農業の新たな方向性を求めて

あなたがIPCCという頭字語を報道でしか聞いたことがなく、その言葉とあなたの生活の関連性は(ラッキーなことに)まだ曖昧である場合、ご存じないかもしれないが、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)はこの世界的問題に関する新しい情報を追跡するために、およそ7年ごとに膨大な量の報告書を発表している。その最新版である第5次評価報告書を作成するために、IPCCは3つの作業部会が分担する3つの副論題領域に関する科学的合意をまとめた。第1作業部会の報告書は気候変動の最新科学を詳細に示したもので、昨年9月に発表された。第2作業部会の報告書は気候変動の影響と、それに対する人間と自然システムの脆弱(ぜいじゃく)性と適応力の評価に主眼を置き、2014年3月末に発表された。この報告は、増え続ける炭素排出量によって紛争、飢餓、洪水、移住といったリスクが高まるだろうと警告している(緩和策に関する第3作業部会の報告書は今年4月に発表された)。

国連大学環境・人間安全保障研究所のココ・ワーナー氏は、第2作業部会報告書の中でも傑出した第20章の主執筆者である。「私たちの務めは、気候に対して柔軟な強さを持つ開発にとって、気候がどのような影響を与えるのかを理解することです。気候変動は私たちが最も大切にしているものにどんな影響を及ぼすでしょうか?」

世界各地の地域社会における気候変動の影響を専門とするワーナー氏は、誰が最も大きな被害に遭うのか、研究で明らかになっていると説明する。

「よりよい教育、よりよい社会的ネットワーク、公式および非公式な機関とのよりよいつながりを持つ世帯の方が通常、経済的に暮らし向きがよいことが分かっています。最も脆弱な人々の場合、教育レベルは低いのです。例えば食料不足のように、何か悪いことが起こった場合、(成長した)子どもが隣町や他の国に移住してお金を稼いで送金するのではなく、家長が出稼ぎに行きます。その飢餓の季節は、家族が営む農園で家長が最も必要とされる季節なのです」と彼女は説明した

「こうした非常に弱い世帯に何が起こるのかと言うと、彼らは何とか生活していきますが、発展のための基盤が次第に損なわれていきます。つまり、適応できる人々とできない人々の間の格差が広がっていくのです。何とか生活できる人々とできない人々の間の格差をなくすための投資方法を見いだす必要があります。それは大きな課題になるでしょう」

こうした脆弱性は今日、極めて重要である。なぜなら、食料生産に関して言うならば、「幾つかの基礎報告(IPCCの報告書に情報を提供した報告)は、世界人口の過半数は今後数十年間に食料生産量の不足の影響を受けることを示唆しています。生産不足は食料価格、食料の入手可能性、食料の配分に大きな影響を及ぼします」

そしてその影響は、近年の食料価格危機で目撃されたように、連鎖反応を引き起こしかねない。

「世界食糧計画の私の同僚によると、エチオピアは20万トンほどの穀物を備蓄しているそうです。(つまり)エチオピアが大規模な食料不足に直面した場合、国民は4日間、食料を手に入れられます。そして人々が空腹になると、状況はあっという間に不安定になるのです」

「過去において、伝えるべきメッセージは次のようなものでした。『私たちは気候変動に直面していて、それは現実であり、科学的証拠が証明しています』。ですから今、社会は適応しなくてはなりません。現在、明らかになってきたメッセージは『もちろん、私たちは適応します』というものです」とワーナー氏は語った。

「しかし、それには結果と妥協が伴います。私たちの決断、あるいは決断の欠如が社会の向かう方向性を決定します。意志決定者が決断を下さなければ、社会の中で対処できないかもしれないある種の気候変動の影響へ向かう方向に私たちは進み続けるでしょう」とワーナー氏は語った。

農業を吟味する

気候や生態系への影響の緩和について言うならば、世界で優勢な農業の方向性は、ぜひとも再調整されるべきである。同じことが人権と公平性の問題についても言える。この問題領域に関する研究は最近、数々の重要な報告書を生み出しており、Our Worldでは今後数週間にわたって、この題材をさまざまな角度から探究していく予定だ。

翻訳:髙﨑文子

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農業の新たな方向性を求めて by キャロル・スミス is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 4.0 International License.

著者

キャロル・スミスは環境保護に強い関心を寄せるジャーナリスト。グローバル規模の問題に公平かつ持続可能なソリューションを探るうえでより多くの人たちに参加してもらうには、入手しやすい方法で前向きに情報を示すことがカギになると考えている。カナダ、モントリオール出身のキャロルは東京在住中の2008年に国連大学メディアセンターの一員となり、現在はカナダのバンクーバーから引き続き同センターの業務に協力している。