アフリカの巨大湖が枯れるとき

チャド湖は文字通り、“砂漠のオアシス”から単なる“砂漠”へと変貌してしまった。
チャド、ナイジェリア、ニジェール、カメルーンの4カ国にまたがり、サハラ砂漠と国境を接するチャド湖は、1963年から2001年までの間に実に95%の面積を失った。

NASAの衛星写真と、サークル・オブ・ブルーの時系列映像は、かつて世界第6位の湖面面積を誇った湖が、急速に縮退していったことを物語っている。

国連環境計画は、元々、水深の浅かったチャド湖が縮退した理由に、気候変動と農業用水への高需要をあげている。

過放牧や非持続可能な灌漑による管理の甘さが原因となり、外来種の植物(今では湖の50%を占める)が自然植生を覆い尽くし、森林破壊や干ばつをも引き起こしている。

水を注いで混ぜる

地球環境に関する議論は、発展途上国の気候や紛争問題と一体化して考えなければならない。気候変動における「影響、順応、脆弱性」に関する政府間パネル(IPCC)の第4次評価報告書のアフリカチャプターでも、気候変動と紛争の関連性を示している。

実際、1991年初頭には、トーマス・ホーマー・ディクソン氏(と平和と紛争の専門家たち)は、チャド湖のような地勢における気候変動と紛争の未来関係を予測していた。

「水、森林、漁業資源などの資源不足に由来する戦争や暴力が増加するだろう」(「限界点:深刻な紛争の原因となる環境変化」より)

集水域に住む2千万人の飲料水であるチャド湖の水資源は、今後の紛争の火種になりかねない。気候変動によって悪化した水不足は、人口増加、病気の蔓延、政治的弾圧や汚職などのさまざまな問題を引き起こすに原因となる。

アフリカでは、共有の水資源が減少している。アンゴラ、ボツワナ、マラウイ、モザンビーク、ナミビア、ザンビア、タンザニア、ジンバブエの南アフリカ8カ国を流れるザンべジ川流域は、汚染と管理不足のために水量が大幅に減少した。

また、ボツワナとナミビアにまたがるオカバンゴ川の流域変動は、すでに両国間で軍事衝突を引き起こしている。

世界水戦争を口にするべからず

このような問題がアフリカだけで起きていると思うなら、もう一度考え直してほしい。3月22日の国連「世界水の日」にちなんでワシントンDCで行われた環境映画フェスティバルで上映された新作映画『ブルーゴールド:世界水戦争』では、淡水枯渇が世界中で起きていることを浮き彫りにした。

また、先週トルコのイスタンブールで開催された第5回世界水フォーラムの目標の1つは、水問題を政治課題に取り入れることだった。一般市民がこの問題の重要性を意識するようになれば、“政治的コミットメント”という次なる目標を達成することができる。

ブルー・プラネット・プロジェクトの共同創立者である活動家モード・バーロー氏は、国連シニアウォーターアドバイザーであり、また画期的な著作『ブルーゴールドとブルーコベナント(契約)』の著者である。

バーロー氏は、世界的な水不足を“多国籍企業と国際機関(ユネスコのような国連機関も含む)VS 水を共有財産として捉える運動家たちの戦い”だと述べている。

前者にとって、水は“経済財”で、採算のとれる経済投資として搾取する対象だが、後者にとって、清潔な水へのアクセスは、まだ現実化されていない基本的人権である。

しかし、チャド湖をはじめとする水問題の核心は、以下の重要な矛盾点にある。無料、または安価な水へのアクセスが、非持続可能な水使用を招き、水供給に回復不能なダメージを与えてしまったことだ。また、水の価格付けを市場に委ねれば、理論上、効率は高まるが、実際には貧しい人々は水へのアクセスを失ってしまった。この議論については、アグアノミックス・ブログに興味深い考察を見つけたので参考にしてほしい。

資源の平等性と効率性の両方の原則を満たし、次世代の人たちが水の恩恵を享受し続けるようにしなければならないことは明らかだ。

将来に向けた舵取り

オスロの国際平和研究所(PRIO)の4人の研究者たちは、世論に反して、 “気候変動と紛争の関係は、確かな証拠により立証されていない”と述べている。

実際、過去の多国籍間の水管理を検証すると、「紛争」よりも「協力」の方が一般的だ。国連によると、過去60年の間に、水問題で暴力行為が報告された国家間の紛争は37件あるが、この間に締結された国際合意は200件以上に及ぶ。ボツワナとナミビアのようにかつて敵国だった国々が、オカバンゴ川を共有することで合意している例もある。

まさにチャド湖の水問題にふさわしく、2009年世界水の日の目標は「越境水資源:水資源と機会の共有」である。

そこで、専門家たちが出した答えは、地球、地域、地方レベルで水の“有効管理”をすることだ。5カ国から成るチャド湖流域委員会は、流域に残る貴重な自然資源の利用を制限し、国連をはじめとする国際機関からの、より積極的支援を期待している。

さらに、集水域の多国籍企業や小規模農家が営む経済活動は、環境に配慮した予防原則に基づいて展開されなければならない。

チャド湖を救うため、周辺のコンゴ川の豊富な水を引く長期計画もある。また今後、未開発の地下水帯水層を利用して、いわゆる地下水革命が実現化される可能性もあり、期待が持てそうだ。

しかし、水のライフラインを確保できたとしても、持続可能な管理ができないという同じ問題が再度生じる可能性が高い。極度の貧困を解決するための地域独自のアプローチを打ち出さない限り、トップダウンのアプローチでは成功しないだろう。

チャド湖の縮退が現在のスピードで進めば、この湖から基本的生活の糧を得ていた流域の人々は、この土地を手放し移動せざるを得ないだろう。だからといって、誰も彼らを責めることはできない。

しかし、文字通りの“砂漠”から“希望のオアシス”が出現する可能性はまだ残されている。そうでなければ、チャド湖は歴史上の湖となってしまうだろう。学ぶべきことが多く残された歴史として。

ブルーゴールド:世界水戦争』の国別映画公開情報サイトはこちらをご覧下さい。

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アフリカの巨大湖が枯れるときt by マーク・ ノタラス and オビジオフォー・ アギナム is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

著者

マーク・ノタラスは2009年~2012年まで国連大学メディアセンターのOur World 2.0 のライター兼編集者であり、また国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)の研究員であった。オーストラリア国立大学とオスロのPeace Research Institute (PRIO) にて国際関係学(平和紛争分野を専攻)の修士号を取得し、2013年にはバンコクのChulalpngkorn 大学にてロータリーの平和フェローシップを修了している。現在彼は東ティモールのNGOでコミュニティーで行う農業や紛争解決のプロジェクトのアドバイザーとして活躍している。

国連大学国際グローバルヘルス研究所(クアラルンプール)の副所長であり、シニア・リサーチ・フェロー兼グローバルヘルスガバナンス部門長も務めている。