風船効果: グローバルコモンズの管理で予想外を予想する

空気で膨らんだゴム風船を想像してほしい。指で押したりつまんだりすると、その部分にあった空気が別の場所に移動する。指を離せば空気はまた元の場所に戻ってくる。これが「風船効果」の単純なイメージだ。 政策と市場動向がばらつきのある統治の枠組みと組み合わさった場合に圧力が変化し、さまざまな範囲の予期しない、多くは不安定な結果を生むことのたとえだ。

風船効果の顕著な証拠は環境政策と法執行における数多くの領域で見られ、たとえば野生生物や麻薬取引に関する不法行為などをあげることができる。

1990年代にコロンビアで実施された大規模なコカ根絶キャンペーンは、コカイン生産量の全体的減少にはつながらず、 不法なコカイン栽培がアンデス山系の隣国であるボリビアとペルーに移動しただけに終わった。同様に、ボゴタと欧州の首都とのあいだの航空便監視強化は、コカイン取引量の全体的減少にはつながらず、西アフリカ諸国がラテンアメリカと欧州との間のいわゆる「通過国」として出現しただけに終わった。

どちらの場合も、規制や監視の強化によって「風船を圧迫」したことで、栽培活動や輸送経路が移動した。さらに重要な点は、問題が解消しなかったばかりか、以前は影響を受けなかった国と地域が、突然の予期しない犯罪行為の出現によって政情不安に陥ったことだ。2008年にはガーディアン紙が、ギニアビサウ(「刑務所がなく警官もほとんどない」西アフリカの小国)が「世界初の麻薬国家」になったことを報じている。

象牙の不法取引も、十分に立証された風船効果のもう1つの例だ。1989年、国際社会はCITES(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)にもとづいて象牙の国際取引禁止に合意した。ところが、この禁止は意図せぬ結果(風船の表面の弱点)をもたらした。政府の責任を国境での規制活動に限るという抜け穴があったのだ。その結果、アフリカの一部地域では象牙の国内市場が正式に規制されない状態になったり、対応する規制が整っていない国々では単に闇市場になったりした。また、執行能力が弱いために事実上野放しになった国もある。

さらに、ゾウは本来移住性の動物で、食べ物や水を求めて頻繁に国境を越える。多くの場合、密猟者も同じようにほぼ自由に国境を超えることができる。脆弱な国境警備と脆弱な国家に助けられ、一部の密猟者は国内象牙取引に規制がほとんど、または全くない国々へと引き寄せられた。その結果、おもに(生息地の喪失や人とゾウの衝突などの他の要因ではなく)象牙の密猟によってゾウの生息数が大幅に減少している国は、政治的腐敗と武力闘争から抜け出せない、ほとんど統治されていない地域とぴったり重なる。

破綻国家、構造汚職、または長くて抜け道だらけの国境は、いずれも不法行為の移動に格好の条件をもたらし、その結果として情勢不安をさらに増大させることがある。

理論上、風船効果は外圧に対する抵抗力が最も弱い所で起きる。そのため、国と国とがつながり合い、国際的な需要が存在する状況のもとでは、監視、統制、禁止の取り組みを強化すれば、不法行為は単純に統治の脆弱な地域に移ることになる。破綻国家、構造汚職、または長くて抜け道だらけの国境は、いずれも不法行為の移動に格好の条件をもたらし、その結果として情勢不安をさらに増大させることがある。

だが、合法的な生産活動の場合はどうだろうか? Marine Policy(海洋政策)誌の2015年7月号に発表された「Balloon effects reshaping global fisheries(グローバル漁業の形を変えつつある風船効果)」 という新しい研究論文は、国際漁業がどれだけ不安定な風船効果に陥りやすいかを説明しており、とくに国境を超えた広範囲にわたる漁業資源に重点を置いている。

一見して、海洋捕獲漁業は麻薬取引や野生生物取引と同じ問題をいくつか抱えているようだ。国連海洋法会議は1982年に排他的経済水域(EEZ)を設定し、各国家にそれぞれの海岸線から200海里までの範囲(商業的漁業活動の大半が行われている場所)の資源利用に関して、排他的な権利を与えた。

Yellowfin Tuna

Photo: bgv23. Creative Commons CC BY-NC 2.0 (cropped).

だが、法的枠組みはこの範囲を越えると急速に緩む。国連食糧農業機関(FAO)は、EEZを越えて広がる魚類資源を「跨界性魚類資源(ストラドリング・ストック)」または「高度回遊性魚類資源」と呼んでいるが、これは場合によってEEZおよび国家管轄外海域(ABNJ)を数千キロメートルも越えて広がる。たとえば、太平洋クロマグロは2年以上をかけて太平洋全域を縦横に(20,000キロメートル以上)移動することが、魚類標識によりわかっている。

もちろん、どれだけの地理的移動が可能かには、なんらかの生態学的限界がある(風船をどれだけ押しつぶしても、オーストラリアの奥地に広大なコカイン農園はできない)。しかし、移動性の高いマグロ資源の行動範囲は広大であり、世界的な需要も高いため、マグロはとくに風船効果を生みやすい。

