府に送ることができます。現在そして将来のために、オンタリオ州の、ひいては世界の生物多様性を守るために、皆様のご協力をよろしくお願いいたします。
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オンタリオネイチャーは、保全、教育、広報を通じて野生種や野性的空間を保護することを使命としています。オンタリオネイチャーの生物多様性憲章に署名し、家族、友人、同僚にもそのことを伝えて下さい。憲章はこちらからご覧いただけます。
翻訳:ユニカルインターナショナル
世界的に重要なオンタリオの生物多様性 by ビクトリア・フット and イアン・チャルマーズ is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.