パキスタンに新天地を求めるGM企業

活動家によると、近年のインドでの逆風を受け、遺伝子組み換え(GM)種子を扱う企業は今や、次なるフロンティアとしてパキスタンに的を絞っている。

「そうした企業は、GM作物の屋外試験栽培禁止によって被る市場損失の回収を狙っているのです」と環境運動家であり食料安全保障の専門家であるAzra Sayeed(アズラ・サイード)博士はインター・プレス・サービス(IPS)に対して語った。 サイード博士はそうした動きについて、「帝国主義企業の新たな猛襲」であり「飽くことのない利益欲」の表れと評している。

インドの最高裁判所により設置された技術専門家委員会は7月23日、GM作物の規制と安全性に関する適切なメカニズムが政府から示されるまで、屋外試験栽培の無期限停止を勧告した。

農業国会常設委員会も2012年8月の報告書において、インドにおけるGM食用作物の禁止を求めており、また2012年3月には、ビハール、マドヤ・パラデシュ、ケーララ、ウッタラーカンド、カルナータカの5州において、あらゆるGM 種子について環境放出の禁止が決定されている。

サイード博士は、貧困層の食料への権利を擁護するカラチ拠点の非政府組織Heading Roots for Equity(公平性の追求)代表を務めているが、多国籍企業モンサント、パイオニア、シンジェンタの3社が最近、パキスタンのMinistry of National Food Security and Research(国家食料安全保障・調査省)   に対してGMトウモロコシおよび綿花の栽培開始を申請したことに警戒を強めている。

また、パキスタン環境保護庁に対しても環境影響評価が要請されている。

米国に本社を置く巨大農薬メーカーのモンサントは、同社が独自に実施した試験栽培に基づいて遺伝子組み換えトウモロコシに対する承認を得ようとしている、と話すサイード博士は、GM食品と作物に対するインド政府の無期限停止措置について、「極めて進歩的な国民寄りの政策」と賞賛する。そして、インド政府による停止措置の理由はパキスタンにも同様に当てはまるとして、そうした措置をとらなければ、「国産食用作物が衰退するだけでなく、小規模農家や小作農がさらに壊滅的な影響を受けることになるでしょう」と述べている。

インド全土において、とくに10年以上前にGM綿実が導入された地域で、農民の自殺が急増したことにより、GM作物が貧困農家世帯の収入に及ぼす影響が注目されるようになった。

2008年のデリー会議における、農民自殺とGM作物の因果関係へのチャールズ皇太子の言及は、主に米国を拠点とするGM 食品企業からの圧力に屈するインド政府に反対する運動家を活気づけることになった。

それでは何故 、GM という言葉はそんなに否定的に受け取られ、人々に敬遠されるのだろうか。

パキスタンの首相諮問機関であるCommission on Climate Change(気候変動委員会)メンバーである経済学者Pervaiz Amir(パーバイズ・アミール)氏は、多くの人にとってGM は「モンスターを創り出す制御不能な突然変異であり、種や変種の組成を遺伝的に操ることで神のごとく振る舞っていると見られています」とIPS に対して語った。

だがGM製品擁護派は、GMが生産性向上に繋がると主張する。とは言うものの、生産性の壁の打破と食品安全保障の実現には、GM技術だけが唯一の選択肢ではないと主張する専門家も存在する。

「肥料や農業機械といった投資の増強と水管理の向上、また幾つかの制度的制約の撤廃によって、作物全般における現在のパキスタンの生産量を倍増できる可能性があります」と述べると同時に、食料安全保障に関する国の意志決定に市場が果たす役割は極めて重要であると、アミール氏は言う。

パキスタンは、自国のみならず中東やアフガニスタンまた中央アジアの一部の国々にとっても食料供給源であり、「ポテンシャルそして科学力も備えてはいるものの、生産力最大化のための管理能力が欠けているのです」と語るとともに、GM種子を無人攻撃機になぞらえて、「制御不能になれば、国家主権を含めてほぼすべてを失うことになります」とも述べている。

カラチを拠点とする活動家であり2000年Corporate Farming Ordinance(企業農業令)に基づく借地契約を無効とする公益訴訟を最高裁で争う準備を進めているYusuf Agha(ユサフ・アガ)氏は、「農業関係者以外に農地所有を認めていない1929年Punjab Tenancy Act(パンジャブ賃借権法)に違反しています」と述べ、多国籍企業がパキスタン農業市場に入り込み農家にGM 種子を売り込むことに成功するなら、農家が何世紀にもわたって培ってきた自然由来の種子バンクが失われることになるだろう、と警告している。

今年7月には、インドのグジャラート州において有機栽培農家500人が、遺伝子組み換え種子の侵入に対抗して独自の種子バンクの立ち上げを発表している。

「GM種子は全面的に禁止すべきであり、全人類のものである再生可能な自然資源に特許や独占を認めるべきではありません」と、20年間にわたりパキスタン農業の動向を研究してきた環境運動家のNajma Sadeque(ナジャマ・サデク)氏は主張している。

サデク氏の著書「The Great Agricultural Hoax(農業についての大ぼら)」は、GMに依存した作物や生活がもたらす「悪影響」についてさまざまな情報を集めたものである。

だが一方で、UNESCOにも認められた科学者のAtta-ur-Rahman(アッタ・ウル・ラーマン)教授は、IPSのインタビューで、 GM食品は健康に有害なものではなく、「有害であることを証明する事例は世界中探しても1件もなく、恐怖心の表れにすぎない」と主張する。

だがラーマン教授は、パキスタンには自国開発技術によってGM作物を栽培する必要があるとして、次のように述べている。「輸入種子には、最初の収穫から採取された種からは作物を収穫できないように、デス・コマンドが埋め込まれている場合が多いのです。ですから永久に種を購入しなければならなくなり、私たちは外国の搾取を受け易くなると懸念されます」

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本記事は、開発、環境、人権、市民社会などのテーマを扱う独立系通信社インター・プレス・サービスの許可を得て掲載しています。

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著者

ゾフィーン・エブライム氏は、カラチに拠点を置くジャーナリストで、2001年からフリーランスとして活動しながら、パキスタンのDawn や The News といった英字日刊紙、時事問題を扱うHerald や Newslineなどの月刊誌に寄稿し、またオンライン新聞 Dawn.comでも執筆している。またエブライム氏は様々なNGOやINGOのコンサルタントもしている。フリーランスのジャーナリストになる前は、パキスタンの主要英字新聞であるDawnの専属ライターとして勤務していた。その24年以上にわたるジャーナリズムでの経歴において、エブライム氏はパキスタン国内で広くまた国際的にも称賛されている。