2012年には、103の国々がキハダマグロとカツオの漁獲を報告したが、その合計は400万トンを超えた。資源利用に加わっている国はフランスからパキスタンまでと幅広く、監視の範囲および使用されている漁具や漁獲割り当てなどの統制が、多種多様に異なっていることは明らかだ。

新しい研究は、風船効果によってキハダマグロとカツオの漁獲が、公海および国家管轄の脆弱なEEZへと押しやられていることを示している。

だが論文は次のように述べる。「違法、無報告、無規制(IUU)漁業の推定潜在性を無視したとしても、風船効果によってキハダマグロとカツオの漁獲が、公海および国家管轄の脆弱なEEZへと押しやられている。そのため、1992年から2012年までの20年間に最大の増加を示したのはインドネシア、パプアニューギニア、フィリピンであり、この期間にマグロ漁獲量の完全な純削減を果たしたのは、実質的に日本とフランスの2カ国のみとなっている」

移動性の高い漁業の場合、風船効果は資源の不適切な管理と乱獲の可能性を高めるのみならず、そのような漁業に携わる国々の脆弱性も増すように思える。世界銀行のガバナンス指標によれば、広大な領海を有する小島嶼国では、いずれの場合も過去10年間に規制の質が低下し続けてきた(たとえばツバルの場合、陸地面積26 km2 に対して領海は約750,000 km2にのぼる)。

このような規制の質の低下は、高い利益をもたらすマグロ漁業への注目の高まりと同時に起きてきた(ツバルの報告済み漁獲量は、2009年から2012年までで3倍に増加した)。論文が指摘している通り、「1992年には漁業生産の大部分をキハダマグロとカツオに依存している国は4カ国のみだったが、2012年までに、その数は新規参入国を除いて3倍に増えた。」小島嶼国が移動性の高いマグロ資源への依存を高めれば、概して個々には制御できないさまざまな要素(資源崩壊、気候関連の分布変化、CITES掲載など)に対する脆弱性が高まることになる。

「風船効果」という用語は、ある特定の意図的ではない結果を可視化するのに役立つ一方、さまざまな類似した関連効果を区別することも可能だ。そうしたさまざま効果は多くの場合互いにつながり合っている。最近発表された論文は、これらの効果を移動、拡散、または増大 (DDI)とさらに細かく分類してこれを調査している。DDIとは領域境界での圧力がその領域内での活動を増大させる場合だ。これらの効果を監視する取り組みは、データ収集とその分析の不足によって妨げられている。 漁業の場合これは、政策措置によって漁業活動がどのように変わるかを明確化できる、漁業船団の空間的明示追跡の発展とともに変わるだろう。それはまた小国に、広大な海域を管轄する初期の管理機構も提供するだろう。

DDI効果を調査することで得られる1つの教訓は、段階的な解決策は問題を解決するのではなく、移動するだけに終わる傾向があるということだ。政府レベルでの協調が非常に重要であるとともに、国家グループ間および世界的な努力が必要となる。たとえば、 データ収集および野生生物法執行データを共有するための協調努力は、管理能力のレベルを高めて統一するのに役立ち、DDI効果が発生する余地をなくす。同様に、2015年初頭の国連での正式合意(各国政府は(国家の管轄権外と指定された)公海における海洋生物多様性を保護するために法的拘束力のあるグローバルな手段を講じること)は、希望を持てるもう1つの理由を提供する。 それでも、動的なシステムと最善の意図の性質上、そのような国際的な手段に予想外の結果が起きることを予想しなければならない。

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風船効果: グローバルコモンズの管理で予想外を予想する by ロバート・ブラジアック、クリストファー・ドール、および蓑原茜(みのはら あかね) is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 4.0 International License.

著者

クリストファー・ドール氏は2009年10月に、東大との共同提携のうえ、JSPSの博士研究員として国連大学に加わった。彼が主に興味を持つ研究テーマは空間明示データセットを用いた世界的な都市化による社会経済や環境の特性評価を通し持続可能な開発の政策設計に役立てることだ。以前はニューヨークのコロンビア大学やオーストリアの国際応用システム分析研究所(International Institute for Applied Systems Analysis)に従事していた。ドール氏はイギリスで生まれ育ち、ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジにてリモートセンシング(遠隔探査)の博士号を取得している。

ロバート・ブラジアック氏は、東京大学大学院農学生命科学研究科のリサーチ・フェローで、持続可能な漁業の管理における国際協力の可能性について研究している。現在、国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)のFUKUSHIMAグローバルコミュニケーション事業に関わっており、また以前は同大学のSATOYAMAイニシアティブにも取り組んでいた。

簑原 茜氏は、東京大学大学院農学生命科学研究科の特任研究員である。 彼女は、2011年3月の東日本大震災以降、被災した東北の漁村コミュニティの復興と再活性化に向け、地元住民の方々や多用な関係者と一緒に取り組んでいる。以前は、国連大学のSATOYAMAイニシアティブの国際パートナーシップ(IPSI)事務局に勤務しており、そこでも里山・里海コミュニティの震災からの復興に尽力した。